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「復興支援」は“キャリア”として評価されるのか~「WORK FOR東北」集合研修で明らかになった日本社会の問題点~

専門性の高い業務のマッチングを行う「WORK FOR東北」


今回の集合研修参加者とオブザーバーとして参加した公益社団法人中越防災安全推進機構復興デザインセンター長の稲垣文彦氏、日本財団東日本大震災復興支援チームリーダー(兼)ソーシャルイノベーション推進チームリーダーの青柳光昌氏
今回の集合研修参加者とオブザーバーとして参加した公益社団法人中越防災安全推進機構復興デザインセンター長の稲垣文彦氏、日本財団東日本大震災復興支援チームリーダー(兼)ソーシャルイノベーション推進チームリーダーの青柳光昌氏 写真一覧
「被災地復興のために、自分たちは何ができるだろうか」

東日本大震災以降、そんな思いを抱いた企業や個人は少なくない。そのため発災直後から、岩手、宮城、福島の東北被災3県を中心に、全国各地から物資の支援やボランティア活動による復興支援が幅広く行われてきた。

被災3県への支援は民間の力だけではない。全国の自治体からも数多くの応援職員が派遣され、その数は2014年10月1日時点で2255名。また、中央官庁から派遣された国家公務員は69名(2014年3月11日時点)、復興庁の市町村駐在職員および巡回職員は252名(2014年7月1日時点)にものぼる。

  しかし、それでも被災3県では復興業務の集中により人材が不足している。さらに言えば、震災から時間が経過するにしたがって、各自治体の被害規模や復興事業の進捗の違いにより人材ニーズにも差が生じている。

そこで必要とされるのが「被災地の多様な人材ニーズ」と「被災地での復興に関わることを希望する企業や個人」とのマッチング作業だ。

復興庁が2013年10月に立ち上げた「WORK FOR 東北」は、そんな両者の思いをサポートするための事業である。同事業は2014年4月から日本財団が主体事業者となり運営しているが、一貫して復興現場における求人ニーズを開拓し、必要な人材を被災地の外から広く募ってきた(協働事業主体・復興庁)。そして事業開始以降、これまでに被災3県での復興業務に115名(2015年7月31日時点)の人材を送り出している。

前述したように、被災地での求人ニーズは各自治体により異なる。しかし、「WORK FOR 東北」事務局の資料によると、現在、被災地で必要とされる業務はおおむね下記の4つが中心だという。

<1 産業支援>
震災で被害を受け販路を失うなどのダメージを受けた産業の復興へ向けた業務。具体的には、水産業の6次化事業の立ち上げや、地元産品のブランディングプランの立案・推進業務など。

<2 連携支援>
復興関連業務の内容は多岐にわたるため、複数部署や官民などの垣根を越えた業務運営が必要となっている。そのため事業マネジメントや新組織立ち上げなどにおける連携を推進する業務など。

<3 コミュニティ支援>
特に福島県では、原子力発電所の事故により全国各地に住民が避難しているため、コミュニティの再生が大きな課題となっている。分裂してしまった地域コミュニテイの維持・再建へ向けた業務など。

<4 交流人口増加>
震災で失った観光客を取り戻し、地域に活力を再生したいというのは各地域の重要テーマであり、さらに従来の地域課題の解決へもつながっている。そのため観光促進やUターンに係る業務など。

上記を見てもわかるとおり、「WORK FOR 東北」が担うのは単なる人材不足の解決ではない。高度な専門性が求められる業務のマッチングである。

「入り口はオープン」だが「出口は狭き門」の復興支援

第一部で講師を務めた一般財団法人ダイバーシティ研究所・田村太郎代表理事
「WORK FOR 東北」の特徴は、人材のマッチング作業だけでなく、着任後のフォローアップも実施することだ。そのため外部人材として東北の復興現場で働く人々を対象とした集合研修を2014年9月以降、計4回行ってきた。

その目的は「復興支援に関わる業務に従事する中での気づきを整理し、今後の活動・業務の目標を明確にすること」と「多様な地域で学ぶ様々な経歴を持つ民間からの就労者同士が復興現場の情報を共有することで、他地域の事例に学ぶ機会を創出すること」。

今年9月2日に仙台市内で開かれた4回目の集合研修には、被災3県で働く20代から50代までの民間企業出身者12名が参加した。いずれも赴任から1年以上が経過した人たちだ。

今回の集合研修は大きくわけて二部構成になっており、第一部は講演、第二部は少人数の班にわかれて「3年後自分がどうありたいか、そのために何をするか」をテーマにしたワークショップが行われた。

