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それでも安倍談話を非難する? 安倍首相戦後70年談話と村山談話(1995年)比較

昨晩行われた戦後70年の安倍首相会見における談話、比較ポイントを3点に絞って1995年の村山談話と読み比べてみよう。

安倍談話全文:戦後70年安倍首相談話
村山談話:「戦後50周年の終戦記念日にあたって」(いわゆる村山談話)

1、どのように国策を誤ったのか?

安倍談話引用:

「百年以上前の世界には、西洋諸国を中心とした国々の広大な植民地が、広がっていました。圧倒的な技術優位を背景に、植民地支配の波は、十九世紀、アジアにも押し寄せました。その危機感が、日本にとって、近代化の原動力となったことは、間違いありません。アジアで最初に立憲政治を打ち立て、独立を守り抜きました。日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました。

 世界を巻き込んだ第一次世界大戦を経て、民族自決の動きが広がり、それまでの植民地化にブレーキがかかりました。この戦争は、一千万人もの戦死者を出す、悲惨な戦争でありました。人々は「平和」を強く願い、国際連盟を創設し、不戦条約を生み出しました。戦争自体を違法化する、新たな国際社会の潮流が生まれました。

 当初は、日本も足並みを揃えました。しかし、世界恐慌が発生し、欧米諸国が、植民地経済を巻き込んだ、経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けました。その中で日本は、孤立感を深め、外交的、経済的な行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みました。国内の政治システムは、その歯止めたりえなかった。こうして、日本は、世界の大勢を見失っていきました。

 満州事変、そして国際連盟からの脱退。日本は、次第に、国際社会が壮絶な犠牲の上に築こうとした「新しい国際秩序」への「挑戦者」となっていった。進むべき針路を誤り、戦争への道を進んで行きました。そして七十年前。日本は、敗戦しました。」

村山談話引用:

「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。」

村山談話では「国策を誤り」と言っているだけで、どのような国際情勢の中で、どのように国策を誤ったのか、その説明が全くない。その点、安倍談話では先日公表された有識者報告をベースにその歴史的な過程が説明されている。そのことを通じて、主要な過ちが第1次世界大戦後に起こった点も明らかにされている。 戦前の日本を明治期まで遡って一括りに否定するような歴史認識の粗雑化を許さないために、これは重要な説明だろう。

2、侵略、植民地支配、反省、お詫びなど

安倍談話:

「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない。事変、侵略、戦争。いかなる武力の威嚇や行使も、国際紛争を解決する手段としては、もう二度と用いてはならない。植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない。

 先の大戦への深い悔悟の念と共に、我が国は、そう誓いました。自由で民主的な国を創り上げ、法の支配を重んじ、ひたすら不戦の誓いを堅持してまいりました。七十年間に及ぶ平和国家としての歩みに、私たちは、静かな誇りを抱きながら、この不動の方針を、これからも貫いてまいります。

 我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。その思いを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました。こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります。」

村山談話:

私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。」

村山談話のこの部分の主語が「私は」であるのに対して、安倍談話では「我が国は」「こうした歴代内閣の立場は、今後も、ゆるぎない」となっている。この点をさっそく日本共産党の志位委員長は「「反省」と「お詫び」も過去の歴代政権が表明したという事実に言及しただけで、首相自らの言葉としては語らないという欺瞞に満ちたものとなりました」と批判しているが、果たして公正な批判だろうか?

直接話法から間接話法になってトーンダウンしているという批判は公正か?

主語が村山談話の「私は」に代わって「我が国は」となっているが、これは首相が何らかの意味で日本を代表して語るときの語法としては全く真っ当なものであり、批判される理由が理解できない。

さらに言えば、村山元首相は1924年生まれであり、学徒出陣で日本陸軍歩兵になり、終戦時点では陸軍軍曹の階級で終戦を迎えたという戦争経験世代であったため、首相としての立場と戦争体験者の自分個人が重なり、「私は」という主語になったと理解できる。それはある意味で自然なことだ。

一方、安倍首相は戦後1954年生まれであり、戦争体験者としての「私」は存在しない。したがって自分が経験したことではないが、日本国を代表して語る首相として「我が国は」となったののも自然なことだ。反省やお詫びを弱める意図があったというのは、中傷・誹謗の類だろう。

過去形にすることでトーンダウンしているという批判は公正か?

この点も、「こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」と語っているのだから、語っている事実に基づかない誹謗・中傷だろう。

3、戦後生まれの世代が、戦争に対する道義的な責任、お詫びを共有すべき理由はない?

前回のブログで私が取り上げたこの問題に関連して、安倍首相は談話の中で以下述べている。もちろん村山談話にはない部分だ。

引用:

「日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。」

 首相談話でこの一言が盛り込まれたおかげで、私はほっとした。首相の語りとしてはこれで十分だろう。この点に関連して、談話後の質疑応答で産経新聞の阿比留さんがすかさず以下のフォローを入れている。

引用:

「Q:今回の談話には「未来の子どもたちに謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」とある一方で、「世代を超えて過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません」と書かれています。ドイツのワイツゼッカー大統領の有名な演説の「歴史から目をそらさないという一方で、みずからが手を下してはいない行為について、みずからの罪を告白することはできない」と述べたのに通じるものがあると思うのですが、総理の考えをお聞かせください。

A:戦後から70年が経過しました。あの戦争には、何ら関わりのない、私たちの子や孫、その先の世代、未来の子どもたちが、謝罪を続けなければいけないような状況そうした宿命を背負わせてはならない。これは、今を生きる私たちの世代の責任であると考えました。その思いを、談話の中にも盛り込んだところであります。

しかし、それでも、なお、私たち日本人は世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければならないと考えます。まずは、何よりも、あの戦争のあと、敵であった日本に善意や支援の手を差し伸べ、国際社会に導いてくれた国々、その寛容な心に対して、感謝すべきであり、その感謝の気持ちは、世代を超えて忘れてはならないと考えています。

同時に過去を反省すべきであります。歴史の教訓を、深く胸に刻み、よりよい未来を切り開いていく、アジア、そして、世界の平和と繁栄に力を尽くす、その大きな責任があると思っています。そうした思いについても、合わせて今回の談話に盛り込んだところであります。」

TVで談話と質疑応答を見ていて、この部分で溜飲が下がる思いだった。これでいいだろう。

最後にもう一点、「安保関連法案で支持率が低下して来たので、首相は自身の真意を曲げて、妥協した内容を語ったのだ」という非難の仕方がある。 しかしこれは語るに値しない非難だ。

有権者としての私にとって首相の個人的な心情などには関心がない。首相という公人として、何を語り、何を行うか、それが全てだ。近代的な政治、政治家と有権者の関係、さらには国家を代表する政治家相互の関係とは、そういうものだろう。欧米の政治家もみなそう考え、そう反応するだろう。

前述の日本共産党の立場としては、安倍談話がなんと言おうと、避難・反対するのが彼らの政治的な宿命のようだから、もはや論外だろう。

むしろ試されるのは韓国と中国の対応だ。英語を含む各国語で安倍首相談話は公表されるので、各国の政治関係者らも読み、中韓以外からは「これでOK」「よかった」という反応があるはずだ。この内容をもってしても、例えば韓国が対話を閉ざすというのであれば、それは韓国が意固地に日本と世界の良識に背を向けていることを露にするだろう。

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