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プーチン大統領の歴史的支持率89.9%に見るロシアの未来

シリア軍事介入で支持率上昇

国営ロシア世論調査センターによると、プーチン露大統領の支持率が史上最高の89.9%を記録した。これまでの記録は6月の89.1%。同センターの分析では「テロリストの支配地域を空爆したシリア軍事介入と支持率の上昇には関係がある」という。

プーチン大統領
アイス・ホッケーをするプーチン大統領(C)ロシア大統領府

 世論調査の対象は1600人。9月30日に始まったシリア空爆後、プーチン大統領は軍事的な動きを活発化させている。米ワシントンのシンクタンク、戦争研究所(ISW)の報告書を中心におさらいしておこう。

【キューバ】

10月14日に米政府高官が、キューバの準軍事組織や特殊部隊がシリア政府軍と一緒に戦うためにシリアに派遣されたと非公式に発言。ロシア国防省首脳が2国間の軍事協力を協議するため駐モスクワ・キューバ大使と面会。

【アフガニスタン】

15日にはアフガニスタンへのロシア大統領特使が「兵器(攻撃ヘリ、ミル24)を供与すれば、米部隊以上にアフガン政府を助けられるだろう」と発言。

【イスラエル】

同日、ロシア国防省がシリア領空でイスラエル空軍の攻撃機と衝突しないようにホットラインを設置したと発表。

【イラン】

16日には、10月末にイラン軍の上級将校が2国間の軍事協力を協議するためモスクワを訪れると発表。

【カザフスタン】

同日、プーチン大統領が旧ソ連諸国の指導者たちと合同の国境警備隊を創設することで合意。カザフスタンとアフガンの国境に合同警備隊を展開する可能性がある。

【エジプト】

19日、イワノフ大統領府長官がエジプトに対して計10億ドル相当のヘリとヘリ空母2隻を売却する考えを表明。

【ジョージア】

同日、ジョージア(旧グルジア)から事実上独立した南オセチア共和国のチビロフ大統領がプーチン大統領側近と会談中、ロシア編入を問う住民投票を実施する頃合いだと発言。

【イラク】

同日、駐バグダッド・モスクワ大使がイラクのアバディ首相と会談。情報機関の情報共有や武器取引を含めた2国間関係を呼びかける。

【米国】

20日、シリア領空で衝突回避のため米国とロシアが覚書を交わす。

【ベラルーシ】

21日、北大西洋条約機構(NATO)の東欧諸国での活動に対応するため、ロシアとベラルーシは2016年に「合同軍事機関」を創設することを計画しているとショイグ・ロシア国防相が発表。

【北方領土】

22日、ショイグ国防相が北極圏戦略の一環として、クリール諸島(北方領土を含む千島列島)に軍事基地を増強すると表明。

大成功を収めるプーチン戦略

プーチン大統領によるシリア軍事介入は短期的にみると、クリミア編入と同様に大成功を収めている。米露両国がそれぞれ空爆を行っている地域について覚書を交わしたことで、アサド大統領が支配するエリアは事実上、固定化されるからだ。

ロシア軍はシリア西部ラタキアの空軍基地に大型の戦闘爆撃機Su-24(スホイ24)、近接支援攻撃機Su-25(スホイ25)、多用途戦闘機Su-30(スホイ30)、戦闘ヘリコプターMi-24(ミル24)を配備した。

米軍のパトリオットミサイルに相当する長距離鑑対空ミサイルS-300を搭載した巡洋艦モスクワもラタキアに展開している。プーチン大統領はアッという間に地中海東部に北大西洋条約機構(NATO)に対する接近阻止・領域拒否能力を構築してしまった。

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シンクタンクの討論に参加したジェレミー・シャピロ氏(筆者撮影)

米シンクタンク、ブルッキングス研究所のジェレミー・シャピロ研究員はこう語る。「もし米国がロシアと同じような大胆さと愚かさを持ってロシアのシリア軍事介入に反応すれば、愚かさここに極まれりになるだろう」

シャピロ氏は北アフリカ、シリア、レバノン、イスラエルについて米国務長官のアドバイザーを務めた中東問題の専門家だ。

米国のオバマ政権は、アサド大統領の退陣と引き換えにシリア政府と反政府勢力が妥協を図るという構図を描いていた。しかし「アサド抜き」というシナリオがなくなった今、サウジアラビアやトルコが妥協に応じる可能性は極めて低く、シリア内戦はさらに泥沼化する恐れがある。

ロシアの限界コストは1バレル=18ドル

プーチン政権の原動力は原油と支持率、軍事力だ。原油価格(ドル/バレル)は原油市場が供給過剰になったため、米国市場の指標価格WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は1バレル当たり100ドル台から暴落。9月は45.48ドルだった。

原油価格の推移
出典:米エネルギー省(EIA)データをもとに筆者作成

プーチン大統領の懐はグラフを見ても分かるように以前ほど潤沢ではなくなった。1980~90年代に原油価格は1バレル当たり10~20ドルを低迷し、旧ソ連崩壊につながった。1998年12月には欧州市場の指標価格ブレントは9.82ドルを記録した。

今回の原油価格の暴落で旧ソ連の崩壊プロセスが再現されるかというと、そうはならない。中国経済の減速で原油需要は減ったとはいえ、需要がさらに冷え込む気配は今のところない。

ロシアの原油生産(オンショア)の限界費用は14年時点で1バレル当たり18ドルとされる。原油価格が20ドルを割り込むような状況にでもならない限り、プーチン大統領はしぶとく生きながらえる。

プーチン大統領は、生活への不満をかわすため、ウクライナのクリミア編入やシリア軍事介入を強行して国民の心の中にある大ロシア主義をくすぐる。新聞、TV、インターネットを駆使して、ナショナリズムをあおり、支持率を上昇させる。国営ロシア世論調査センターの世論調査もプロパガンダの一環だ。

軍事支出もうなぎ上り

プーチン大統領は旧ソ連時代に時計の針を逆戻りさせようと、軍事支出を増やしてきた。下はストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のデータをもとに作成したロシア軍事支出の推移だ。

ロシアの軍事支出
出典:SIPRIデータをもとに筆者撮影

2015年の軍事支出は3兆1079億ルーブル(原油価格は1バレル当たり50ドル)。16年は2兆9309億ルーブル(同60ドルを想定)、17年は3兆646億ルーブル(同65ドルを想定)、18年は3兆650億ルーブル(同70ドルを想定)と頭打ちになると予測している。

一方、英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)によると、ロシアは2011~14年の間に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を計46発(推定)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を50発(同)、軍事衛星を30個、戦闘機91機以上など調達し、軍の改革・近代化を進めている。

プーチン政権になって、ロシアの民主化、経済の自由化は完全に後退し、逆に国家統制が強まった。欧米諸国がウクライナ危機やシリア軍事介入などの揺さぶりに屈して経済制裁を緩和すれば、プーチン大統領に塩を送ることになる。

原油価格が再び上昇に転じない限り、ロシア国民を待ち受けるのは長期にわたる衰退と、泥沼化した紛争に介入した大きなツケだ。しかし、徹底したプロパガンダでロシア国民とプーチン大統領の一体化が進んでいるのだろうか。

(おわり)

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