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「参議院選挙区の“合区”は、次回で廃止する」という、確かな与野党合意を - 南部義典

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、「憲法」の観点から検証していきます。

 お盆休みが明けました。国会会期中にもかかわらず、この1週間は事実上の休会となってしまい、せっかくの緊張感を失ってしまったのが残念です。秋にかけて、自民党総裁選挙、野党共闘の行方など、政局のニュースが中心になっていくでしょう。

 衆議院の解散総選挙は当面ないと思われるものの、来年7月には参議院選挙が予定されています。与党に関して言えば、“安倍色”を封印して臨んだ前回参議院選挙(2013年7月21日)からの3年間をしっかり評価し、けじめをつけてもらう機会です。しかしその前には、与党にも野党にも、選挙制度改革のけじめをつけてもらわないといけません。永田町では「もう終わった」という空気が支配的ですが、とんでもありません。

合区法は、手続、内容どちらも問題

 7月28日、参議院の選挙制度改革に関する、いわゆる合区法が成立しました。参議院の都道府県選挙区で、最大4.75倍(北海道/鳥取 ※1)に拡がっている較差を是正することが目的です。

 合区法の内容は、(1)都道府県選挙区の例外として、鳥取県と島根県、徳島県と高知県をそれぞれ一つの選挙区として合体すること(2つの「合同選挙区」とする)、(2)北海道、東京都、愛知県、兵庫県及び福岡県の定数をそれぞれ2名増、宮城県、新潟県及び長野県の定数をそれぞれ2名減とするものです。議員の総数は変わりませんが、都道府県選挙区(合同選挙区を含む)の一票の較差は、最大で2.97倍(※2)になります。

 最高裁は昨年11月26日、最大で4.77倍の較差(北海道/鳥取 ※3)が生じていた前回参議院選挙について、「違憲状態」と判示しました。「都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っている」とも指摘していました。

 国会はこれまで、最高裁の違憲状態判決を受けては、その都度、参議院の都道府県選挙区制を死守しながら、「○増○減」という議員定数の微調整を繰り返してきました。しかし、昨年の最高裁判決は、そのような国会の場当たり的な対応を否定し、都道府県の枠を超えた選挙区制(地域ブロック制など)の導入による、違憲状態を解消する(⇔一票の価値の著しい不平等を解消する)法整備を、国会に求めたのです。ちまたで云う「抜本改革」です。  

 合区法は一票の較差を縮め(4.75倍→2.97倍)、最高裁の期待に応えているようですが、この法整備の手続、内容には、無視できない問題があります。まさに“後悔先に立たず”で、次回参議院選挙は、合区法に従って行われますが、私はこの際、合同選挙区は次回限りで廃止するという、確かな与野党合意を求めます。次々回(2019年7月予定)までに、真の意味での制度改革が実現することを強く願うからです。今回は、手続上の問題に焦点を当てます。

(※1、※2)2010年国勢調査人口を基準にした数値

(※3)当日有権者数を基準にした数値

倫理選挙特別委員会で行うべき、一切の審査を省略
与野党どちらも同罪

 各党の協議が行き詰まっていた割には、合区法はあっけなく成立しました。それもそのはず、合区法案を提案した参議院5会派(自民、維新、次世代、元気、改革)の議員が、“委員会審査省略要求”という究極の抜け道を準備して、参議院倫理選挙特別委員会における一切の審査手続を外し、本会議における“一回勝負”の法案審議を以て「ジ・エンド」にしてしまったからです。残念ながら、この点は対案の提出者(民主ほか4会派)も同じことを企んでいました。

 本来、合区法案が提出されれば、倫理選挙特別委員会に審査の場を移して、何回も委員会を開いて、法案を提出した議員や政府担当者に対する質疑を行い(制度、運用の問題点の洗い出し)、合区対象となる4県で公聴会を開いて、各県在住の有権者、関係者の意見を汲み取るといったプロセスが、想定されたはずです。現在、安全保障二法案も、労働者派遣法改正案も、刑事司法改革法案も、その内容はともかく、委員会の場で同じような手続きを踏んでいます。

 選挙制度改革は、何より合意形成の手順が重要で、有権者との対話の中で合理的な着地点が見出せるものです。また、参議院には少数会派がいくつもあり、質疑の機会を保障しなければなりません。倫理選挙特別委員会で1~2カ月、十分な時間をかけて議論を重ねることの必要性は、誰しも否定できなかったはずです。  

 7月24日、参議院本会議でまさに一回勝負の法案審議が行われ、参議院の議論は終結してしまいました。委員会審査省略要求が付された件に関しては、井上哲士議員(共産)がただ一人、自民と民主の法案提出者に鋭く質していましたが、「改選を迎える参議院議員の任期が、2016年7月25日までなので、残りちょうど1年となる。制度改正の準備・周知に1年間は必要と考えると、法案審議をできるだけ急いだ方がいい」、「すべての会派が参加した参議院選挙制度協議会では、2013年9月27日から2014年12月26日まで計31回開かれ、その過程で各界の識者を参考人として招致し、精力的に議論してきた。倫理選挙特別委員会で同じような議論を行う必要はない」と、法案提出者は逃げの答弁にとどまりました。