第一部では、阪神・淡路大震災から非営利・民間の立場で復興に関わってきた一般財団法人ダイバーシティ研究所代表理事の田村太郎氏が「復興5年目における外部人材の役割・キャリア」と題して講演を行った。現在、田村氏は復興庁復興推進参与も務めており、官民両面からの視点を知る人物である。

田村氏はまず、「多様な社会課題に対応するには、多様な担い手が責任をわかちあう必要がある。外部の人材は地元の人が言いにくいことを言えるので、地域内の多様な担い手をつなぐ『進行役』に最適なのではないか」と指摘。それに続く講演の中で参加者たちが共鳴し、思わず苦笑せざるを得なかったのは、次のような指摘だった。

「日本のソーシャル活動は『一回入ったら逃げるなよ』と思われているから辛い。つまり、日本社会にはソーシャル活動の出口がないんです(笑)」

これはどういうことなのか?田村氏は自身の経験を踏まえつつ、復興活動に関わった人材の「その後のキャリア」を次の5つに分類して解説した。

A 関わった地域にはこだわらず、新しい地域づくり、社会づくりに進む。
→NPO・市民参加、IT・メディア、新たなコンセプトの伝道者になる。

B 関わった地域とつながり続け、「地元の人」になる。
→店舗や会社を設立し、地域とともに復興に参画する。

C 復興や社会活動とは直接関係のないキャリアへ進む。
→復興に関わった経験をそれぞれの本業に活かす。

D 公的な活動の重要性を実感し、議員や公務員、支援系の職業へ進む。
→地方議会議員、役所、商工会議所、消防士、看護師などを目指す。

E 災害が起きるたびに経験をふりかざして被災地へ出かける。
→初めは歓迎されるがやがて居場所がなくなり次の被災地へ向かう。

田村氏は、これら5つの道のうち、日本では特に「C」のキャリアを進む例が少ないと指摘した。つまり、日本社会には「ソーシャルイノベーション活動を経験した人材を活用する受け皿」が整っていないため、復興支援という得難いキャリアが評価されない。そのためゼロからの再スタートになってしまうというのだ。

実際、今回の研修参加者の中にも、年限のある被災地での就労後、自身のキャリアプランをどうするかという不安を抱える人たちが少なからず存在した。

以前は民間企業でWEB制作の企画・制作・運用等の業務に従事していた兼俊由香さんは、「WORK FOR 東北」を通じて石巻市産業部商工課に赴任。それまでの経験を活かし、この1年はEC(電子商取引)立ち上げやICTに関わる事業の管理、契約事務などに従事してきた。兼俊さんが言う。

「市内の事業者さんや一般の市民の方の役に立つと信じて練ってきた企画が事業化したときや、実際に市民の方と接触して、事業方針等が誤りではない、必要なのだと実感できたときに大きなやりがいを感じています。ただ、最大の悩みは就労期間を終えた後の展望がまったく定まっていないことです」

復興支援への入り口はたしかにオープンになっている。実際に被災地に入った後も前職のキャリアは活かせる。しかし、「その後の出口」がはっきりとは見えない現状があるのだ。

復興のスピードアップには「復興支援というキャリア」への正当な評価が不可欠

第二部のワークショップ前に自己紹介をする参加者たち。約半年に1回研修が開催されるため、顔見知りになっているメンバーも。それぞれ近況や前回からの変化を報告しあう場面も。
もちろん、被災地での復興支援に携わる人たちが「入り口」へと向かう動機は積極的なものだ。前職のまちづくりNPO職員などのキャリアを活かし、現在は福島県双葉町支援員として勤務する山根麻衣子さんはこう語る。

「出身地である関東での支援に限界を感じ、実際に現地に身において活動をしたいと思い参加しました。現在は双葉町の秘書広報課と連携し、コミュニティ紙の企画・編集、町公式Facebookページへの記事アップなどを行っています。取材に行ったことを喜ばれたり、『コミュニティ紙に載っていた写真、すごく良かった! あんな笑顔の写真はなかなかない!』と言われるなど、広報のツールが町のみなさんの役に立っていると実感したときはとても嬉しいですね」

しかし、やはり山根さんも「就労後のキャリア」には同様の不安を感じているという。 「契約が1年更新であること、支援員事業の継続が確約されていないことは不安要素です。やがて去る存在として、どこまで町民と関わって行けばいいのかという距離感も難しい」(山根さん)

