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アベノミクスの景気回復は中小企業に及んでいないという妄言

統計データを恣意的に選択、加工して自分の仮説に都合のよい結果を抽出するのは、研究者として戒めるべきことだが、中にはデータを加工し、自分の偏った政治的な主張にとって都合のよい結果を捻り出す方々もいるので注意しなくてはならない。

そんな典型的な悪しき例を週刊エコノミスト8月11-18日号「学者に聞け、視点争点」「アベノミクスの勝ち組は巨大企業だけ」で見た。個人批判が目的ではないので当該著者の名前は書かないが、著者によって歪められる前のデータの示す本当の姿をここに提示しておこう。

この著者の主張は、アベノミクスによって生じた景気回復は、大企業の利益を増加させただけであり、中小企業は取り残されており、むしろ利益はマイナスにさえなっているという主張が財務省の法人企業統計で「裏付けられる」と言っている。

まず奇妙なことは, ①電力業と不動産業を除外している(除外の理由が述べられているが、私には意味不明)、②大企業として資本金10億円以上の企業を対象にしているのは良いだろうが、中小企業としては資本金1000万円以上1億円以下の企業のみを対象にしており、なぜか1000万円以下の企業が除外されている。

以上の選択的に加工されたデータを使って、「アベノミクスにより、巨大企業の利益は拡大している。それは全体のパイが大きくなったわけではなく、巨大企業に有利なように分配方法を換えた結果に過ぎない」という主張が「データでも裏付けられた」と言っている。しかもアベノミクス期としては2013年度の1年度のデータのみである。

著者が示すデータの詳細は、同雑誌をご覧頂くとして、ここでは2000年度から9月1日に公表された2014年度までのデータに基づき、また電力業と不動産業を除外せずに、かつ中小企業として資本金1億円未満のすべての企業(つまり著者が除外した1000万円以下の企業を含めて)を対象にデータを見ると、どのような姿が浮かぶか、それをグラフで示すことにしよう。

大企業も中小企業も利益の回復・増加度はほぼ同じ

まず以下の図1,2,3は、2000年度から14年度までの営業利益、経常利益、税引き前当期利益の推移を、資本金10億円以上の大企業と1億円未満の中小企業に分けて示した。リーマンショック後の不況の底である2009年度を100として指数化してある。(データは財務省法人統計、金融・保険を除く全産業)(金融・保険が除かれているのは私の選択ではなく、オリジナルデータ自体がそのようなカテゴリーでできているためだ)

図1


図2


図3


2009年度を起点に見ると、営業利益ではやや中小企業の増加度が大企業のそれを上回り、経常利益では双方とも同じ程度、税引き前当期利益で見るとやや大企業の増加度が中小企業を上回る。このトレンドについてアベノミクス以降の2013年度、14年度も変わりはない。 概括して大企業も中小企業も同じ程度に回復、増加している。 ほとんどこれ以上コメントすら不要なほど明瞭だ。

大企業と中小企業の利益率の格差はアベノミクス前から存在しているもの

もちろん、ここで私は利益の時系列的な変化を指摘しているのであって、大企業と中小企業の間にある絶対的な格差を否定しているのではない。その点を見るために、大企業と中小企業の利益率の推移を見てみよう。

図4


図5


図6


図4,5,6は上記と同じ3種の利益の売上高に対する比率(売上利益率)である。これで見ると、いずれの利益率で見ても、「大企業の利益率>中小企業の利益率」が趨勢的に存在していることがわかる。

線形近似線を描くと、売上高・経常利益率は僅かに格差縮小トレンド、売上高・経常利益率と税引き前当期利益率は僅かに格差拡大トレンドを示している。 ただし重要なポイントは、大企業と中小企業の利益率格差は、アベノミクス開始前から存在してものであり、アベノミクス開始で格差拡大に転じたとは、データを見る限り到底言えないということだ。

むしろ利益率格差は、景気回復が持続すると拡大し、景気後退時にはむしろ縮小する循環的な傾向を示しているようであり、2003-07年の景気回復期にも同様の格差拡大が見られ、2009年の不況期に格差は縮小している(ただし1億円未満というデータのカテゴリーは2003年からしかないので、90年代に遡ってそれが循環的なものであること十分に示すことはできない)。

最後に従業員給与・賞与+福利厚生費の推移を見ておこう

図7


この分野でも、給与など増加は大企業ばかりという見方が世間で根強いのだが、データが示す事実はやや異なる。ただしこのデータは総額の変化であって一人当たりの変化ではない点に注意、つまり

「雇用者数×一人当たり人件費」の変化を示している。

図7が示す通り(2009年=100)、資本金10億円以上の大企業に比べて1億円未満の中小企業は2011年度、12年度は、給与・賞与+福利厚生費総額の相対的な増加度がやや大きい。ただし、2013年度、14年度はむしろ違いが縮小し、ほぼ横ばいだ。 

興味深いことに資本金1000万円の小企業は2011年度に大きく増加している。これは中小企業を対象にした雇用助成金の影響かもしれないが、もっと詳しく調べないとわからない

以上、総括するとアベノミクスによる景気回復が大企業ばかりに恩恵を与え、中小企業は置き去りにされているというのは、データを素直に読む限り、その支持を得られないと言えよう。もちろん、アベノミクス以前から大企業と中小企業の格差は存在しており、それが解消に向かっているわけではないが、ことさらに拡大しているものでもないということだ。

むしろ現下の日本経済の問題は、企業部門の利益面での好調さにもかかわらず、それが労賃の増加として家計に十分還流しない点にあると私は考えている。その点は既に以前論じた通りだ。

以下ご参照

http://masaharu-takenaka.jp/pdf/201507_gakkai.pdf

法人企業統計は以下のサイトで利用可能

http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000001047744&requestSender=dsearch

近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日

http://masaharu-takenaka.jp/index.html  ホームページ

http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakamasaharu/  Yahooニュース個人

https://www.facebook.com/masaharu.takenaka?ref=tn_tnmn  facebook

https://www.youtube.com/channel/UCsPXwhPxyDX0d0FChMTdW5Q 

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