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階層社会では誰も「透明」ではいられない - 田中俊英

■階層社会=暴力社会

いろいろな報道が重なってわかりにくいが、どうやら日本は本当に「階層社会」になったらしい。子どもの6人に1人が貧困、年収120万円強が1,000万人超え、非正規雇用が全労働者の4割等、毎日のメディア報道を見ていても、「では、貧困層は何割くらいいるの?」という素朴な問いにストレートに答えてくれるものはあるようでない。

僕も長らくはっきりとわからなかったが、たとえばちょっと古いがこの記事(悪化する日本の「貧困率」 社会政治・外交)などを見ていると、どうやら2,000万人程度が「相対的貧困者」(手取り年収122万円程度、手取り月9万切る程度)のようだ。

ここにはもちろん子どもも含まれ、2,000万人程度が月9万で生活している。「貧困」はもう少し収入がある人も含まれるだろうから、そうなると「4割の非正規雇用」にも重なる。

現在日本では、 4割の人々が年収250万に届かないラインで生活しており、その相対的貧困者前後の層で、児童虐待、ステップファミリー(再婚等での複雑な家族構成)、DV(妻への暴力)、「第四の発達障害」(虐待を起因とした発達の遅れ)等が生じているようだ。

このように階層社会とは、単に貧困層が増えることを指しているのではなく、虐待の被害者に象徴される、圧倒的「弱者」が日々生産される社会のことを指す。

ゼロ年代はじめまではこうした事態と我が国は関係ないと長らく思われてきたが、リーマン・ショックあたりからあっというまに我々の社会は階層社会、つまりは虐待社会、暴力社会となってしまった。

■ひきこもりはミドルクラスの問題

これはおそらく事実だと思われるが、僕がさまざまな「会議」に出ていて感じることは、この階層社会化した日本という事実を、支援者会議に出ている人々は油断すると忘れているということだ。

当然それらの人々は支援者であったり、支援者をマネジメントする管理側の人々だ。

だからそんな支援者や管理者がそうした階層社会が現実化した事態を知らないわけではない。が、なんとなく今の日本が「階層社会」であることを忘れている。

もっというと、たとえば「ひきこもり」問題のような典型的ミドルクラス問題にいまだ拘泥している。

こういうと、ひきこもり支援者は反発を抱くかもしれないが、ひきこもり(あるいはニートでもいいが)というシングルイシューにこだわることができる(あるいは悩むことができる)余裕がある人々、余裕がある階層は、ミドルクラスといってもいい。

ひきこもりは長らくミドルクラスの問題であり、それは今もそうなのだが、ミドルクラスのボリュームダウン(アンダークラスのボリューム化)にともない、それは徐々に日本においては、その問題を俯瞰的に見た時には、たいした問題ではなくなってきている。

その証拠に、階層化が激しいエリア(たとえば僕が支援対象として戦略的に選択した大阪市南部においては)では、ひきこもりという単独イシューでは保護者講座にしろ保護者支援にしろニーズが低い。

ひきこもりやニートという単独イシューを消すほうが、市民からの本当のニーズを引き出すことができるのだ。

■「透明な存在」はありえない

そうしたこと(ひきこもりはミドルクラスの問題等)を議論する土俵が日本にはまだない。

それは、ひきこもりといったミドルクラス単独イシューは単独イシューではなく全国民的なイシューだと、ミドルクラスから上の人々はまだまだ信じているからだ。

ミドルクラスから上の人々は、知識としては日本は階層社会化しているらしいと認識し始めている。が、実感としては、まだまだその階層化を実感できない。だから、階層化に伴うさまざまな問題(虐待等)を実感としてわからない。

なぜかというと、それがミドルクラスだからだ。虐待や暴力や貧困などとは程遠い生活をしている、ミドルクラスから上の人々だからた、だ。

つまりはこれが「階層社会」ということである。

そしてこの階層社会を語るとき、どこからも中立な「透明な存在」としては誰もこの社会を語れないと、『サバルタンは語ることができるか』の著者G.スピヴァクは指摘する(たとえば僕のこの記事参照誰が高校生や若者を「代表」するんだろう?)。

一見中立的な意見を述べる人々がこれからも現れるだろうが、その「中立」はありえない。発信者は誰もがどこかの階層に属するからだ。

誰もがどこかの階層に属しており、その属し方の自覚があってこそのマイノリティ把握・分析だとスピヴァクは語るのだ。

そういう意味で、日本は階層社会になった。★

※Yahoo!ニュースからの転載
田中俊英

一般社団法人officeドーナツトーク代表

子ども若者支援NPO法人代表(02〜12年)のあと、2013年より一般社団法人officeドーナツトーク代表。子ども若者問題(不登校・ニート・ひきこもり・貧困問題等)の支援と、NPOや行政への中間支援を行なう。03年、大阪大学大学院「臨床哲学」を修了。主な著書に、『ひきこもりから家族を考える』(岩波ブックレット)ほか。京都精華大学非常勤講師「こころと思想」。13年、内閣府「困難を有する子ども・若者及び家族への支援に対する支援の在り方に関する調査研究企画分析会議」委員 、14年はユースアドバイザー講師(内閣府、広島ほか)。

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