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映画「マイ・インターン」に学ぶ男性メンターの心得 - 後閑徹

テーブルの片隅から始めたアパレル通販会社を一気に成長させたジュールズ(アン・ハサウェイ)。理解ある夫と可愛い娘の協力を得て家庭生活と仕事の両立を図れるはずが、いつしか会社経営のみならず信頼する夫との関係にも問題が生じます。そんな時、シニア・インターンに採用されたベン(ロバート・デ・ニーロ)は、最初は遠ざけられながらも次第にジュールズの信頼を得ていきます。映画「マイ・インターン」から、女性メンティ(被支援者)をもつ男性メンター(支援者)の心得を学びます。

■メンターとは何か

メンターとは、「指示・命令・評価権限をもつ上司以外の者で、メンティの仕事におけるキャリア形成や職務上の悩み・課題に対しこれまでの人生経験・職場経験・知識を元に個別的に支援する者」をいいます。成果主義の導入、職場内コミュニケーションの希薄化等により弱体化した職場の人材育成機能を補完する役割を担うものです。

女性活躍推進においても、特にポジティブアクション(男女の実質的機会の平等を実現するための積極的施策)といった重大な課題に向き合う女性を支援する手法として、メンター制度は見直されています(厚生労働省ホームページ「ポジティブアクションに取り組む企業の方へ」参照)。

メンター制度は、「ロールモデルの育成およびメンター制度の導入に関するアンケート調査」(厚生労働省)によれば、以下のような直接的効果が認められています。

資料

メンティの視野の拡大、メンティ個人の希望に沿ったキャリア開発、メンティのモチベーションの向上、これらはベンと関わったジュールズにも見られる現象です。見ているようで見ていなかった身近にいる有能な人材の発見と利用、悩みながらも選択した家族と経営権の問題、前向きな決断etc.これらはベンのサポートを受けることによって為されたことです。

■ベンから学ぶこと

ジュールズに表れた効果のみならず、ベンの行動もまた先に述べたメンターの役割(定義)そのものです。ここでは、映画の中に見つけた「女性メンティをもつ男性メンターの心得」を記します。

1.自己の経験を過大視しない
ベンは営業部長や工場長といったマネージャー経験者です。しかし、その経験をひけらかし、自分の経験だけでアドバイスをすることはしません。年若い女性経営者がひとりで空回りしている様子を見ながらも決して上から目線で見ず、むしろ尊敬の念をもって接します。あくまで「彼女のやり方」を尊重し、勇気づけ、判断は彼女に任せます。

経験則とは、経験から導かれ、その不当性が未だ証明されていない仮説にすぎません。個人的経験を全面的に正しいと考えていては「彼女らしさ」が消えてしまいます。それは、男性中心の組織文化でまかり通ってきたことを女性に押し付けることに他ならないからです。メンターには、「彼女のやり方」を尊重し、メンターのもつ「経験」という別の光源でメンティの課題を照らすことが求められます。
 
2.正解のない問いに対してアドバイスをする準備が出来ているか。
映画の中でのジュールズは、会社の経営への関与の仕方と家族の在り方というワーク・ライフの課題に直面します。夫との関係修復のために折角大きくした会社の経営権を外部の人間に引き渡すか否か、ベンでさえ経験したことのない課題に取り組みます。

女性活躍推進の一環として、「職域拡大」「管理職登用」の目的で男性メンターがつく場合、女性メンティはもちろんのこと男性メンターも未知の課題に取り組むことになります。これらの課題に直面した女性メンティは従来の男性中心の組織(職場)文化に如何に溶け込みつつ変革を起こすか、という難問に取り組むことになるからです。

正解のない問いの解答者になるメンティに如何なるアドバイスをするか。課題の本質とその重要性を認識し、解答を共に探す伴走者になる準備がメンターには必要です。

3.予断をもちつつ、予断の「枠」に囚われない
ベンはオーソドックスな革鞄を持ったりスーツを必ず着て出社したり等、所々に自分のこだわりを見せます。ハンカチは涙する女性に差し出すためにもつものだ、と自らの生き方の一端を垣間見せるベンですが、女性はこうあるべき、ということは一切口にしません。70年の人生を通じて得た彼なりの認識はきっとあると思いますが。

男性メンターが女性メンティを担当する場合、(偏見をもつことは良くありませんが)少なくとも一般的な女性の考え方・感じ方の特徴を知っておいて損はないでしょう。

例えば、FacebookのCOOシェリル・サンドバーグ著「LEAN IN」の中で出てきた「女性特有の詐欺師感覚」。自分の成功を誉められると能力以上の評価をもらったようで罪悪感をもつというこの感覚は、多くの女性の共感を得ました。男性メンターがこのような女性の感覚・考え方を知っておくことは、女性メンティの対応をする際のアンテナとして有用なはずです。

しかし、同時に、この「女性特有の考え方・感じ方」という「枠」に女性メンティをはめ込まないように注意すべきです。メンターが支援するのはあくまで目の前に居るメンティその人であることを忘れてはなりません。

4.女性メンティの信頼を勘違いしない
マネジメント研修の際に注意喚起することのひとつに女性部下との関係があります。年上の男性が女性部下をもつとき、中には女性部下を「娘」「後輩」等のように部下とは異なる目で見てしまうことも起こり得るからです。これが、セクシャル・ハラスメントや女性への過度な気遣いの遠因となることもあります。

メンターは信頼関係を構築しながらメンティの目標達成をサポートする立場にあります。女性メンティの信頼を自分への好意と勘違いしないよう注意しましょう。ベンの振る舞いを参考に。

■女性活躍における男性メンターの可能性

女性特有の悩みは同じ女性の方が理解・共感しやすいかもしれません。その意味において、女性メンティに女性メンターをつけることにこだわるのも合理的な考え方であると思います。

しかし、リーダー的存在の女性や女性従業員数がそもそも少ない企業・組織もあります。また、たとえそうでなくても男性メンターを女性につけることには十分な合理性があると私は考えます。

男性メンターが女性メンティに付き、「職域拡大」「管理職登用」「ポジティブアクション」等に取り組むなら、彼ら男性メンターの女性のおかれている立場に対する理解は深まります。そして、男性の理解者・応援者の増加は確実に女性活躍を促進させるための原動力となります。

一方、支援を受ける女性メンティにとっても男性視点でのモノの見方・考え方・行動様式を知ることは大変重要です。これらを知ってこそ職場の中で自分らしさを打ち出すことが出来るからです。

女性活躍推進は女性のみでなく、男性の意識改革をも伴った組織変革です。男性メンターが十分機能すれば、必ずやこの課題の大きな推進力のひとつとなるでしょう。そのためにも、「マイ・インターン」にみられるベンとジュールズの関係からメンターの在り方を学んでもらいたいと思います。

【参考記事】
■女性活躍が進むために (後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://blog.redesign-a.com/?eid=79
■男性にとって他人事ではない女性活躍推進 (後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/46354827-20150923.html
■補 なぜ女性活躍推進法で男性の働き方が変わるのか (後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://blog.redesign-a.com/?eid=88
■女性活躍推進のためにはOSの更新が必要です (後閑徹 人材・組織開発コンサルタント)
http://sharescafe.net/46479264-20151005.html
■女性が経営者に向いている理由 (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/38119326-20140407.html

後閑徹 人材・組織開発コンサルタント Redesign Academia代表

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