以前はNPOに所属し、宮城県石巻市の漁業の復興支援業務に従事していた岩尾恒雄さんも「少しでも復興に寄与したい」との思いから「WORK FOR 東北」プロジェクトに参加した。岩尾さんは現在、浪江町役場産業賠償対策課農林水産係で農業及び水産業の再開に向けた補助事業に係る業務支援に従事しているが、「浪江町に対して何らかの形で支援業務に携わっていきたいが、どのような形でできるかを現在検討中です」と言う。強い意志を持って被災地支援に向かった人ですら、不安を抱えながらの活動が続いている。これでは後に続く人材が枯渇し、裾野が広がらないことは目に見えている。

今回のような集合研修が効果を発揮するのは、このような時だ。
民間企業から復興庁の政務調査官(非常勤)として出向し、福島県双葉町役場復興推進課に勤務する山中啓稔さんが言う。

「皆さん働く環境が変わる中で、入った組織に対する違和感を覚えたり、自分が意識する課題とその解決案を自分なりに抱いたりするんです。ところが、えてして部外者として『警戒』され、『決められたこと』を粛々と支援すること以外求められないという残念な事例を多く耳にします。非常にもったいない。幸いなことに、私が勤務する双葉町役場はトップまでの風通しが大変よく、『決められたこと』以外にも、役場職員向けの研修・支援職員との提案会等、外から役場に支援で入っている人の経験やノウハウを取り入れる方策を色々と提案し、実際に受け入れられています」

今回の集合研修への参加者は、それぞれ異なるキャリアの持ち主だ。特に復興現場では外部からの人材が少ない職場に単独で赴任することが多いため、どうしても赴任先特有の視点、価値基準が大きなウェイトを占めるようになる。つまり、「孤軍奮闘」を強いられる状況もありうるということだ。

集合研修はそうした人材が一堂に会し、情報共有する数少ない機会である。同じような境遇におかれた人材が『現場の壁』を打破したという実例や経験を共有することは、悩みを抱える人たちにとって、大きな励みになっている。

「被災地支援のその先の生き方、みんな不安を抱えているんだな、自分だけじゃないんだなということがわかって、すこし気持ちが軽くなった」(リクルートライフスタイルから岩手県陸前高田市企画部商工観光課観光交流係に観光交流支援員として赴任している桑原祥作さん)

「同じ境遇のメンバーで話すと『自分ももっと頑張らねば!』とモチベーションが上がりますし、知り合ったメンバーを実際に訪ねてみるなどしてネットワークも広がります」(前職の広報としてのキャリアを活かし、現在は岩手県釜石市広聴広報課に勤務する村上浩継さん)

もちろん不安を抱えている人だけではない。
民間企業数社で20年以上、編集、制作、企業広報、ブランディングに携わり、現在は浪江町役場復興推進課情報統計係で広報業務を担当している中川雅美さんのように、「福島に残ります」 という明確なビジョンを持つ参加者もいる。こうした多様性に触れられることも集合研修の有用性だろう。

今回、筆者が4時間にわたる研修を取材して感じたことは、これらの取り組みがより大きな実を結ぶためには、もう一つ、パズルのピースが必要だということだ。そのヒントは、研修会終了後に前出・村上浩継さんが教えてくれた指摘にある。

「復興支援というキャリアが今後社会の中での仕組みとして成立していくためには、私たちがその後どういう生き方、どういうキャリアを積んでいくかが大事になってきます。そのためにも企業の認識が変わり、復興支援後に普通の企業等に戻れるようになることが大事だと思います。

個人的には、受け入れ先の行政側も『外部人材をどう活かすか』についての研修をやるべきだと思っています。外部人材にルーチン業務をやらせるだけなら、普通の採用で地元の若い人材を採用して育てあげるほうがその地域や行政のためになります。ただのマンパワーを補う募集ではないことの意味をもっと考えるべきだし、そのビジョンがないなら、そもそも募集などしないでほしい。組織的、制度的な問題だと感じています」

 第一部の講演終了後の質疑応答でも、田村氏は次のような指摘をしていた。

「青年海外協力隊も全く同じ構図になっていますが、日本社会は一時期職場を離れた人を評価しないのが現状です。しかし、今後迎える人口変動社会では、新卒一括採用が難しいために中途採用が増えます。つまり多様なキャリアを持った人を採用する企業が増える。そこから日本社会の意識が変わっていくのではないかと期待しています」

復興の担い手が一部の企業や個人だけに限られている現状では、当然、そのスピードは遅くなる。今後は社会全体で「復興支援というキャリア」を正当に評価していくことがより重要になっていくだろう。
[ PR企画 / 日本財団 ]

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