記事

高齢化社会におけるロボットの役割を考える



「ロボットと生活をともにすると、ロボットが人間のように見えてくる」。最近、ロボット関係の起業家を取材することが多くなっているのだが、彼らは異口同音にそう語る。「体験してみないと分からないですよ。ロボットをこれまでの電子機器と同等に考えていては、その可能性を見誤ることになりますよ」。

ソーシャルロボットと呼ばれるコミュニケーションに主眼を置いたロボットが今後、次々と発売されようとしている。職業柄、起業家の友人が多いが、ロボット事業に乗り出す人がちらほら出始めた。センサー、駆動装置、人工知能・・・。それぞれの機能がモジュールとして独立して、それらを組み合わせるだけで、だれでもロボットを開発できる時代になりつつあるという。「大事なのはどういう用途にロボットを使いたいのか。ロボットで困っている人の課題を解決したいという強い意思があればいいんです」と、あるロボット研究者は語る。そうしたロボット全盛時代がくる前に、ロボットの可能性を正確に理解したい。そう思って、友人である株式会社テレノイド計画の神山晃男社長に相談し、ユーザー体験させてもらうことにした。

といっても体験するのは私ではなく、私の母親。母は、9年前に父が死んでから大阪でひとり暮らし。心配なので、月に一度は帰省して様子を見るようにしている。

見守りサービスも検討したのだが、生存確認するだけのデバイスというのもなんだか抵抗がある。できれば母親が喜ぶようなもの、生きがいになるようなものを母に与えたい。そう考えて2、3年前にiPadを買い与えた。

母は、贈った僕がびっくりするぐらいに、iPadを使い倒している。ほとんど一日中、iPadを触っている。主な用途は、ゲームだ。ソリティアは、もう何百万回もプレイしている。LINEのゲームもほとんどやっていて、孫たちと点数を競い合っているようだ。「つむつむ」の点数を見れば生存確認は可能だ。でもなんだが、引きこもりがちなゲーマーみたい。もう少し、ほかの人との交流を楽しめるようなサービスはないものだろうか。

もちろんLINE電話で話をするときもあるのだが、たいていは用件だけ。母から電話をかけてくることはほとんどない。子供も孫もそれぞれの生活で忙しく、それを邪魔したくない。そういう思いがあるのだと思う。電話はあくまでも用件を伝えるツール。つながりを楽しむツールにはなりえないのかもしれない。

ロボット関係者は「ロボットは電話とは全然違う。自然な会話になる」と言う。電話を超えたコミュニケーションツールとはどんなものなのだろう。そういう思いもあって、母にテレノイドを使ってもらうことにした。




▶「テレビで見ていたから」と、それほど抵抗なかった母

母にはテレノイドのユーザー体験の話はしていなかった。ただ次に帰省するときに、友人が訪ねてくるとだけ伝えておいた。

帰省前に嫁や息子には、母にテレノイドのモニターになってもらう話をしたのだが、嫁は「えー!テレノイドってあの気持の悪いロボットでしょ。お母さん、かわいそう」という反応。小学生の息子も「うん、あれ気持ち悪いよね」。

ひょっとすると母も拒否反応を示すかもしれない。神山さんも「もし拒否反応を示されたら、ご迷惑をおかけしてはいけないので、その場で持ち帰ることにします」と言っていた。

帰省して、そこに神山さんたちが訪問してきた。母にユーザー体験の話をし、実際にテレノイドを見てもらった。

「ああ、これこの間、夜のニュース番組でやってたやつやね」というのが第一声だった。「どう?気持ち悪くない?」と聞くと「うーん、どうかなあ」という反応。

1週間に1度、20分ほど、神山さんの会社のスタッフがテレノイドを通じて母に話しかけてくるということを説明すると「20分も話できるかなあ。あんまり人と話してないからなあ」。

それでも興味津津の様子。無線の設定などを済ませ、試しに別の部屋から神山さんがパソコンを通じてテレノイドを操作しテレノイドを通じて母に話しかけてきた。

「こんにちは」「こんにちは」。会話が始まると、母の表情が和らいだ。「今日はどこかへ出かけたの」「うん、買い物に行ってきてん」「何買ったの?」「お刺身とか、お好み焼きとか」。神山さんの絶妙なリードで、会話がスムーズに流れる。