 合区の採用は、参議院史上初めてのことです。導入までの準備・周知に1年間は必要、との考えは普通には理解できます。しかし、残りちょうど1年というタイミングまで、粘りに粘って抜本的な改革を遅らせてきた責任の所在を、まず明らかにすべきでしょう。残り任期1年というタイミングは、委員会審査の省略を正当化する理由にはなりません。また、準備・周知に丸々1年間を要するとも思えません。むしろ、9月下旬まで国会会期が大幅延長となったことから、本当に時期的な限界が来るまで、倫理選挙特別委員会の審査を続けるべきだったと私は考えます。

 また、参議院選挙制度協議会(前記)は、一般には非公開で行われてきたものです。協議回数だけ重ねて、結果として、アリバイ作りのためだったと批判されても仕方ありません。合区対象となる4県では、当地にずっと住み続けている有権者ばかりでなく、転居等によってこれから当地の有権者となる場合もあります。倫理選挙特別委員会の審査を通じて、制度改正の趣旨の説明を尽くすことが必要不可欠だったはずです。

 委員会審査省略要求とは元々、(1)すべての政党・会派の意見が一致して提出される法律案のほか、(2)東日本大震災の後に内閣が提出した、統一地方選挙の期日を特例として延期する法律案のように、特に緊急を要し、委員会で法案審査を行う時間的余裕がない場合に限って、行われてきています。しかし今回は、(1)(2)どちらにも該当しません。いたずらに、悪しき先例を作ったことになります。抜本改革とは程遠い内容が白日のものとなり、与党にも野党にも批判の矢が集中することを恐れたのでしょう。この点で与野党の利害が一致し、委員会審査をわざとパスしたのです。

参議院のツケが、衆議院に回ってしまう

 合区化は、選挙区の強制合併に他なりません。対象4県はいずれも1人区で、現在、自民党議員が議席を独占しています。4人のうち2人は、合同選挙区で続けて立候補する可能性が残るものの、あとの2人は立候補できなくなります。椅子取りゲームがすでに始まっています。

 今月1日と2日、自民党幹部が相次いで対象4県に赴き、同党県連幹部と会談を行いました。当然、どの県でも非難轟々の仕打ちを浴びるわけですが、党幹部は合同選挙区で公認できない現職議員を「比例代表で救済する」という趣旨のことを述べ、現地の理解を求めているようです。しかし、参議院の全国比例代表制は、2000年7月の選挙から「非拘束名簿式」に変わり、今や「個人名」を書いてもらう方式が定着しています。比例代表に回すのは自由(政党の裁量)ですが、ただでさえ人口が少ない対象県で、比例代表の投票で名前を書いてもらうだけでは、当選を担保できません。まして、2000年以前の「拘束名簿式」に戻すのは党利党略に他ならず、到底、国民の理解が得られません。

 現行制度上、採りうる救済策は限られます。結局、椅子に座ることができない現職は、参議院議員をいったん退いてもらい、次回の衆議院議員総選挙の「比例ブロック」の上位に名前を載せることになるのでしょう。不十分な制度改革のツケが、衆議院の側に回ってしまいます。何のための二院制か、誰のための選挙制度か、という点を問わなければなりません。

抜本改革に向けた議論を、ただちに

 「参議院は衆議院と均しく国民を代表する選挙せられたる議員を以て組織すとの原則はこれを認むるも、これがため衆議院と重複する如き機関となり終わることは、その存在の意義を没却するものである。政府は須(すべから)くこの点に留意し、参議院の構成については、努めて社会各部門各職域の智識経験ある者がその議員となるに容易なるよう考慮するべきである

 これは、1946年8月21日、衆議院で憲法改正案を審査していた(通称)芦田委員会における附帯決議の一文です。二院制を採る以上、両院議員の選出方法は、できるだけ対極に置くことが基本ですが、憲法制定時から、どんな人物が参議院議員となるに相応しいのか、ずっと悩みの種であり、参議院選挙制度のあり方に関して、70年間、模索が続いてきました。この模索は永遠に続くわけですが、そもそも参議院は、衆議院のお零れ(おこぼれ)を拾う場所ではありません。国民意識も少しずつ変わってきました。一票の較差をできるだけ1:1に近づけるという要請が、近年特に強くなっていることは言うまでもありません。

 合区法の附則7条を見ると、「平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて、参議院の在り方を踏まえて、選挙区間における議員一人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとする」との“宿題規定”が置かれています。抜本改革の約束を果たすべきことを、法律の条文にわざわざ書き込んでいます。

 珍しく、条文に「必ず」との文言が入りました。これは、議会不信、自己不信の反映でしょう。抜本改革が実現できなかったら、その時点で、全議員の法律違反が認定されます。

 選挙制度は、政党の所有物ではありません。合区は次回限りという確約のもと、各党が頭を切り替え、抜本改革の議論を一日も早く再スタートすることが肝心です。自民党幹部はいま、選挙区調整を急ぐことで頭がいっぱいかもしれませんが、あと1カ月、通常国会の残り会期をフルに使って、与野党協議を進めるべきです。

 4年後、2019年の今頃がちょうど参議院選挙の投票日です。直前に、慌てて合区を増やす顛末にならないことを祈るばかりです。

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