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スマホエコノミーを読み解く アップルの一人勝ちの次に来るものは何か? - 川手恭輔 (コンセプトデザイン・サイエンティスト)

9月9日にサンフランシスコで開催されたアップルのスペシャルイベントで、新型のiPhoneやiPadなどが発表された。すべての製品が正常進化したという印象で大きなサプライズもなく、CEOのティム・クックのキーノートでスタンディングオベーションが起こることはなかった。


iPhone6sを発表するティム・ククCEO(Getty Images)

スマホエコノミー

 2013年にスマートフォンの出荷台数が10億台を超え、デジタル時代の経済圏の中心はパソコンからスマートフォン(スマホエコノミー)に移った。マイクロソフトに代わってその頂点に立ったアップルは、持続的なイノベーションによって、スマホエコノミーを破壊することなく安定的に拡大するようにコントロールしようとしている。これは「時計も、音楽もiPhoneのため」という記事でも書いたことだ。

 いまのアップルにとって重要な顧客は、マジョリティと呼ばれる新しい製品の購入やサービスの利用に慎重な人々だ。イベントに詰めかけたアップルのファンにではなく、ようやくスマートフォンの利用に踏み切ったマジョリティ達にフォーカスすることが、今後、収益性と成長率を高めていくためにアップルが採るべき戦略だろう。iPhone5やiPhone5sを使っているマジョリティたちは、その機器になんらかの不具合が生じたときに、安心して新型のiPhoneを購入することができる。しかし当分のあいだ、彼らがApple WatchやApple TVを購入することはないだろう。


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 米IDCが公表した第1四半期と第2四半期の数値を合計すると、今年の上半期のスマートフォンの世界出荷台数は、前年比12.8%増の6億7150万台になる。サムスンは前年比7.4%減の1億5560万台、アップルは13.8%増の1億870万台だった。高機能・高価格のスマートフォンは、ほぼサムスンとアップルだけになり、ソニーやLGは失速してその他に分類されるようになってしまった。代わって、ファーウェイ(華為技術)やシャオミ(小米科技)といった、そこそこの性能を持った低価格のスマートフォンを武器に中国のメーカーが台頭してきた。

一人勝ちのアップル

 スマホエコノミーを形成する事業領域は、スマートフォンなどの端末とクラウド、そしてその間を取り持つ通信の3つに分類でき、それぞれが大きく3つのレイヤーを持つ。スマートフォンがコモディティ化しつつあるといわれる中で、唯一、高価格を維持できているiPhoneを提供するアップルの事業領域は図のようになっている。


アップルの事業領域
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 アップルは、デザインによってiPhoneの提供価値を最大化している。それは、形状やユーザーインターフェイスといった目に見えるデザインだけではなく、その端末を利用したときにユーザーの内側に生まれて残る体験のデザインを意味している。ユーザーの内側に生まれて残る体験とは、他では得ることのできない「気持ち良さ」や「感動」といった言葉で置き換えても良いだろう。

 アップルは、新しい技術を部品として世界中から調達し、それをOSとアプリによってユーザーが体験できる価値に変換する。例えば、iPhone6sの3D Touchと呼ばれる新しい操作方法では、指でディスプレイを押したときに、その圧力の大きさによって指にかすかな振動が返ってくる。この機能は、それぞれ別の部品メーカーの、感圧センサーと振動モーターを組み合わせて実現されている。

 さらに、アップルはiCloudというiOSと連携したクラウドサービスを提供している。 iCloudを利用すると、アップルが提供するアプリのデータや写真や音楽のバックアップや、iPhoneやMacなどのアップルの端末間での同期を自動的に行うことができる。

 アップルは、OSとアプリそしてクラウドサービスを自社で提供することによって、最大の収益源であるiPhoneに、他にない価値を付加することに成功している。

コモディティ化に巻き込まれるサムスン

 それに対し、Android OSを採用するサムスンやソニーは、これまでのように端末のハードウェアだけで差別化することが難しくなってきた。


サムスンやソニーの事業領域
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 Android OSはソースコードが公開されており、それを採用するスマートフォンの(セット)メーカーも独自の機能をOSに組み込むことはできる。しかし、スマートフォンのアプリを開発するサードパーティーにとって、Androidスマートフォンのメーカーごとの異なった機能に依存したアプリを開発することは、コストとリスクを考えるとメリットが少ない。また、別のメーカーの端末に買い換えたときに、同じ(だと思っている)Androidスマートフォンであるにもかかわらず、前の端末で利用していた機能がなくなってしまったり、操作性が異なっていたらユーザーも戸惑うだろう。

 このジレンマから、Androidスマートフォンは完全にコモディティ化してしまった。サムスンは多大なマーケティング費用をつぎ込んで、なんとかトップのシェアを維持しているというのが現状だろう。2014年の7-9月の四半期のサムスンのSGA(販売費及び一般管理費)は82億ドル(売上431億ドルの19.1%)で、ほぼ同じ売上規模のアップルの32億ドル(売上421億ドルの7.5%)と比べると非常に大きいことがわかる。

 サムスンのハイエンドのGalaxy Sシリーズも高価格を維持することはできず、新製品を発売しても、しばらくすると値下げしなければならない状況で、低価格機もファーウェイやシャオミといった競合との価格競争に巻き込まれている。サムスンは、このままSGAのレベルを維持することができたとしても、トップシェアホルダーの座をアップルに奪われるのは時間の問題だろう。

 端末の部品のレイヤーには、村田製作所(チップ積層セラミックコンデンサー)、日本電産(振動モーター)、アルプス電気(オートフォーカスと手振れ補正用アクチュエーター)などの、高い技術力を持った日本のメーカーがいる。皮肉なことに、スマートフォン事業が低迷するソニーも、イメージセンサーを他のセットメーカーに提供する事業は好調だ。

