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鬼怒川水害のヘリによる大規模救助を支えた技術

読売新聞の報道によれば、先日の鬼怒川水害において、9月11日に投入されたヘリは総勢38機、ヘリによる救助者は茨城県全体で少なくとも1,145名に上ったという。FlyTeam ニュース時事通信によれば内訳は次のとおりだ(1機足りない)。

  • 自衛隊: 空自、陸自のUH-60、海自のSH-60など計15機による救助活動により10日20時までに254名救助。その他人員約480名、車両約70両、ボート約40隻も投入されており、自衛隊は404名を救助した。

  • 消防: 茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都の消防防災ヘリコプター6機による情報収集や救助

  • 警察: 6都県警察の8機による救助活動

  • 海上保安庁: 全国の基地から急行した7機による救助活動

  • 関東地域整備局防災ヘリコプター: 1機による状況把握

これだけ多数の機関にまたがるヘリが連携して救助活動にあたり、1日で1,000名以上の要救助者を迅速に救助できたのは、2度の震災の教訓を活かしたシステムの構築と関係者の不断の努力の成果であった。本エントリでは今回の大規模救助を支えた災害救援航空情報共有ネットワーク(D-NET)について取り上げたい。

震災の教訓2011年の東日本大震災では1日に最大300機のヘリが投入され、情報収集や救助活動にあたった。しかし、自衛隊、消防、警察等多組織にまたがるヘリが集結したため、効率的な活動が行えないという課題が残った。
例えば、複数の機体が同じ任務にあたってしまう。あるいは、すでに任務の必要がないのに現場に向かってしまい空振り出勤となる。多くの機体が同時に運用拠点に集結しまったために、待機している時間が長くなったり、給油場所が限られているために同じ時間帯に給油する機体が増えて順番待ちが発生する。また、狭い空域の中でたくさんのヘリコプターが飛ぶことによって、ヘリコプター同士が異常接近する可能性が高まるなど、いろいろあります。
JAXA | 災害時の救援航空機の情報を一元管理する
特に問題となったのは、各組織において独自サービスを提供する異なる動態管理システムが使用され、情報共有が困難であった点だ。多数の機体が集まることによる順番待ちや通信の輻輳も問題となった。以下に航空機による災害対応で今まで明らかになってきた主な技術課題を挙げる。

救助ヘリ運用技術課題
災害時のヘリコプター運用(課題と対応状況)

想定される首都直下地震では自衛隊や消防を初めとする425機のヘリが集結することが想定されている。今後起こりうる大規模災害に備え、救助活動の妨げとなる上述の課題を解決するために、どの機関のどの機体がどこに居てどこに向かっているのかといった機体情報や、どこに要救助者がいるのかといった災害情報を一元管理して救助活動を効率的に行えるようにしたシステムが、災害救援航空機情報共有ネットワーク(D-NET)である。

災害救援航空情報共有ネットワーク(D-NET)D-NETは、JAXAにより開発された、航空機、災害対策本部、防災関連機関等の間でやりとりされるデータを共有化することにより、航空機の性能や装備、機体の位置や状況等の情報に基づいて、最適な任務付与・運航管理を可能にする統合運行管理システムである。

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D-NET概要: 防災・小型機運航技術 | 次世代運航システム(DREAMS) | JAXA航空技術部門

JAXAでは、災害対応機関や自治体等の災害救援航空機ユーザと連携して研究開発を実施し、位置情報以外の高付加価値情報を、機体-地上間の双方向で通信するための標準仕様(D-NETデータ仕様)を策定した。これにより特定の機器に依存しない高可用性が実現されている。また、機体、地上隊、現地災害対策本部等の地上拠点、中央省庁対策本部等の地上拠点で情報を入力・表示するシステムも併せて開発されている。

今まではヘリと地上との連絡は無線による音声で行い、各機体の位置情報などは災害対策本部にあるホワイトボード等に書いて共有されてきた。それが、イリジウム衛星を介して情報の共有が双方向リアルタイムで行われ、災害対策本部やヘリ内の端末上に視覚化されて表示されるようになった。実証実験においてはD-NETの利用によって、状況の伝達や機体への指示管制にかかる時間が70%も短縮されることが確認されている。

これまでの運用評価によりユーザのニーズに応じて機器構成を柔軟に選択できるシステムの必要性が指摘されており、完全修理改造型、一部改造修理型に加えて完全持ち込み型システムなどの製品化が行われている(JAXA | 「D-NET対応搭載性向上型ヘリコプター動態管理システム」の製品化について)。

さらに2014年の4月には消防庁においてD-NETと連携した集中管理型消防防災ヘリコプター動態管理システムが運用開始している。この動態管理システムはヘリの位置確認機能やメッセージ送受信機能、検索機能、ルート送信機能などを有し、従来のメール方式から格段に堅牢性が向上している。他のD-NET対応動態管理システムとの情報共有も可能となっているため、大規模災害においてより効率的な航空機運用が可能になると期待される。

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端末表示例: JAXA | 総務省消防庁によるD-NETに対応した集中管理型消防防災ヘリコプター動態管理システムの運用開始について

実はこのたびの鬼怒川水害は本システムが本格的に運用された最初のケースであった。これにより組織の垣根を超えて各機体が効率的に運用されたため、迅速な救助が可能になったのである。

今後の発展D-NETについてはより多くの機関や他システムとの連携が計画されている。また、衛星・無人機との連携を目的として、情報統合表示システム、災害救援機の最適運行管理システムの開発が進められており、2013年度より後継となる災害救援航空機統合運用システム(D-NET2)の検討が開始されている。D-NET2では、夜間や天候不良時の災害初動において陸域観測技術衛星や無人機の災害情報も活用し、航空機の最適運用の判断支援を行うとされており、2017年までには技術実証が行われる予定だ。

有事の際に国民の生命・財産を守るためには、平時から過去の教訓に基づく技術開発、体制整備、訓練などの準備が欠かせない
。有事が起こるはずがないと思考停止して、必要な準備を怠った事が福島第一原子力発電所事故を引き起こしたのだ。今回の鬼怒川水害では災害の規模に比して犠牲者数は少数に留まった。これは、D-NETを含む適切な準備がしっかりと行われてきたからに他ならない。

こういった名も知れない多くの方々の不断の努力によりこの国の安全は保たれている。

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