「テレビで見たことあったからかなあ。全然抵抗ないで」と会話の合間に、横にいた私に母が話しかけてきた。「なんかかわいいけどな」。

「あ、ありがとう」とテレノイド。「全然気持ち悪いことないで」と笑う母。

その後も母は、饒舌に自分の身の回りの話をし始めた。あっという間に20分が過ぎた。


▶饒舌になった母

テレノイド体験が終わり、神山さんが母のいる部屋に戻ってきた。機材の撤収作業を始めても、母の話は止まらなかった。

「歳を取ると、同じことを何度も言う人いるでしょ。それで話し相手がいないので、頻繁に電話をしてくる。そんな人にはなりたくないんです。ああこの人、ひとり暮らしで寂しいから電話してきてるんやな、って思われたくない。そやから、自分からあまり電話せえへんのです。それでだんだん電話せえへんようになって、ボケていくんとちゃうかなあ。なんか悪循環やなあ」。「息子(私のこと)とは、全然話しません。仕事の話を聞いても分からへんし。帰って来ても、ごはんできたで、ぐらいしか言いません。息子は息子でパソコンに向かって仕事してるし、わたしはわたしでiPadでゲームしてるし。一緒にいてても、別々のことしてますねん。そんな時代になったんやね。ええんやら、悪いんやら」。

ここまで饒舌な母を久しぶりに見た。本当は話をしたい。でも若い人の迷惑になりたくない。そう思って抑え込んでいたコミュニケーションの欲求が、テレノイドとの対話が呼び水になって、一気に堰を切ったように流れだしたのかもしれない。

「これ(テレノイド)はええわ。これ絶対、流行ると思う。電話より、絶対ええわ。電話と全然違うね。テレビ電話もええけど、なんか違うわ。何が違うんやろ。よう分からんけど。ひとり暮らしの年寄りに絶対、人気出ると思うわ。年金ぐらしの年寄りはお金ないけど、息子世代がお金払ってくれるんなら、みな喜ぶと思うで。今度高瀬さん来たら、見せたろ。高瀬さんも絶対ほしいって言うと思うわ」。聞いてもいないのに、ビジネスの観点からの意見を矢継ぎ早に述べてきた。

子供たちの迷惑になりたくないから、寂しさに耐えようという高齢者たち。ボケたと思われるのが怖くて会話に消極的になり、それが原因で実際にボケが進むというジレンマ。高齢化社会がさらに進行する中で、こうした問題を抱える高齢者が増えてくるのだと思う。ロボットがこうした状況の打破に少でも役立つのなら、自分に何かできるのなら、非力ながらも貢献したい。

神山さんのご厚意で、しばらくテレノイドを使わせてもらうことにした。これからテレノイドとのコミュニケーションを通じて母がどのように変わっていくのか。ロボットがいる暮らしって、どんなものになるのか。ロボットにはどんな潜在的価値があるのか。実際にそれを見続けて、レポートしていきたい。

あわせて読みたい

「ロボット」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    叩かれたけど本当はスゴい4議員

    駒崎弘樹

  2. 2

    苦境に立つ元民進の大物議員たち

    BLOGOS編集部

  3. 3

    ハゲに不倫…お騒がせ議員当落は

    田野幸伸

  4. 4

    辻元清美氏に山本一郎氏から激励

    辻元清美

  5. 5

    スバルの強さは選択と集中がカギ

    片山 修

  6. 6

    「安倍ヤメロ」を煽る朝日新聞

    深沢明人

  7. 7

    ウーマン村本がLGBT当事者と激論

    AbemaTIMES

  8. 8

    衆院選自民大勝で森友うやむやに

    阪口徳雄

  9. 9

    よしのり氏 希望の党は壊滅する

    小林よしのり

  10. 10

    水戸黄門 入浴は元AKB篠田で継続

    文化通信特報版

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。