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海外に長期滞在する日本人の変化を見てみる

海外で暮らした経験のある人に会うことは多いですし、子供がいま海外で暮らしているという年配者に会うことも少なくありません。また、海外在住の人(外国人と結婚した日本女性が多いようですが)のTwitterやブログは人気があるので見つけやすく、いろいろな面白い海外生活情報などを知ることができます。そこで、海外で暮らす日本人(=日本国籍者)はどれくらいの人数がいて、どこで何をしているのかを多少なりとも知りうるデータがないか探してみました。

日本国大使館や総領事館は、「海外における邦人の生命及び身体の保護その他の安全に資するため」旅券法の定めにより提出が義務付けられている「在留届」を基礎資料として調査を行い、各年10月1日現在の「海外在留邦人」の状況を把握しており、その統計が毎年公開されています。
<外務省「海外在留邦人数調査統計http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000043.html

まず、「海外在留邦人」の定義を確認しておきます。「在留邦人」は、海外に3か月以上在留している日本国籍を有する者で、「永住者」と「長期滞在者」に区分されます。「永住者」は、(原則として)当該在留国等より永住権を認められており、生活の本拠をわが国から海外へ移した邦人を指します。「長期滞在者」は、3か月以上の海外在留者のうち海外での生活は一時的なものでいずれわが国に戻るつもりの邦人を指します。したがって、3ヶ月未満の短期滞在者(旅行者)は「在留邦人」には含まれません。

以上を理解した上で、「海外在留邦人」の推移をグラフにしてみました。

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2014年10月1日現在の「永住者」は44万人で、1989年の25万人から25年間で19万人(76%)増加しました。「永住者」は、たとえば米国のグリーンカード(永住許可証)を取得した日本国籍者などが想定されます。通常永住許可は簡単には得られないので増加は緩やかですが、それでも2005年ころから僅かながら上向いてきているように見えます。「永住者」が死亡や帰国などで減る数はあまり多くないと想定されるので、全体の増加は新たに外国の永住許可を得る日本人が僅かながら増加している結果ではないかと推定されます。しかし、「永住者」の変化が日本国内に与える影響は基本的にきわめて小さいものです。

他方、2014年10月1日現在の「長期滞在者」は85万人で、1989年の34万人から25年間で51万人(150%)も増加しました。「長期滞在者」は、2002年から2006年までかなり大きく増加した後、ほぼリーマンショックに重なる2007年から2010年の間は横ばい気味に推移し、2011年からまた増加基調に転じています。「長期滞在者」の多くはある期間を過ぎると日本に帰国するので、帰国者を上回る新たな長期滞在者の増加があったということです。「長期滞在者」が入れ替わり続けることで、日本人のうちの海外滞在経験者が累増していくことになります。たとえば、単純計算では、平均2年で入れ替わるとすれば、日本国内には20年で850万人の海外滞在経験者が生まれる理屈になります。

以下では、「長期滞在者」に絞って、もう少し詳しく見ていくことにします。まず、2014年10月1日の「長期滞在者」85万人は、どの地域でどんな職業についているのかをグラフにしてみました。

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全世界の「長期滞在者」85万人のうち、46万人(54%)は「民間企業」に勤務する人、18万人(21%)は「留学・研究者」、5万人(6%)は「自由業」に従事する人、2万人(2%)は日本「政府」関係の仕事に従事する人で、(このグラフ上の)「その他」14万人(16%)には同伴家族も含まれます。

最も「長期滞在者」が多いのは「アジア」地域の35万人(全体の41%)で、うち「民間企業」25万人は世界全体46万人の55%を占め、「留学・研究者」2万人は世界全体18万人の13%を占めます。2番目に「長期滞在者」が多いのは「北米」地域の26万人(全体の31%)で、うち「民間企業」12万人は世界全体46万人の27%を占め、「留学・研究者」9万人は世界全体18万人の48%を占めます。3番目に「長期滞在者」が多いのは「西欧」地域の15万人(全体の17%)で、「民間企業」5万人は世界全体46万人の11%を占め、「留学・研究者」5万人は世界全体18万人の26%を占めます。

以上の結果は、中高年にはかなり違和感があります。以前は、海外勤務といえば米国や西欧が主であってアジア勤務は商社やプラント会社勤務の人を除けばかなりまれなことだったからです。

そこで最後に、世界の都市圏別の「長期滞在者」数の推移を見てみることにします。都市別のデータは1996年から2013年までしか公開されていませんが、時系列変化を知るにはこれで十分です。

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上のグラフの、2013年10月1日現在の都市圏別「長期滞在者」数上位9都市の合計は28万人で、世界全体84万人の33%を占めます。

1996年は、ニューヨークが45千人で抜きん出た1位で、シンガポール25千人・香港23千人・ロンドン22千人・ロサンゼルス18千人・バンコク17千人が10千人を超えて続いていました。このとき上海はこの9都市の中で最下位の5千人しかいませんでした。2001年ころから、アジアの上海・バンコクと北米のロサンゼルスが急増した半面、アジアのシンガポール・香港や西欧のロンドン・パリは横ばいに推移しました。ニューヨークは2003年をピークに漸減に転じ、概ねリーマンショックと重なる期間にいったん大きく減少した後回復しましたが、減少傾向は強まっているように見えます。

2007年以降上海はニューヨークを抜いて世界で一番日本人の「長期滞在者」が多い都市になっています。しかし、そうなってからまだ8年しか経過していないので、日本国内にいる上海滞在経験者はニューヨーク滞在経験者よりもまだまだはるかに少ないということが言えます。また、直近の傾向として、ニューヨークや上海が減少しバンコクが増加しているのは、日本企業の活動の軸足が北米から中国、更に中国からASEAN諸国に移りつつあることを反映しているように見えます。

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