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「自分は福島で行ったところ、やったことすべてが楽しかった」~「いちえふ」作者・竜田一人氏インタビュー~

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原発作業員のルポタージュとして、モーニング本誌掲載以来、国内外から大きな注目を集めたマンガ「いちえふ 福島第一原子力発電所労働記 」。10月23日には最新刊の第三巻が発売され、来年には、スペイン、フランス、ドイツ、イタリア、台湾など海外での展開も決まっているという。作者である竜田一人氏に、2014年までの福島第一原発内部の様子や今後の活動予定について聞いた。【取材・文:永田 正行(BLOGOS編集部)】

原子炉建屋と言われる建物の一部の中で働けることが大きな進歩


-メディアでは、「こんなに復興が遅れている」という話の方がクローズアップされがちですが、最新刊である3巻を読むと確実に作業が進んでいる様子が感じられました。また、1F(福島第一原発)の中に食堂がオープンするという話なども描かれており、労働環境もかなり改善されているようですね。

竜田:そうなんですよ!食堂は、執筆段階では「もうすぐ出来る」と言うことだったのですが、現在ではオープンしています。そんな風に段々、“普通の職場”に近づいていくというのは嬉しいですよ。

それまでは、コンビニでおにぎりやお弁当、カップラーメンなどを買ってきて食べていたのですが、排水口が無いのでカップラーメンの汁は全部飲まなきゃいけないという掟もありました。それが今や食堂が出来て、なかで普通に温かいご飯が食べられるようになった。食堂があるということは、お金を払って買うわけですから、1Fの中で貨幣経済が復活したことを意味します。私はまだ利用したことがないのですが、これには本当に文明化を感じますね。

-2F(福島第二原発)では、ジョギングしている人がいるというような描写もありました。

「2013 Kazuto Tatsuta / Kodansha Ltd. All rights reserved.」
竜田:2Fなんて本当に今や普通のところですから。 作業員の装備も軽くなってきているので、それだけでも良い方向に向かっている証拠だと思いますよ。私が最初に働きだした頃は、Jヴィレッジから防護服を着て、国道6号線の途中から全面マスクをつけるという感じでした。それ以前は、Jヴィレッジから全面マスクで往復していたそうです。それが今では、1Fの中に入るのも作業服でOK、マスクもサージカルマスクという花粉症や風邪の時に付けているようなマスクになりましたからね。

-労働環境も含めて作業は確実に進捗しているということですね。特にそれを感じたエピソードはありますか?

竜田:以前との違いを大きく感じるということで言えば、原子炉建屋の中でも余裕で休憩しているということですね。

-ちょっと居眠りしたりなんていう描写もありますね。

竜田:1号機大物搬入口の2階ですから、格納容器などがあるところとは違うのですが、曲がりなりにも原子炉建屋と言われる建物の一部で居眠りが出来る状況というのは、かなりの進展だと思います。

「皆さんに対して『ありがたい』と思っています」


-3巻を読んで意外に感じたのは、同僚の作業員の方の中にも、放射線に対して過剰に警戒しているような方もいるということでした。

竜田:そういう人も結構働きに来るんですよ。

1Fの中で働いている人の全員が全員、放射線に対して正しい知識があるわけではないですし、極端に煽られた報道を信じてしまっている人もいます。それでも、やはり過剰に気にしていてはやっていけないですから、みんな普通に働いているのです。そして、やっているうちに段々慣れてくるというか、普通に働けるようになって、多くの人が「外で心配していたほどではないじゃん」と感じるようになっていると思います。

もちろん、放射線は正しく警戒する必要はあるので、あまり慣れてしまうのも問題です。警戒心が残っていた方が、被爆を低減するための工夫やアイデアを思いつくので、かえって役に立つというケースもありました。

-2012年に働き始めてから、一番辛かったことは何ですか?

竜田:辛かったというのとは違いますが、1Fに働きに行く中で、快適ではなかったことといえば、最初の会社の寮で人が増えすぎた頃ですね。でも、これは作業内容の問題ではなく、住環境の問題なんですよ。だから、それはもう「福島だから」「1Fだから」という話ではありません。

-逆に楽しかったことはありますか?お休みの時間に温泉を回ったりしていたようですが。

竜田:温泉は楽しかったですね!福島で暮らしていた時間は、住環境が大変だった時も含めて楽しかったですよ。友達もたくさんできましたし。

さっきの会社の寮が快適じゃなかったという話をしましたが、その会社の人が最初にボランティアで仮設住宅に行くきっかけを作ってくれたんです。だから、本当にお世話になりましたし、恨みに思ったりもしていませんし、皆さんに対して「ありがたい」と思っています。

-竜田さんは非常にポジティブですね。

竜田:よく言われますけどね(笑)。

もちろん思いっきりネガティブに捉えようとすれば、さっきの住環境の話にしても、人間関係の話にしても、いくらでもネガティブに描けるでしょう。でも、本人がネガティブに感じていないわけですから、それを敢えてネガティブに描いてしまうと、それは嘘になってしまいます。

私の元々の性格的なものに起因する部分もあるかもしれませんが、本当に福島に関して、行ったところ、やったこと、すべて楽しかったので、悪く描きようがないんですよ(笑)。

-一般化するのは難しいと思いますが、悲壮感を持って働いている方というのは、竜田さんの同僚にも、それほどいなかったのでしょうか。

竜田:いないですね。もちろん、みんな様々な事情を抱えて来ているんですよ。会社を潰したからとかいう理由で元社長がいたり、公務員が仕事なくしてとか、それぞれに色々なドラマがあると思います。でも、働いている時は、そんなの関係なしにやっていましたし、会社の待遇なんかに対して文句は言うけれども、それなりに楽しくやっていましたから。

もちろん、人によって感じ方は違うので、「ふざけんな、俺は辛かったんだ」と言う人もいるでしょう。会社や下請けのランク、人間関係なども含めて運に左右される部分もあると思います。そういう意味では私は運が良かったですね。

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