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日・米・中、コンテンツ戦争

私はコンテンツ制作者なので、これはメディア論でない私が最近見聞きした日・米・中のコンテンツ状況を語ってみたい。

最近アメリカのテレビドラマが元気だ。20年前、米国のこのシステムを知った時、驚嘆したのだが、アメリカのテレビのゴールデンタイム(プライムタイム)のドラマの多くはハリウッドのスタジオが製作している。その大きな理由は1960年代から90年代半ばまで存在していた「フィンシンルール(Fin-Syn Rule)」という、ホワイトハウスとハリウッドが結んだ協定にある。ハリウッドとホワイトハウスが強力な関係あるのは戦中からである。多くの戦意高揚映画が作られ、あのウォルト・ディズニ―でさえ反日の戦意高揚映画を作った。

戦勝国となったアメリカは、ハリウッド映画を自動車や航空機等と同様の米国発の世界商品と捉えた。また台頭する共産主義に対抗するアメリカの自由主義・資本主義礼賛の重要な宣伝装置として活用する。また、ハリウッドには強力なロビイストも生まれた。

スティーヴン・スピルバーグを育てたと言われるユニバーサルスタジオの親会社MCA会長のルー・ワッサーマン等は、完全なハリウッドのホワイトハウスロビイストで、実にマフィアまで顔が利く大物だった。だから、3大ネットワーク(CBS・NBC・CBS)が放送インフラを利用してコンテンツ王国を作るのを防ぐため、ハリウッドはテレビのプライムタイム枠の一定量を外部プロダクションに製作させる法令を米国法務省に圧力をかけて実現させた。

映画ビジネスというのはギャンブルだ。ヒットすればスタジオには巨額の収入が流入するが、失敗すれば想像を絶する赤字の山。「007」や「ロッキー」を作った名門「ユナイト映画」は、4400万ドルをかけたたった一本の映画「天国の門」の大失敗で売却された。映画はそういうビジネスだ。

それに比べると、テレビドラマはテレビ局から安定した制作費が入って来る。しかも、法務省はテレビ局に放送権しか持たせていないので、ハリウッドは海外販売、ビデオデッキが出来てからはVHSやDVD販売やiTunes・レンタルの2次利用やキャラクタービジネス・音楽ビジネス・TVドラマの映画化権も持っており、ボロ儲け。テレビ俳優から一流映画俳優への道もあり、クリント・イーストウッドからジョージ・クルーニーまで、テレビ出身者の「サクセスストーリー」を作れる。実に頭の良い人が居たモノだ。

しかし、かつてテレビ映画は劇場映画に比べ一段低いものに見られていた。ワンランク下の娯楽だった。それを変えたのが「ツイン・ピークス」('90)「Xファイル」('93)あたりからだろうか。決定的だったのは「ER緊急救命室」でした。一流中の一流作家マイケル・クライトンをワーナー・ブラザーズが引き込み。一回見たらやめられない脚本構造を作り出し、多数の登場人物を魔術的にさばく。レンタル当初、日本でも徹夜で見る人が続出した。

ケーブルテレビも黙っていなかった。HBOは非ハリウッドの「SEX and the CITY」で地上波の放送コードを軽々超えるセクシーなガールズトークで勝負。「24・TWENTY FOUR」はアクション映画のプロ集団を投入。「LOST」「デスパレートな妻たち」「HEROES」「マッドメン」「glee/グリー」では、絶対に当たらないと言われたミュージカルに挑戦。SFからゾンビもの「CSI」等の科学捜査モノも開拓した。

アメリカの場合、ケーブルテレビやインターネット放送のHuluやNetflixの放送コードは有料放送のためより自由度が大きく、多彩な表現が出来る。銃・カーチェイス・麻薬・殺人・マフィアと危険で多彩なアイテムがある。自分と家族を守る為、麻薬を大量密造する高校化学教師を描く「ブレイキング・バッド」はケーブルTVのAMCで放送され、大変な人気コンテンツとなった。ただ、これらのコンテンツはハリウッド及びハリウッド関係者によって制作されており、あのNetflixを一躍大舞台に上げた「ハウス・オブ・カード」も、監督のデビッド・フィンチャーはじめ首脳陣はハリウッド人脈だ。

このように、一本2億4000万円以上の製作費がかけられ、当たればシーズン化される米国製テレビドラマは、「ER」等の様にシーズン15まで続けば、俳優・監督・脚本家・原作者のギャラも莫大になり、映画をやるより割がいいし自由度もあるという事で一流の人材が集まる。したがって、彼らの手によって「映画より面白いもの」が出来ることもある。ハリウッド経営陣にとってもリスクが少ない(不振ならば途中でやめれば良いし、ハリウッドの目利きがパイロット版1本でシリーズ化を判断すれば良い。)。利益は2次利用を含めてかなりでかい。

