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第345回(2015年10月3日)

仏教本第二弾「仏教通史」を上梓しました(あくまで趣味の本です)。ご興味がある方は、出版社(大法輪閣、03-5466-1401)までお問い合わせください。明日から社会保障制度の調査のためにドイツに出張しますが、その前にマイナンバー制度に関するメルマガ345号をお送りします。

1.マイナンバー前史

来年1月から利用が始まるマイナンバー制度。それに先立ち、10月からマイナンバーが記された「通知カード」の郵送が始まりました。

「マイナンバー制度というもの」が始まることは認識しているものの、経緯や内容については「よく知らない」という人も少なくありません。この際、経緯等を整理してみます。

米国の社会保障番号(税にも利用)は戦前の1936年、スウェーデンの個人識別番号は1947年、英国の国民保険番号の1948年に創設。諸外国では同種の制度導入が進みました。

そして日本。古くは佐藤栄作内閣が1968年に「各省庁統一個人コード連絡研究会議」を設置。いわゆる「国民総背番号制」として話題になりました。

行政事務の効率化、国民の利便性向上等の観点からは理解できるものの、まだまだ戦前の全体主義(管理国家)の残像が拭えない時代。世論の反発が激しく、頓挫しました。

その後も延長線上の議論が現れては消え、消えては現れ、時間が経過。筆者が国会議員に初当選した2001年頃は、まだ否定的な世論が主流だったような気がします。

そのため、導入直前だった「住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)」に対しても批判的ムードが強かった印象が残っています。

「住基ネット」では住民基本台帳上の国民に11桁の住民票コードを付番し、行政機関が国民の行政情報を共同利用することを企図。

2002年に第一次稼動。行政機関への本人確認情報の提供が開始され、従来必要とされた住民票の写し添付等が省略可能となりました。2003年に第二次稼動(本格稼動)。住基カードが発行され、住民票の写しを全国どこの自治体でも取得可能となり、引っ越し時の転入転出手続の簡素化等が実現しました。

2004年には公的個人認証サービス(電子証明書交付)、2006年には旧社会保険庁による年金受給者の現況確認がスタート。毎年誕生月に提出が必要な年金受給権者現況届の提出が不要となりました。

便利になったように思えますが、住基カード交付率は約5%。今やその存在も忘れられかけています。かくいう筆者も使ったことがありません。

その一方、基礎年金番号、健康保険被保険者番号、旅券番号、納税者番号、運転免許証番号、住民票コード、雇用保険被保険者番号等々、行政機関が個々に業務番号を付番。

縦割り行政、重複投資、国民は不便という状況が継続。折しも、2007年に「消えた年金」問題が露呈。再び、行政事務の効率化、国民の利便性向上に関心が集まり、新たな番号制度創設への機運が高まりました。

2.二の舞

2009年の政権交代を契機に、社会保障・税一体改革の一環として新たな番号制度の検討が進展。2011年、政府・与党(民主党)は「社会保障・税番号大綱」を決定し、2012年に関連法案を提出。しかし、衆議院解散に伴って同法案は廃案。

政権交代後の2013年、政府・与党(自民党)は前政権の法案をベースとして再提出。同年5月、マイナンバー法が成立しました。

以後、準備がスタート。しかし、同年7月、JR東日本のSuica利用履歴販売問題が発覚。

購入企業は同履歴を駅周辺のマーケティング等に活用する「ビッグデータ」と認識。これを契機に、ビッグデータの利活用、個人情報保護との関係がクローズアップされ、マイナンバー制度のあり方にも議論が波及。

JR東日本は、Suicaのデータを販売することを事前に利用者に対して説明しておらず、個人情報の無断販売が問題視されました。

具体的な対象データは、首都圏約1800駅でのSuica利用乗降履歴。JR東日本は累計約4300万件のSuicaを発行。駅名・改札日時だけでなく、記名式SuicaやモバイルSuicaの場合は年齢・性別も含まれていました。

