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企業不祥事への対応は「安全思想」か「安心思想」か(改めて考える)

先週、たいへんお世話になっている東洋ゴム工業さんの社外監査役の方が「一身上の都合」により同社監査役を辞任されました。今年6月の総会で新たに就任された方なので、かなり驚きましたが、本日(10月14日)のニュースに触れて(私なりに)納得した次第です。免震ゴム偽装事件で揺れる同社の子会社において、今度は防振ゴム偽装が発覚したそうで、しかも(免震ゴム偽装事件の再発防止策の一環である)特別監査において「とくに問題なしと確認された」との報告がなされた直後に内部通報があり、不正が発覚したとのこと(コンプライアンス研修の直後に内部通報があったそうです)。企業の自浄能力は「件外調査」に基づく安心感によって評価されるものと思いますが、その件外調査すら全く機能しなかったのであり、今後のことを考えますと、おそらく私が監査役でも、職務を続けるにはリスクが大きすぎると考えるはずです。

このような東洋ゴム工業さんの不祥事が報じられた同日、三井不動産レジデンシャルさんが販売し、三井住友建設さんが施工主、旭化成さん(子会社)が下請のマンションについて、こちらもマンション基礎工事の欠陥が報じられ、なんと国交省に提出されたデータは偽装されていたことが判明した、と報じられています。旭化成さんは調査委員会を設置し、施行主の三井住友建設さんは居住者に対して安全確保のための最大限の対応を確約されているそうです。建て替えも視野に入れているとのことで、これらの対応は居住者の方々にとっては安全を目に見える形にする「安心思想」に基づく対応といえます。

しかし本事件は基礎工事の欠陥との因果関係が認められたデータ偽装が判明しているのですから、この「実際に傾いているマンション」だけの問題で済むものなのでしょうか?たとえ取引先事業者が行ったデータ偽装だとしても、全国の2006年以降に建てられたマンションについても、データ偽装のもとで建設されたマンションに、基礎工事の欠陥が認められる可能性は十分にあるのではないでしょうか。関係会社においては、消費者の安心を確保するためには、少なくとも「件外調査」によって、他のマンションについてはデータ偽装は存在しない、したがって基礎工事の欠陥はない、ということを合理的な理由を持って説明する必要があるのではないでしょうか?

本日の住民説明会において、三井不動産、三井住友建設両社の取締役の方が「起こりえないことが起こってしまって申し訳ない」と述べたそうですが(日経ニュースより)、なぜ「起こりえない」と考えておられるのか、そこが一番知りたいところです。私の感覚からしますと、両社ともまじめで誠実で優秀な社員の方が多いので、このようなデータ偽装事件は当然に「おこりうる」ものであり、「起きたときにどうするのか」といった視点を前提として不正リスク管理をされているものと理解しています。不祥事に直面して「おこりえない不祥事が起こった」と考えているかぎり、安心思想に基づく「件外調査」の発想は生まれません。これでは監督官庁を含め、すべてのステークホルダーから見放されてしまうことになります。

東洋ゴムさんも三井住友建設さんも旭化成さんも、おそらく「誠実な社員」「まじめな社員」が多いはずです。したがって「納期を守る=会社の信用を守る」ということを第一に考えます。この「納期を守る」ことに問題が生じた場合(つまり関係社員が有事に至った場合)、「わからなければ偽装をしてでも納期を守る=会社の信用を守る、自分の地位を守る」という考え方に依存する可能性があります。このての不祥事は、誠実な社員が多い企業ほど、その不正リスクが高いはずです。コンプライアンスは「安全性が確保されれば足りる」との発想でよいのか、それとも「安全性が形としてわかる必要がある」との発想が求められるのか、それは各社において社会の常識はどこにあるのか、という点を模索しながら考えるべき問題です。

もうひとつ、昨日報じられたところですが、日本郵便さんの簡易郵便局元局長が10年間にわたり8億9000万円ものお金を顧客180名からだまし取っていたことが報じられ、日本郵便信越支社のHPでも事件内容が公表されました。4月の不祥事発覚以降「件外調査」を重ねて、このような大規模な詐欺事件の全容を把握した点においては、日本郵便さんの自浄能力が発揮されたものと思われます。

さて問題は、この被害者の方々への日本郵便さんの対応です。同社は顧問弁護士の方々に被害者対応を委任しており、詐欺被害者らに対して証拠が少ない点や、取引の異常性(過失相殺の根拠)から、被害額の50%程度をもって被害補償を進めていると報じられています(たとえば産経新聞ニュースはこちら、少し前のニュースはこちらです)。私も対応を委任された弁護士の立場であれば「法令遵守」「遵法経営」の名のもとに、同様の解決策を模索すると思います。

しかし日本郵便さんの経営判断としては別の対応もありうるのではないでしょうか。たしかに過去の裁判例や取引の異常性(異常な高金利)、受託郵便局での事故、立証方法が乏しいといったことを根拠として、顧客との司法的解決を前提とすれば「半額程度の返済による解決」を目指すのが、コンプライアンス経営の在り方かもしれません。しかし郵便局の窓口で500万円を預けた顧客に、局員の不正(ミスではなく、明らかな詐欺行為です)があったにもかかわらず「半分しか弁償しない」という対応はそもそも社会的に許容されるでしょうか。証拠が残っていない、帳簿がないから、という理由も、それは日本郵便側が10年も不正を見抜けなかったという組織的な問題に起因するのであり、そのような組織的な問題のツケを被害者側に半分しか返さない理由にしてしまうことは社会的に許容される理由になるのでしょうか?また、郵便局という全国24000のインフラを活用することで競争上のアドバンテージを持つ郵政グループとして、説明義務違反が問題となる事例と同じように「取引の異常性」を根拠に「おじいちゃん、おばあちゃんの過失」(顧客の自己責任)を主張することが社会的に許容されるのでしょうか?

この点、被害者対応をすべて弁護士に委嘱する経営判断について疑問を感じますし、別の経営判断に従ったとしても、取締役らの善管注意義務違反に問われることはないと考えます。上場を目前に控えた日本郵政グループが、お客様の大切な資産を預かる立場として、できるだけ返済金を減らすことが大切だという発想を今後も続けるのか、上場会社にふさわしいコンプライアンス対応ができる企業として、うべかりし利益を獲得する機会を大切にする発想(安心思想)に転換するべきなのか、一般国民の目線から、そのコンプライアンス経営の在り方を知りたいところです。残酷な言い方かもしれませんが、組織の有事において、守るべきステークホルダーの利益には優先順位をつけなければならないのであり、その順位をつけるのは経営トップの仕事だと考えます。

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