スマホエコノミーを加速するクラウドのサービス


フェースブックの事業領域
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 クラウドの領域では、フェースブックやツイッターなどのソーシャルネットや、音楽やニュースやゲームなどのコンテンツを提供するサービスなど、多くのプレイヤーがひしめき合っている。タクシー配車のウーバー(Uber)や、宿泊施設の貸し借りを仲介するエアビーアンドビー(Airbnb)といった、スマホエコノミーの外の既存のビジネスを脅かす新しいサービスも次々と生まれてくる。彼らはサービスを利用するための専用のアプリを提供して、スマートフォンのトップ画面を奪い合っている。この競争が、スマートフォンの価値を高めて、スマホエコノミーを加速しているといえるだろう。

 フェースブックのような巨大なクラウドサービスの事業者は、インフラ(データーセンター)を保有するだけでなく、サーバーなどのハードウェアも自社で開発して効率化をすすめている。

通信領域のMVNOという動き

 通信の領域では、エリクソンやノキアといった基地局やバックボーンネットワークを構成するハードウェアレイヤーの通信機器ベンダーが、サービスレイヤーの事業者からのアウトソーシングでインフラを提供するケースが多い。


エリクソンやノキアの事業領域
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 そのグローバルなモデルに対し、日本ではNTTドコモなどのサービスレイヤーの事業者の主導で規格の策定や技術開発が行われ、通信機器ベンダーが製品化した通信機器を購入して、サービスレイヤーの事業者がインフラを保有している。日本のモバイル通信は、この垂直統合によって新しい技術がスピーディーに導入され、高速化と大容量化が先行した反面で、世界から孤立したガラパゴスといわれたモバイルネットワークが生まれてしまった。

 しかし、LTE時代になって、日本でもグローバルな通信機器ベンダーと協調して規格の策定や技術開発が行われるようになり、少しずつインフラレイヤーが世界と共通になりつつある。そして、サービスレイヤーに特化した事業者(MVNO)が現れるようになった。


グーグルの事業領域
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 グーグルは、今年4月にProject FiというMVNO事業を発表した。スプリントとT-モバイル(USA)の2つのキャリアの回線と、フリーのWi-Fiサービスを組み合わせて、スマートフォン向けの通話とデータ通信サービスを提供するという。利用できるスマートフォンが、グーグルブランドのNexus 6の一機種に限定されており、まだ実験的な取り組みであるように思えるが、端末と通信とクラウドを水平に統合することによって、スマホエコノミーの中に新たな変化を生み出そうとしているように見える。

次の変化はどこで起こるか

 カメラも携帯音楽プレーヤーも携帯ゲーム機も、かつてハードウェアであることがあたり前であった多くのものが、スマートフォンのアプリになってしまった。そして、(スマートフォンのアプリではなく)ハードウェアでなければならない理由が明確なものが生き残った。

 例えばGoProは、ビデオカメラの市場が世界的に縮小を続け、 2014年には1000万台を切ってしまったといわれている中で、対前年35%増の520万台弱を出荷している。売り上げの伸びは41%で、粗利率も45%に達している。日本のカメラメーカーも、アクションカムと呼ばれるこのカテゴリーの製品で後を追おうとしているが、なかなか追いつくことができない。

 それまでのビデオカメラが、特に利用シーンを特定しない汎用機であったのに対し、GoProは激しいスポーツシーンでの利用に特化した。ビデオカメラが、スマートフォンのアプリやデジタルカメラの一機能に代替されて、そのハードウェアとしての存在意義がなくなってしまっても、GoProはそれらでは代替されることはなかった。GoProはハードウェアでなければならない理由が明確だった。

 デジタル一眼レフカメラもハードウェアでなければならない理由がある。しかしカメラメーカーは、その価値を製品やマーケティングに反映して、市場に明確に伝えることができていない。その隙に、アップルは「iPhone6で撮影」というテレビCFやポスターによるキャンペーンによって、カメラがハードウェアでなければならない理由をなきものにしようとしている。 


次の変化の場所
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 かつてハードウェアであることがあたり前であったものが、スマートフォンのアプリになってしまったもう一つの理由として、それがクラウドにつながっていないということがあげられる。

 音楽はCDという物理的なメディアで購入するものではなく、インターネットで購入してパソコンやスマートフォンにダウンロードするものになった。そして、音楽は購入して所有するものではなくなりつつある。Apple Musicが開始されて、音楽のストリーミングサービスが急増した。

 もはや音楽をスマートフォンに保存する必要はない。膨大な量の音楽を管理して検索して選択するためのユーザーインターフェースも必要なくなる。音楽は、ヘッドホンのようなハードウェアでなければならない端末に、直接ストリーミングされれば良いはずだ。

 その端末には、ストリーミングサービスが提供するキュレーションやレコメンドの機能などとのコミュニケーション・インターフェースが必要になる。それは例えば、今年のGoogle I/Oで発表されたSoliプロジェクトのような指先のちょっとしたジェスチャーと、デバイスからの音のフィードバックを組み合わせれば実現できるだろう。

 スマホでないものを、それがハードウェアでなければならない理由を明確にし、そしてクラウドにつなげて関連する情報やコンテンツをクラウドと交換する。人々が常に携帯しているスクリーンを備えたスマートフォンで、そのハードウェアや情報をコントロールすることができるようになる。スマホエコノミーの顧客に、これまでになかった新しい体験を提供できる環境が整ってきたのではないだろうか。

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