JR東日本は「個人が特定できないので個人情報ではない」「したがって、ユーザーの事前同意も不要」との主張でしたが、いずれにしても、これに端を発して個人情報保護法に規定される「特定個人情報保護委員会」の改組等が検討され、2015年3月、同法とマイナンバー法改正案が国会に提出されました。

同法案は衆議院を5月21日に通過。同22日に参議院で質疑開始。ところが、その直後、今度は日本年金機構の125万件に及ぶ年金情報流出問題が発覚。

審議は滞り、結局、マイナンバー制度と年金制度の接続を1年半遅らせる修正等を加え、9月9日に成立。そして、いよいよ10月を迎えました。

マイナンバーは国内に住民票がある人を対象に付番される12桁の個人番号。無作為に決定され、原則として生涯その番号を使い続けます。

番号、氏名、住所、顔写真を表示したプラスチック製のマイナンバーカードも来年1月から希望者(申請者)に交付され、カードは身分証明書としても使えます。

マイナンバーが活用されるのは、税、社会保障、災害対策の3分野に関連する行政事務。行政機関は業務ごとにバラバラの情報を、マイナンバーで結びつけることが可能になります。つまり、マイナンバーは異なる行政事務や制度間のブリッジ(橋渡し)役。

例えば、確定申告時の住宅ローン減税申請や年金受給開始申請の際に添付が必要だった住民票は不要になります。

また、転職して健康保険が変わる場合、児童手当受給者の毎年現況届提出時の必要書類も減ります。「消えた年金」問題のような事象も減少するでしょう。

災害発生時の「被災者台帳」(氏名、住所、被災状況など)にもマイナンバーを記載し、被災者への給付金支給等を円滑に進めることを企図しています。

個人用の電子情報サイト「マイナポータル」も導入されます。行政機関による自分のマイナンバー利用履歴の確認、納税額や年金受給額等の確認も可能となります。行政機関が個人の事情に応じて利用可能な行政サービス(各種手当等)をオンラインで通知する「プッシュ型行政」も採用されるそうです。

何だか良いことずくめのようですが、国民側のこうしたメリットが実用に供する(マイナポータルが始まる)のは2017年以降。つまり、行政機関がオンラインで相互接続するのは17年1月、地方自治体も加わるのは同年7月以降。

そもそも、10月以降のマイナンバー通知、それを受けた国民の返信。来年1月以降のマイナンバーカードの交付・受け取り。個人や企業の諸事務の準備・運営等、懸案は山積。予断は抱けず、住基ネット(住基カード)の二の舞になる危険性は大いにあります。

3.メリットと懸念

成立した改正法では、原法(旧法)にはなかった特定健康診査(メタボ健診)情報の利用も盛り込みました。つまり、利用範囲の拡大。

先々は旅券申請や自動車登録等、様々な行政手続への活用、カルテ等の医療情報との連動等を想定しているようですが、スタート前から少々欲張りの感は否めません。

そうした中、2018年から預貯金口座とマイナンバーの連動を決定。当面は預金者の自主性に委ねられますが、2021年からの義務化も検討予定。これが波紋を呼んでいます。

マイナンバーはメリットの一方で、多くの懸念があることも再認識しておく必要があります。その筆頭は財政との関係です。

マイナンバー導入の背景に巨額の財政赤字問題が関係していることは否定できません。急速な高齢化で社会保障費が膨張する中、財務省に「取れるところから取る」という意識がないと言えば嘘になるでしょう。

介護制度でも、今年8月から単身で1000万円超、夫婦で2000万円超の預貯金保有者は、特養等での食費・部屋代の補助対象から外れました。今後、医療制度においても、保有資産規模によって自己負担割合等が変わることが予想されます。

