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「自己責任だ」と説教しても、貧困問題は解決しない / 大西連×柏木ハルコ『すぐそばにある「貧困」』刊行記念対談

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20代にしてNPO法人「もやい」理事長になった大西連氏の初の単著『すぐそばにある「貧困」』が上梓された。生活困窮者支援の現場をありのまま描くノンフィクションだ。今回は、刊行を記念して『健康で文化的な最低限度の生活』(小学館)作者である柏木ハルコ氏と対談を行った。(構成/山本菜々子)

「貧困」を描くむずかしさ

大西 今回は、ぼくのはじめての本『すぐそばにある「貧困」』の記念対談ということで、漫画家・柏木ハルコさんとお話していきます。

柏木 よろしくお願します!

大西 柏木さんは、生活保護に向き合う新米ケースワーカーを描いた『健康で文化的な最低限度の生活』をお描きになられていますが、実はもやいにも取材にいらっしゃったんです。とにかくすごい取材量で、今や生活相談手帳まで読めるようになっている。もやいの生活相談に入っても即戦力でしょうね。

柏木 いえいえ(笑)。ありがとうございます。大西さんは、初の単著なんですね。おめでとうございます。貧困の問題を扱っているのに、とても読みやすい本でした。

大西 ありがとうございます。今回、読みやすさを意識しました。実は、シノドスでもおなじみの日本近現代文学をやっている荒井祐樹さんに、「大西さんの書いたものは読みづらいです」と言われたとこがあって(笑)、すごくその部分は意識したんです。

初の本なので、新書的に制度を説明したり、理論を紹介する本にしようかとも考えていたのですがそうではなく、「貧困」や「生活保護」のような普通に書いたら難しくなってしまうテーマを、入門編として読みやすく書こうと挑戦しました。

柏木 高校生の大西さんが終電を逃した日の出来事からはじまるのですが、物語にスッと入れました。生活保護制度の説明だけではなく、エピソードが中心になっていますよね。今まで興味を持てなかった人も読みやすいでしょうね。

しかも、深刻なテーマなのに、エピソードもすごく面白かったです。特に、7章のネコの話(笑)。笑っちゃいけないんだけど、笑っちゃいました。

大西 いやぁ、もうあれは、本当に大変だった……。

柏木 私も漫画を描くとき直面しているのですが、貧困って、頭では分かったつもりになっても、リアリティを感じにくい。それに、ひとりひとり置かれている状況がぜんぜん違います。

その点、大西さんの本は、ネコの話もそうですが、大西さんが出会った方とどう関わったのか具体的に描かれているところ、「大西さんと○○さんの物語」になっているところが、今までに無い点だとおもいました。

大西 今までの「貧困」の書き方は、悲劇に見舞われ続けたかわいそうな人だったり、貧困状態から脱却できたぞ!といった成功事例を書きがちです。分かりやすいし見せやすいですから。NPOなどでの発信でも、成功事例を大きく取り上げることにより新聞等に掲載され、多くの方に情報を届けることを優先してしまうこともあります。

でも、そういった「成功事例」というのは必ずしも多くの相談、多くの人の出来事ではなくて、特別な事例だったりもします。当たり前なんですが、支援の現場は、キレイな話ばっかりじゃない。成功事例や良い話に落とし込めないむずかしさとか、上手くいかなさとか、面白さの方が大半ではないのかなと。

柏木 よくわかりますよ。

大西 誰が悪いってわけでもないのに、どうして上手くいかないんだろうって。いったい答えってなんだろう。それを、そのまま書いてみたいと思ったんです。

ぼく自身、説教臭いのが嫌いなんですよ。たぶん、中二病だからかもしれませんけど(笑)。貧困系だとどうしても「政府が悪い」みたいなメッセージなっちゃいがちで。政府は確かに悪いとは思いますが(笑)、どう悪いのか、何がうまくいかない原因なのか、メッセージを入れないことで、よりメッセージが伝わる気がしています。

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個人じゃ限界があった

柏木 なにも知らない若者である大西さんの周りでどんどん事件が起き、それと一緒に、貧困問題について考えていけるような本になっていますよね。いまは、もやいの理事をされている大西さんも、はじめは生活困窮者の支援を「甘く考えていた」というのが興味深かったです。

大西 ぼくは、貧困のことについて全然知らずにこの世界に入りました。生保=生命保険、だと思っていたタイプです。実際に支援に参加するまでは、ホームレスの人が「支援受けたい」と言えば、ちゃんとしたアパートに入れるんじゃないかと思っていました。「どうにかなるでしょ。日本だし」って甘く考えていたんですね。

で、実際に役所の申請に同行したら、窓口の人は冷たいし、ぼくのような同行者の存在も疎まれる。しかも、すぐにアパートに入れるわけじゃない。まずはシェルターに入れられて、がんばって仕事を探したり、いろいろな環境を整えると、より環境の良い施設やアパートに入居できる……。

一般的におこなわれている運用だとすぐさまアパートにはなかなか入れない。決していい環境だといえないシェルターや施設に耐えられなくて、せっかく支援につながったのに、路上に戻ってしまう人が沢山いる。

柏木 取材して感じたのですが、大人数の部屋に押し込めるような施設だと、せっかく支援につながれたのに、嫌になって逃げてしまうことも多い。それって、意味が無いですよね。私たちが「ここで暮らしたくないな」と一般の感覚で感じたら、当たり前ですけど、ホームレスの人も嫌なんですよ。

大西 おっしゃる通りです。しかも、役所以外で相談できる場所が少ないことを知りました。困った時にどこに相談していいかわからないんですよね。だから、ぼくは路上で知らない人にどんどん「困ったら連絡してね」と連絡先を渡していたんですね。

柏木 それ、すごい。勇気がいることじゃないですか?

