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【寄稿】高校野球から見る真夏の部活動―「激しい運動は中止」のなかでの全国大会 - 内田良

熱中症への注意喚起と夏の甲子園


この時期、TVのニュース番組を観ると、その日の猛暑ぶりが報じられ、「明日も熱中症に十分に気をつけましょう」と注意が喚起される。そして続くスポーツニュースでは、まさにその炎天下でプレイする高校球児の姿が映し出される。

はたして「明日も熱中症に十分に気をつけましょう」という注意は、いったいどこに消え失せてしまったのだろうか? まるで甲子園は暑くて当たり前であって、そこに疑いの目など挟んではならないかのようである。

かくいう私も、甲子園はけっして嫌いではない。いや、むしろ好きだ。とりわけ故郷の高校の活躍は、大いに気になる。だけれども、あの暑さだけは、観ていると苦しくなる。 甲子園は、教育活動の一環である部活動の大会である。教育とよぶにはあまりに過酷な環境のなかで、高校生がプレイしている。せめて、もっと身体への負荷が少ないかたちで、大会を実現できないものだろうか。

「激しい運動は中止」の時期に甲子園


ここで、熱中症の指標であるWBGTの値を用いて、甲子園の状況を調べてみよう。 WBGTとは、黒球温度、湿球温度、乾球温度の3つをもとに算出される値で、この値を用いて日本体育協会がスポーツ活動の指針を出している。WBGTの値が31℃以上では運動は原則中止で、28℃以上31℃未満では厳重警戒(激しい運動は中止)、25℃以上28℃未満では警戒(積極的に休息)とされる【図1】。

熱中症予防の運動指針 (日本体育協会、2013、『スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック』より転載)
【図1】熱中症予防の運動指針 (日本体育協会、2013、『スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック』より転載) 写真一覧

環境省の熱中症予防情報サイトから、WBGTの計測地点として甲子園球場の最寄りの神戸市の値を参照し、データが確認できる過去6年分(2009-2914)について、その平均値をもとにグラフを作成した【図2】<注>。

神戸市のWBGT測定値
【図2】神戸市のWBGT測定値 写真一覧

グラフからわかるように、5月から10月のなかでもっともWBGTの値が高い期間中に、夏の甲子園が開催されている。そこは、「激しい運動は中止」の時期に該当する。6年分の平均値のため見えなくなっているが、年によっては「原則中止」の31℃を超えている日もある。

グラウンドだけでなく、アルプススタンドの吹奏楽部も


暑さの問題を考えるとき、もう一つ目を向けるべきところがある。アルプススタンドだ。高校野球では、私たちはつい、選手の活躍ばかりに見入ってしまう。だが、もしかして選手以上にしんどい思いをしているかもしれないのが、アルプススタンドの高校生たちである。

あまり知られていないことだが、じつは甲子園のベンチには、エアコンが備え付けられている。ベンチの背面の壁とイスの間から冷風が出てくるという。したがって、選手はベンチにいるときは、日陰のもと比較的涼しい環境にいる。

他方で、アルプススタンドにいる応援団はどうだろう。とくに、私が「文化系運動部」とよんでいる吹奏楽部は、チームの攻撃中、そこで吹奏、いや運動を続けなければならない。相手チームの攻撃時は、いちおう休みをとることができるが、そうは言っても、選手がいるベンチとはちがって、日陰もなければエアコンもない。

数ある部活動のなかで野球部の応援を好んで、酷暑のなか、吹奏楽部員たちは演奏を続けている。ある意味、希有な存在とも言えるのだが、その割には世間の関心は薄い。

12時から15時を避ける


WBGTの計測値を時間単位でみてみると、12時から15時までにその日の最高値が記録されることが多い。そのようなことから12時から15時を避けて試合をおこなうことが求められる。 この点は、supersy氏の「夏の甲子園は本当に危険なのか、気象データ+αを元に検証する。完結編。」に具体的な想定が紹介されている。現行のタイムテーブルとの大きなちがいは、夜間を利用するという点である。プロ野球では、甲子園球場でナイターの試合が設定されていることを考えれば、夜間の試合というのは、現実味がないわけではない。

なお、夏季に開催される世界大会では、とくにマラソンのような体力の消耗が激しい競技種目の場合、暑い時間帯を避けておこなわれることがしばしばある。2007年8月に大阪で開催された世界陸上では、マラソンは朝の7時にスタートした。翌2008年8月の北京オリンピックでは朝7時30分のスタートであった。あまりに朝早い試合開始にはそれなりの問題が出てきそうだが、検討の余地はある。

甲子園だけでなく、地方大会、インターハイも


そうは言っても、高校野球で日中の時間帯を空けるというのは効率が悪いだろうし、諸々のコスト増大が予想される。しかし高校野球は、よかれあしかれ、日本の高校における部活動のあり方を象徴する存在である。生徒の身体的負荷に対して私たち大人がいかに向き合うのか。私たち大人の側の姿勢が問われていると言える。

そして、もっとも暑い時期に大会が開催されているのは、甲子園だけではない。全国大会の甲子園以前に、高校野球の地方大会が、「激しい運動は中止」にもかかわらず、平然と開催されている。

インターハイも同様である。陸上競技、サッカー、ソフトボール、登山、テニスなど、多くの競技において高校生が、7月下旬から8月中旬にかけて炎天下でプレイをしている。 甲子園は、私たちの関心の的である。だから、何かと槍玉にも挙がる。だが、「激しい運動は中止」のなかでのプレイは、甲子園に固有のものではない。それは日本の運動部活動、延いては日本の学校スポーツ全体が抱える問題でもある。

拙著『教育という病~子どもと先生を苦しめる「教育リスク」~ 』(光文社新書)で指摘したように、過酷な部活動というのはけっして「学校」の問題ではない。高校野球における観客やテレビ視聴者の熱狂ぶりに象徴されるように、それは私たち「市民」の問題であり、日本社会全体の問題である。

高校生はどのような状況であっても、そこでプレイするしかない。その舞台を整えるのは、私たち大人の側の仕事であり、責務である。

<注>平均値は、2009-2014の各年について、5月1日から10月31日の各日におけるWBGTの最高値を拾い出して算出した。

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