こうした対応は、国民の資産を正確に把握できることが大前提。財政赤字解消のために、預金封鎖による預貯金カットの危険性を指摘する意見もあります。

「大袈裟だ」と言いたいところですが、中央銀行(日銀)による国債の実質的引受け、その手段としての出口のない日銀の異次元緩和に依存している現実を考えると、「大袈裟だ」と一笑に付すことはできません。

第2は犯罪。マイナンバーカードにはICチップが内蔵されており、クレジットカードやキャッシュカードとして使用することも可能。証券・保険・ショッピング等、様々な民間ビジネスに活用が広がることが予想されます。

そうなれば、犯罪増加も必定。残念なことですが、社会から犯罪者はいなくなりません。情報漏洩、詐欺等の犯罪との「イタチごっこ」が続くでしょう。

番号制度先進国の米国や韓国では犯罪が多発。米国でのなりすまし犯罪被害者は1000万人超(2006年からの3年間)。韓国では昨年だけで1億件以上の個人番号等の情報が流出。公的給付金の不正受給、クレジットカードの偽造使用などが後を絶たず、制度見直し議論も起こっています。

日本の住基ネットでも、ヤミ金・探偵業者への番号流出(苫小牧市、加古川市)、磁気テープ盗難(二本松市)、ウィルス感染による番号流出(斜里町)、対象業務の違法外部委託(足立区)、なりすまし使用(京都市)など、検索情報で分かる範囲でも相当あります。

第3はシステム利権。マイナンバーシステム構築には当然コストがかかります。現在までの投入予算は約3000億円と言われていますが、今後も運営・維持管理費等がかかります。

2011年当時、担当部局が何の根拠もなく「約1兆円必要」と主張していたのを戒めた記憶があります。関係者がよほど注意力を発揮しないと、システムコストが膨張していきます。

第4は事業者負担。マイナンバーを扱う事業者は、漏洩・流出防止等の管理運営、そのためのシステム構築や事務対応等の負担を余儀なくされます。中小零細企業にとって、負担が大きいと言えます。

なお、企業にも13桁のマイナンバー(法人番号)が付番されます。法人番号は公開され、自由に利用できます。法人番号は個人番号のような懸念は少なく、取引管理等に関連した業務効率化が期待できます。

第5は国家の暴走。プライバシー保護との関係です。マイナンバーによって個人情報が集約され、それが政府の下に集積・管理されることに伴う危険性です。

権力は腐敗します。性善説で対応することはできません。マイナンバーは権力を肥大化させる危険性を内包していることを理解しておくことが必要です。メルマガ333号(2015年4月15日)で取り上げた「オーウェリアン」の懸念です。

最後に、消費税との関係にも付言します。改正法成立直後に突如報道された消費税10%時の軽減措置として財務省が検討していた還付方式による「日本型軽減税率制度」。

買い物時にマイナンバーカードを提示し、食料品購入履歴をサーバーに保管。年間4000円を上限に2%増税分を還付するという案です。

還付金が4000円になる年間消費額は逆算すると22万円(税込)。つまり、年間22万円までの買い物の消費税率は8%、22万円超分の消費税率は10%になります。

小売店へのマイナンバーカード読取機器の設置、データセンター(サーバー)開発、個人情報漏洩防止のセキュリティ対策、マイナンバーカード非保有者への対応等々が必要となるため、この案は数多くの批判に晒されました。

財務省は還付方式を断念したとされていますが、そう簡単には引き下がらないでしょう。軽減税率、還付方式、給付付き税額控除等の諸手段を巡る今後の議論から目が離せません。再びマイナンバーを活用する案が出てくるかもしれません。

それにしても、財務省案をスクープしたのは読売新聞。新聞軽減税率実現に向けた財務省案潰し説や、安保法案最終局面での関心そらし説も飛び交っています。

マスコミが政治的な動きをするようでは、上記の第5の懸念、すなわち国家の暴走による「オーウェリアン」懸念は高まるばかりです。マスコミの良心と矜恃はどこにいったのでしょうか。

(了)

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