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正念場を迎えた「戦争賛美本」との闘い(編集部)

日本会議、文科省も絡む教育右傾化の潮流

自民党や右派勢力は、育鵬社の歴史と公民の教科書を採択させようと自治体の首長を集めた「教育再生首長会議」を立ち上げるなど、これまで以上に攻勢をかけている。改憲や戦争立法に対する闘いと同様、この教科書の採択阻止が急務だ。

安倍晋三首相や下村博文文部科学相を筆頭とした政府・自民党、そして日本会議をはじめとした右派勢力は現在、育鵬社版の全国採択率4%を10%に拡大するため、かつてなく積極的な布陣を敷いている。

だが、育鵬社版教科書は教育現場での評価が極めて低い。先進国では常識の「教科書採択に当たっては教員の意見を尊重する」(ILO・ユネスコの『教員の地位に関する勧告』)という原則を破ってまでも、政治介入するしか方法はないのだ。

その具体的な現れが、自治体首長の抱き込みだ。2014年6月2日、「教育再生首長会議」(会長・松浦正人山口県防府市長)なる団体の設立総会が開かれた。これには下村文科相が挨拶に駆けつけたが、現在まで約90人にのぼる加盟首長を抱く自治体は、育鵬社版の採択が強行される懸念が持たれる。

すべては育鵬社版採択へ

この「教育再生首長会議」の事務局が置かれているのは、「安倍晋三内閣が進める教育改革を民間の立場からサポートする」という、「教育再生をすすめる全国連絡協議会」なる団体。さらに同「全国連絡協議会」の事務局は、「日本教育再生機構」の内部に置かれているからだ。

この育鵬社の共同事業体ともいえる「日本教育再生機構」の理事長である八木秀次・麗澤大学教授は首相の有力ブレーンの一人で、首相直属の諮問機関「教育再生実行会議」の「有識者」委員にも任命されている。

さらに「日本教育再生機構」は顧問の11人中、3人が「日本会議」の幹部役員を兼任しているなど、両者は組織・運動面で密接な関係にある。「日本会議」は各自治体の教育委員会に対し、「新しい教育基本法の趣旨をふまえた教科書採択を求める」という名目の請願を提出し、暗に育鵬社版採択を要求する例がこのところ各地で目立つ。東京都江東区の区議会では、自民党議員などから「(育鵬社以外の教科書は)自虐史観に基づくもの」といった、明らかな政治介入を意図した発言が繰り返されている。

つまり、「教育再生首長会議」──「教育再生をすすめる全国連絡協議会」──「日本教育再生機構」(育鵬社)──「日本会議」のラインは、安倍・下村両氏の路線に直結し、すべては彼らの推す教科書採択に向けて動いているといえるだろう。

「教育再生首長会議」結成直後の同月13日、首長の教育行政への関与を強める地方教育行政法が改定された。「日本教育再生機構」側は施行された今年4月1日以降、「教育委員は各首長が定める『教育大綱』に示された方針に従って教科書採択をしなければならなくなった」と主張している。

だが文科省の小松親次郎初等中等教育局長は4月22日の衆院文部科学委員会で、教科書採択制度に関する共産党の畑野君枝議員の質問に対し、首長が「特定教科書会社、1社の教科書を採択するとしか解せないような方針」はとれないと答弁している。いずれにせよ「教育再生首長会議」に首長が加盟している自治体では、育鵬社版採択の動きが要注意だ。

一方で文科省は今年1月29日、都内で開かれた省主催の政令指定都市教育委員会・教育長協議会の席上、「教科書採択の留意事項について」と題した資料を配布。そこでは、「(教科書)調査員からの報告等を鵜呑みにしたり、教職員の投票によって採択教科書が決定されたりするなど、教育委員会の責任が不明確になるような採択の手続は適当ではありません」などという注意事項が明記されていた。

政令指定都市があぶない

あたかも、「現場の意見などに耳を貸すな」と言わんばかりだが、これについて教科書検定制度に詳しい出版労連の寺川徹副委員長は、「教育委員の大半は教育の専門家ではなく、十分な検討ができないため、現場の教員を中心とした調査員の意見がこれまで重視されてきました。それなのに文科省がそのような資料をわざわざ配布したのは、何か不自然な意図を感じる」と指摘する。

「政令指定都市は川崎市を除いて教科書採択区が近年一区に統合されてしまい、人口が多いから横浜市のように採択されれば一挙に部数増につながります。当然、育鵬社版推進側は政令指定都市を狙っていますから、今回の資料もそれと無縁ではないのでは」

実際文科省は13年から14年にかけ、所属する沖縄県の八重山採択地区の決定とは別に、育鵬社版ではない別の公民教科書を採択した竹富町に対し、「違法だ」などとして執拗に育鵬社版を押し付けようとしたのは記憶に新しい。

このため、今回の教科書採択に当たっては、政令指定都市が焦点となっている。特に注目されているのは、橋下徹市長によって、(1)教科書調査研究の観点に「愛国心」の度合いを調査する項目が追加、(2)教科書に関する学校調査の事実上の廃止──といった、露骨な現場無視の施策が強行されている大阪市だ。

こうしたなか、育鵬社版教科書が使用されている横浜市で5月28日、教科書採択にあたっては教員や専門家、市民の意見を尊重し、政治が介入するのを止めるよう求めた「教科書で始まっている戦争できる国づくり」と題する集会が、約700人の参加で開かれた。

さらに広島市でも5月30日、「迫る!中学校教科書採択! 子どもたちを戦争にみちびく教科書はいらない!」と銘打った県民集会が開かれ、約220人が参加。今後の取り組みとして、教育委員会の傍聴と会議録の開示請求等による、不公平な採択が行なわれないための監視──等が確認された。

大阪市でも6月6日、名古屋市で13日に現場の意向を反映した公平な教科書採択を求める集会を予定。6月19日から2週間、各地での教科書展示会が開かれた後、8月いっぱいにかけて採択が行なわれるが、安倍首相が強行可決を狙う戦争法案と並び、教育現場で今夏、「子どもたちを戦争にみちびく教科書」を阻止する闘いが、正念場を迎えようとしている。
(2015年6月5日号)

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