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恐るべしNHKスペシャル

私は民間放送からネット企業・ドワンゴに来てドキュメンタリーの企画・制作・購入・放送に携わっているが、先日の10月25日凄いレベルのものを見てしまった。NHKスペシャル「新・映像の世紀・第一集・100年の悲劇はここから始まった」第一次世界大戦の一部始終を描いたドキュメンタリーである。

正直、Nスぺは出来不出来があると思う。「ドキュメント太平洋戦争」等の傑作から「?」と思うものまであるが、現在この様なハイレベルの物をNHKが作って来るとは新鮮な驚きであった。これを見るにつけテレビはコンテンツ勝負だし決して捨てたものではないと心強く思った。もちろん娯楽番組ではない、正統派歴史ドキュメンタリーである。

第二次大戦の事しかほとんど知らない私としてはここで描かれた第一次世界大戦のエグさにのけ反り、心から戦慄した。その後、現在に至る世界の100年の憎悪の連鎖と軋轢と悲劇は全てここから始まっているのが実写映像と詳細な調査でリアルにわかる。英・米・仏・独・露が欧州・中東の覇権・利権をめぐって容赦無い闘いが始まる。最初は為政者により戦意を高揚されて戦場へ行くのが嬉しそうなイギリス兵士達の姿。しかし、彼らは後に本物のHELL(地獄)を見ることになる。

第一次大戦終結時の犠牲者、実に30カ国の3800万人及ぶ。戦争では最新テクノロジーを持った国が強い。ノーベル賞化学賞受賞者のハーバー博士の開発した新兵器の毒ガスの使用模様・最新型戦車の隊列・新型爆撃機から降り注ぐ無数の爆弾や長い長い塹壕などで虫けらの様に死んでゆく兵士の無数の遺体の映像。ハーバー博士は毒ガス開発に反対する友人のアインシュタインに「戦争の早期終結のために兵器を開発している。」と説明するが、毒ガス使用による戦地の混乱で戦争は却って長引く結果となる。ハーパー博士の妻は悪魔の兵器を開発をし続け嬉々としている夫に絶望し自殺する。

また、こんなことも描かれる。あのアラビアのロレンスはアラブ独立の砂漠の英雄などではなく、英国から送られて来た情報将校でトルコからアラブに至る広大なオスマントルコ帝国の利権の奪取と分断、新エネルギーの石油の確保、さらにアラブのファエサルを籠絡するために派遣された密偵だったとは。彼は作られた英雄で、現在の中東紛争の火種を最初に作った人物そのものだったのだ。英・仏がオスマントルコの利権を山分けしようとする強欲な姿も映しだされる。

ここでは英国は途轍もなくエグい。戦費が底をついた英国は兵器を製造させて膨大な利益を上げていたアメリカ合衆国に参戦を持ちかけJ・モルガン等の大物実業家やウォール街を動かす。(軍需大臣はあのウィンストン・チャーチル)さらにウォール街のユダヤ人大立者達を惹きつけるため戦勝国側はロシア兵などから大量殺戮され、欧州を脱出し難民となったユダヤ人の為に無理やりイスラエルを建国させる。ユダヤの人達にとっては希望の地であったかも知れないが、追い出された人々は堪らない。これも後々中東の火種になる。

第一次大戦集結後、敗戦国となったドイツは何故かアメリカのウォール街から来た金融王達によって決められた取り決めによってドイツの20年分の国家予算に当たる途方も無い賠償金を戦勝国に支払うことになる。敗戦の上、絶望したドイツ国民は戦勝国に対して憎悪の塊となり、その憎悪を後にヒットラーが利用して欧州の覇権を狙い欧州全土を煉獄の地獄にする。アドルフ・ヒットラーという独裁者を生みだした歴史的背景もわかってくる。(一般的概念では独裁者ヒットラー一人だけが悪人と言う風なっている場合もある。)

ロシア帝国を倒しソビエト連邦を建国し共産党一党独裁国家を生みだしたウラジミール・レーニンは極悪非道で、強制収容所・秘密警察・密告制度を考案し数十万人の命を奪う。後にさらに非道なスターリンがこの制度をさらに拡大し大量粛清・収容所送りをし恐怖国家を作り、大虐殺・大飢饉を起こす。

日本も当時の同盟国・英国に促されドイツに占領されていた中国の青島を占領し後の中国進出の足掛かりを付ける。日本と太平洋を挟んだアメリカは日本の帝国主義・軍拡路線・植民地主義への傾倒を警戒し始め、これが後の日米開戦の遠因の一つになる。

第一次大戦中ある兵隊は語る。「この地獄の様な戦場を忘れるには酒と女しかない。」こうして国家によって慰安婦施設が生まれ、梅毒が蔓延がする。

まさにおぞましい歴史。陰謀史観で有名な広瀬隆氏の著作を元にした訳ではない。天下のNHKが制作したこの番組の描く世界はいわゆる悪党・悪人・無法者どころではない覇権の奪取に狂った権力者・怪物達の恐怖の宴を映しだす。綿密な調査の上で放送されたであろうこの番組の解釈は色々あるであろうと思うし、この歴史で描かれていた事はある意味、第一次大戦に関する一般常識だったかもしれぬが、まったく勉強不足だった私はわずか、わずか1時間の凝縮された番組を見て圧倒され何か霧が晴れた感じがした。また、番組に誤謬があってはならぬから、水面下でかなりの厳密なリサーチが行われたと想像できるし、この手のものは、放送するのには大変な勇気がいるものである。それは私のつたない経験からもわかる。そして、こういう事を本で勉強するのも良いが、プロによって緻密に作られた映像コンテンツで見ながら学ぶのも良い体験だった。密度の濃い情報と的確な表現と構成とナレーション。また、安易に再現映像にせず、これだけの映像を世界中のアーカイブから集めて来た努力と執念には同じプロとして脱帽せざる負えない。おそらく、各地の映像倉庫のコンピューターで検索した後も、実際にライブラリーで肉眼でフィルムを1本1本確認しないと使用を決断できないからだ。またそういう裏の努力を微塵も見せない作りにしたスタッフの腕と品格にも敬意を表する。こういう番組を見ると、日本にも敬服に値する作り手が存在する事にある種の安堵を覚える。こういう番組の制作と放送は大げさに言うとNHKにしか出来ない一種の文化事業とも言えるかもしれない。

「わたしたちの生きている世界自体が第一次世界大戦の産物である」というこの番組のコピー。そしてこの番組の中でも出てくるがあのSF作家H・G・ウェルズが数々の新兵器と原爆の出現まで予見し全てお見通しだったとは驚きだった。

そして大戦終結後わずか20年後第二次世界大戦が始まる。遠因は第一次大戦の歪(ひずみ)だった。国力を増したヒットラーのドイツ軍がポーランドへ侵攻したのが始まりだった。世界最初の大戦は9・11テロにもイスラム国にも繋がる出来事であった。

巨大組織だからNHKの番組も玉石混合であろうし、色々事情もあろうが・・・この放送を見て改めて「恐るべしNHK」と思うのだった。

(了)

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