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コンピュータ将棋のトッププロを凌ぐ強さが確認されるまで

2015年10月11日、情報処理学会はコンピュータ将棋プロジェクトの終了宣言を発表した。情報処理学会は、2010年以降コンピュータ将棋とプロ棋士との対戦を継続してきたが、2015年の時点ですでにコンピュータ将棋の実力はトッププロに追いついておりプロジェクトの目的を達成したとしている。

コンピュータ将棋の軌跡

次のグラフはコンピュータ将棋の将棋倶楽部24におけるレーティングをプロットしたものだ(過去のレーティングデータについてはFPGAで将棋プログラムを作ってみるブログを参考にした)。将棋倶楽部24における段級は低段位においてはアマの段級よりもかなり厳しく、プロの段級との中間ぐらいであるとされ、高段位においては勝ち数昇段規定より辛く順位戦昇級時規定より甘い程度であるようだ。六段でアマ全国レベル、七段、八段はプロ棋士レベルだ。トッププロのレーティングはおおよそ3,300程度であるとされている。

コンピュータ将棋レーティング推移

第1回世界コンピュータ将棋選手権が開催された1990年、コンピュータ将棋の棋力は5級程度だった。1997年にDeep Blueがチェスチャンピオンを破った時には将棋のレベルは二段程度、まだまだプロのレベルとは大きな差があった。

2005年にBonanzaが登場した際には五段程度(アマ県代表レベル)に達しており、アマ強豪には勝ち越す程度になってきた。同年、橋本崇載五段がTACOSに平手対局で敗北寸前まで追い詰められるという事態があり、日本将棋連盟は全棋士に無断でコンピュータと公開対局を行うことを禁止する通達を出した

2007年、コンピュータ将棋はいよいよ七段(プロ棋士レベル)に達した。この年、Bonanzaが渡辺明竜王と公開対局を行い敗北している。これ以降、第二回将棋電王戦まで男性プロ棋士との公開対局は一切行われなかった。

2008年、八段に達したコンピュータ将棋は、アマ名人を相次いで破り、もはやアマではコンピュータ将棋に太刀打ちできなくなった。2009年にはBonanzaのソースコードが公開され、コンピュータ将棋の棋力の底上げに大きく貢献した。そしてコンピュータ将棋はコンピュータ将棋の領域へと突入していく。

コンピュータ将棋プロジェクトと電王戦

レーティングを見る限り、情報処理学会がコンピュータ将棋プロジェクトを始めた2010年には既にコンピュータ将棋の実力はトッププロに比肩するレベルにあり、それ以降は完全にトッププロを上回るレベルにあった。率直に言えば、情報処理学会のコンピュータ将棋プロジェクトおよび電王戦は、コンピュータ将棋がプロより強いことを確認するプロセスであったと言える(熱戦を繰り広げてくれた参加棋士及びプログラマを貶める意図はない)。

そもそも2010年4月に情報処理学会が日本将棋連盟に送った挑戦状において次のように記載している。

コンピュータ将棋を作り始めてから
苦節三十五年
修行に継ぐ修行 研鑚に継ぐ研鑚を行い
漸くにして名人に伍する力ありと
情報処理学会が認める迄に強い
コンピューター将棋を完成致しました
茲に社団法人 日本将棋連盟殿に
挑戦するものであります
情報処理学会が日本将棋連盟に「コンピュータ将棋」で挑戦状

レーティング推移を見ると2010年の時点でトッププロレベルの3,300を達成しており、情報処理学会の主張には十分な根拠があったことが分かる。以降、2011年に清水女流王将、2012年に米長日本将棋連盟会長(第1回将棋電王戦)を破った。そして2013年、第2回将棋電王戦においてponanzaが佐藤慎一四段を破り、正式ルールで行われた、現役のプロ棋士戦にて初めてコンピュータが勝利した。

第2回将棋電王戦はコンピュータの3勝1敗1分、第3回将棋電王戦はコンピュータの4勝1敗とプロ棋士を圧倒する戦績を残している。今年行われた将棋電王戦FINALこそコンピュータが2勝3敗と負け越しているが、事前にプロ棋士にはコンピュータソフトが貸し出され徹底的に研究された上での対戦であった。特に第5局では阿久津主税八段が事前に知られたハメ手に誘導し、AWAKE開発者の巨瀬氏がわずか49分で投了するという後味の悪い結果となった。

巨勢氏の批判は辛辣だ。

すでにアマチュアが指して知られているハメ手をプロが指してしまうのは、プロの存在意義を脅かすことになるのでは」「一番悪い手を引き出して勝つというのは、何の意味もないソフトの使い方」
電王戦最終局、異例の「21手投了」に至ったAWAKEの真意は 「一番悪い手を引き出して勝っても意味ない」 - ねとらぼ

このまま同じルールで将棋電王戦を続け、仮に現役プロ棋士が長い時間をかけてソフトのアラ探しに終始することになれば本末転倒である。レーティングが示すように、この時期既にコンピュータ将棋はトッププロを凌駕する水準にあり、プロ側が確実に勝利を収めるにはこうしてソフトの弱点を徹底的に突くしか無かったとも言える。

現役プロで最も将棋ソフトに詳しいといわれる五段の千田翔太(21)でさえ、特別な対策をせずに電王戦に出場するような強豪ソフトと真っ向から戦った場合で「勝率は7%」と言う。千田は将来を嘱望される若手の一人で、2014年度の公式戦の勝率は7割3分8厘。プロ棋士のひのき舞台であるタイトル戦にあと一歩まで迫ったこともある。その千田でさえソフト相手には1割も勝てない。
「1割」の勝利呼び込む 棋士VS.ソフト(ルポ迫真):日本経済新聞

コンピュータと人間との対戦が最も面白かったであろう時期は残念ながら数年前に過ぎ去った。惜しむらくは電王戦がもう少し前から始まっていたらよかったのにと思う。プロ棋士のコンピュータとの公開対局を禁じた日本将棋連盟の判断は妥当だったのかどうか。

現時点でトッププロとコンピュータ将棋との対戦は実現していないが、情報処理学会がプロジェクトの終了宣言を出したのは妥当だ。現時点でコンピュータ将棋の棋力がトッププロを上回る水準にあるのは間違いない

これから

現在第1期将棋叡王戦の本戦出場棋士が確定し、優勝者は2016年春に開催される第1期電王戦において、第3回将棋電王トーナメントの優勝ソフトと手番の先後を入れ替えた二番勝負を2日制で行う予定だ。ただ、おそらく通常のルールで行えば、電王戦においてはコンピュータ将棋が圧倒することになるだろう。

コンピュータ将棋との対戦においては、やねうら王開発者の磯崎氏が述べたように、香車落ちなどのハンディキャップを付けるとか、森下九段がツツカナとのリベンジマッチでやったように、秒読み10分、継盤使用可にするとか、人間側は複数人の合議制で対決するとか、そうした互角にするための方法について検討すべき時が来たのかもしれない。

叶うなら羽生名人とのガチ対戦が見たかった。

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