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貿易赤字の拡大について考えてみる(その2)

「貿易赤字拡大について考えてみる」では、2008年のリーマンショック以降の長期的な傾向として貿易赤字が拡大してきたことを説明し、その原因は、「鉱物性燃料の輸入の増加」だけでなく「機械類及び輸送用機器の輸出の減少」が大きいことを説明しました。過去15年で名目GDPと輸出額がピークだったのが2007年で、ボトムだったのが2009年でした。2010年以降輸出は大きく回復してきましたが、まだ2007年のピークの水準には届いていません。

この記事のアップが、たまたま原油価格の低下による貿易赤字縮小によって経常収支黒字が拡大したというニュースと重なりました。貿易赤字の拡大が止まって縮小に転じることは、長いスパンで見て大きな変化ですが、鉱物性燃料価格の大幅な低下が生じていたので、すでに十分に予測されていたことです。注目していた点は「機械類及び輸送用機器の輸出の減少」の方にあったので、直近でそれがどうなっているかをあらためて確認してみたくなりました。そこで、2015年1-5月の5か月の通関実績を2007年・2009年の同期間(5か月間)の通関実績と比較してみることにしました。


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2015年1-5月の輸出総額は31.3兆円で、ボトムだった2009年の1-5月の19.4兆円からは大きく回復していますが、ピークだった2007年の1-5月の33.1兆円に対してはまだ▲1.8兆円(▲5.4%)少ない水準にあります。内訳をみると、2015年1-5月の「機械類及び輸送用機器」輸出額は18.7兆円で、2007年1-5月の21.5兆円より▲2.8兆円(▲13.0%)少なくなっています。しかし、その他の輸出額は12.6兆円で2007年同期の11.5兆円を1.1兆円(+9.6%)上回っています。

また、2015年1-5月の輸入総額は33.0兆円で、2009年1-5月の29.2兆円を3.8兆円(+13.0%)上回っています。2015年1-5月の「鉱物性燃料」輸入額は8.3兆円で、2007年1-5月の7.4兆円を0.9兆円(+12.2%)上回っています。その他の輸入額は24.7兆円で2007年同期の21.8兆円を2.9兆円(+13.3%)上回っています。

これらの結果から、たとえばその他の輸出の増加をけん引しているのは何かというような、調べてみたくなることはいろいろ出てきますが、ここでは前のシナリオに沿って、まず、「鉱物性燃料輸入の増加」の内訳について見ていくことにします。


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2015年1-5月の「原油及び粗油」輸入額は3.5兆円で、2007年1-5月の4.4兆円から▲0.9兆円(▲20.5%)減少しています。他方、「液化天然ガス」輸入額は2.8兆円で2007年同期の1.2兆円より1.6兆円(+133%)も大幅に増加しています。2007年から2015年の間に全く異なる動きになっているので、さらに輸入量と輸入通関価格(円ベース)の変化を見てみます。


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2015年1-5月の「原油及び粗油」の輸入量は2007年1-5月の輸入量より▲15%減少していて、輸入通関価格(円ベース)▲5%低下しています。ですから、輸入額が▲20.5%(▲0.9兆円)減少したわけです。他方、「液化天然ガス」の輸入量は2007年同期の輸入量より34%増加していて、そのうえ輸入通関価格(円ベース)73%も上昇しています。ですから、輸入額が113%(1.6兆円)も増加しているわけです。2007年に比べて、「原油及び粗油」の輸入通関価格は下がっているのに「液化天然ガス」の輸入通関価格は上がっています。そこで、輸入通関価格の長期推移を見てみることにします。


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「原油及び粗油」と「液化天然ガス」の輸入通関価格(円ベース)の推移を1988年を100とする指数で比較しました。「液化天然ガス」の輸入価格は長期契約になっているので、「原油及び粗油」の輸入通関価格より値上がりも値下がりにも緩やかに推移しています。過去10年ほどは原油スポット価格の非常に大きな上昇と下落があったので、ある時点間でとると片方が値下がりし片方が値上がりする結果になっています。しかし、長期的にみると、「液化天然ガス」は「原油及び粗油」よりも価格指数が下方で推移しており、長期的には割安な輸入ができてきていると見ることができます。

さて、最後に、注目したポイントである「機械類及び輸送用機器」の輸出額の変化について、主な品目の輸出額の比較をしてみます。


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「機械類及び輸送用機器」の内訳品目は実に多岐にわたっています。そこで、2015年1-5月の輸出額が0.1兆円(1千億円)を超えている主な品目について、2007年同期および2009年同期の輸出額との変化を調べてみました。品目名を青い背景にしている品目は2015年の輸出額が2007年を上回っている品目で、逆に青い背景のない品目は輸出額が下回っている品目です。そのうち減少額が0.2兆円を超える品目には減少額を入れてあります。

このグラフから見えることを挙げてみます。

① 「機械類及び輸送用機器」輸出の減少額(2015-2007)は▲2.8兆円でしたが、乗用車▲1.0兆円/事務用機器(主に電算機およびその部分品)▲0.5兆円/半導体等電子部品▲0.5兆円/映像機器▲0.4兆円/音響・映像機器の部分品▲0.4兆円/2輪自動車▲0.2兆円の合計で▲3.0兆円になります。

② 「乗用車」は減っていますが「自動車の部分品」は増加していますから、海外生産は増加していることがうかがえます。他方、事務用機器(主に電算機およびその部分品)と「映像機器」は、「半導体等電子部品」も「音響・映像機器の部分品」も減っていているので、生産拠点の海外移転で減っているわけではなさそうです。

③ 2015年1-5月の輸出額が2007年同期を上回っている品目は沢山あります。生産拠点の海外移転に伴う部分品の輸出の増加と、(消費財ではなく)資本財の輸出増加、に特徴づけられるように見えます。全体としては、消費財輸出の減少(他方で消費財輸入の増加)と、資本財・部分品の輸出増加があり、全体としては輸出額の減少に働いていると見ることができます。

これらはすでに自明のことように思えますが、貿易統計によってその規模やスピードを把握しておくことは意味があるように思われます。

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