大西 今思うと、なにも考えてなかった。目の前のできごとに何とか取り組んで、毎日役所に同行して、ってやっていました。でも、個人の関係でやるのは無理がありました。

柏木 個人では限界があったんですか?

大西 そうですね。ぼくが忙しいだけならいいんですけど、「力になって欲しい」と思ってせっかくぼくに電話をかけてくれた時に、たとえばぼくが電話に出ることができなかったとして。

公衆電話からだと折り返せないし、すぐさま連絡ができないこともある。そうなると、せっかく勇気を出して相談したのに対応してもらえなかった、裏切られたという経験が出来てしまう。ぷつっと心の糸が切れてしまうかもしれませんよね。

個人で相談を受けるというのは、特に相談が増えてくると、どうしても受けきれない部分が出てきます。だから、ちゃんと時間を指定したり、相談機関としてやっているのがすごく大事。そのような仕組みをつくっていこう、貧困問題を社会化する活動をしていこうとおもい立ちました。

柏木 それで、もやいに関わっていくのですね。

大西 とはいえ、もやいの相談機関だって、来年つぶれるかもしれないし、ずっとある保証はありません。その人が困るタイミングはいつか分からない。だから、本来ならば、安心して相談できる公的機関があった方がいいと考えています。

「ズバズバ聞きますね」

柏木 それと、本を読んでいると、大西さんって人懐っこいのかなっておもいましたね。稲葉剛さん(もやい前理事長)を、本人が嫌がっているのに、「ラビちゃん」って呼びつづけたり(笑)。支援に関わる人ってそういう人懐っこさが必要なんですかね。

大西 善し悪しはあるでしょうね。ぼくは、正直コミュニケーションが得意な方ではないとおもいます。だから、ちょっと失礼になってしまう時もあるのかも。上下とか関係なく、みんなに一定の距離感で接しています。

柏木 わたし、大西さんの相談に同行したことがあるんです。「死のうと思って東尋坊に行ったんです」という人に「飛び降りちゃいました?それともそこにうずくまった?」って淡々とした感じで聞いていて。うわ、聞くんだ!ってびっくりしたんです。でも、滞りなく相談は進んでいったと。

大西 そうですか(笑)。「ズバズバ聞きますね……」ってよく驚かれます。もちろん、踏み込んだ方が楽になるとおもったからやっているんですよ。でも、基本的にサラッと聞きたいって気持ちはあります。

たとえば、相談を受けるとき、職歴、家族歴、犯罪歴、病歴、家族のDV、セクシャリティのことも聞きます。なんでそこまで聞くかというと、病気があるかないか、セクシャルマイノリティかどうかでつなげる支援も活用できる制度や窓口、公的機関に求める合理的な配慮も違ってきます。ですから、すごく必要な情報なんですけど、だからといって、はじめて会った人に言いづらい話ばかりです。

でも、役所ではそれを言わないときちんと対応してもらえないわけですから、どうせ聞き取るのであれば、重いムードで聞くよりも、サラッと聞きたいんです。意外と、みんなサラッと答えてくれます。

だから、「言いづらそうだな」って感じたら、むしろ積極的に聞いてみる。1時間後に打ち解けてから聞こう、みたいなことをしていると、お互い「いつ聞くんだ」「いつ聞かれるんだ」と変な探り合いみたいになっちゃうこともあるんですよね。もちろん、なぜそれを聞くかをきちんとお伝えしたうえで、ですが。

柏木 なるほど。漫画家と編集者も、そういう関係があります。特に私は性的な漫画を描いていたので、編集者が相談できる人かどうかが大事でした。踏み込んでくれるんだけど、価値観を押し付けてこないとか、私が描こうとする内容に興味を持ってくれているんだろうかとか。編集者の方に聞く準備があるとわかって、ようやく話せる。

大西 興味の有無っていうのはよくわかりますね。夜回りをしていてもそうなんですが、事務的に声をかけてもしょうがないんですよね。「こまっていることありますか」と声かけても「ないよ」って言われるだけです。

でも、そこで一歩踏み込んで相手に興味をもって「顔色悪いですけど、体調はどうですか?」とか「足引きずっているけど、痛いですか?」って声かけするだけで、ぜんぜん反応が違うんですよね。

柏木 それって、面白いですよね。やっぱり人対人なんで、「この人いいな」と思えないと、シャットダウンしちゃいますよね。

大西 本来は当たり前な話なんですけど、自分が支援する立場だと思うと構えてしまうんですよね。「聞かなきゃいけない」とか「間違っちゃいけない」とか自分自身のことでいっぱいになっちゃう。

柏木 わかります。取材で人から話を聞かなければならないのに「わたし、こんなにおどおどしていて恥ずかしい」と思ったりする。相手の話題じゃなくて「こんな態度でバカにされてないかしら」っておもいはじめて、自分のことばっかり考えちゃう。

大西 そうですね。ぼくたちができるのは、関心を示すことなのかもしれない。「誰かに監視されている」と言われて、「じゃあ、精神疾患の可能性があるので、病院へ行きましょう」って言うんじゃなくて。結論は一緒でも、「ちゃんとご飯食べられてる?」とか「相談できる人いる?」って一歩踏み込んでいくことが必要なのかもしれません。

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