かつて、スピルバーグが新作映画について話していた時、「我々ムービーインダストリー(映画産業)は」と言うのを聞いて愕然とした。「アメリカでは映画業界ではくインダストリー(産業)なんだ!」と。

もちろん、ハリウッド製テレビドラマは重要な米国の輸出品だ。英語圏を含めて、ヨーロッパ諸国や中国を含む世界の巨大マーケットを席巻している。映画・テレビドラマを国際戦略商品であるとホワイトハウスは捉えていると思う。利益も膨大で、予算もかけられる。善きにつけ悪しきにつけ、ハリウッドが強力なロビー活動で3大ネットワークを無力化した先見性は凄いと思う。

一方、日本の映画界はそこまでやらなかったのは、奢っていたのか油断していたのか。当時の事情は詳しく存じないが、日本のほとんどのテレビ局が制作機能を局内に持っていなかったら、アメリカの様になっていたかも知れない(そのように外部にプロダクション機能を持たせた方が良い、と言う意見も知っているが)。

しかし当時、日本映画界はテレビをむしろ「電気紙芝居」と低く見ていた。だから政府に訴えるような事もしなかった。その後の日本の映画会社の衰退はご覧の通り。でも、今後のテレビ局はサバイバルするためには制作機能を社内にキープしブラッシュアップする必要があると思う。制作機能を活用し、それを様々なプラットフォームに流通させる。時には地上波の放送基準を超えることも計算して(それが放送法的に出来るかどうかわからないが)。そして、優良なコンテンツを生み出すため、ハリウッドの様に一流の人材を育て、注入し、集める必要がある。

話は変わって、1991年、アメリカのゴア元副大統領がある提案をした。「情報スーパーハイウェイ構想」と呼ばれたその提案は、全米のインターネット普及率を爆発的に伸ばし、Microsoft、Yahoo!、Google、Apple、Facbook、Twitterなどの世界的IT企業が急成長を遂げた。これらの産業がいまのアメリカを支えている。これらの企業の興隆は、明らかにホワイトハウスの発した国策発動の結果だろう。実はゴア副大統領の父は全米の高速道路網整備の発案者で、アメリカの流通を変えてしまった男だった。「国策」と言うと、我々日本人は政治家の陰謀めいた何か(国策捜査とか)を感じてしまうが、世の中には「良い国策」と「悪い国策」があると思うし、個人的には、あらゆる情報が集積する巨大企業「グーグル」は間違いなく国家の支援を受けた国策企業であると思う。そしてハリウッド興隆の件も、実は計算された「国策」だった可能性がある。アメリカは実に油断の出来ない国だ。

今年3月、中国に行ってた。北京国際空港に着くと、Google、 Facebook、Twitter、LINEが使えない。噂には聞いていたが、実感してみると、突然酸素を断たれた感じがする。もちろん中国共産党による「国外への情報遮断とコントロール」が目的だ。しかし、別の目的もある。ITを国家インフラと捉えるという考えだ。

中国は外資IT企業の参入を許さなかった。これは国策だ。テンセント・アリババ・百度がビッグ3だが、3社の営業収入だけでも1兆6000億円を超えてしまう。外資に巨大な利益と国内情報を奪われたくないという、断固たる意志を感じる。色々非難もあるが、習近平国家主席は、実に切れ者の仕事人だ。汚職役人らを海外まで追跡し連れ戻し、海外に移した資産を凍結するいわゆる「キツネ狩り」。さらに、資金を流入させる仕掛けアジアインフラ銀行(AIIB)の設立。IT産業も国策企業化して急成長させた。今後アメリカ以上にIT化の徹底を行うと豪語している。

人口14億人の力はテレビ産業にも大きな影響を与えた。300局のテレビ局があり、北京だけでも200チャンネルのテレビが見られる。地上波・衛星・ケーブル・インターネット。これまで国営の中国電視台のテレビと地方局のテレビしか見ていなかった14億人がエンターテイメントに目覚めてしまったから大変だ。製作費は日本を遥かに凌ぐ巨額が投資され 、人口が大きいのでわずか2%で巨大ビジネス化する。

習近平を含む共産党幹部は『人民が情報統制されていても、人権が多少侵害されていても、「食糧が十分に与えられ」「生活が豊かになり、経済が好調で」「娯楽がちゃんと与えられ」ていれば、共産党一党独裁は守り切れるし、一党独裁だからこそ全てをコントロールし、経済成長が出来るのだ。』と考えているのだろう。確かに国策が上手く運営されれば、国力・産業力が上がって行くと思う。

3週間前、中国出張で知り合った「ドラえもん」が大好きだという中国のテレビ界の大立物が、人を介してある打診をしてきた。彼はもちろん我々が日本テレビ関係の人間であることは知っていた。

「あなたの力でスタジオ・ジブリを買えないか?」

耳を疑った。どこかで日本テレビとジブリの関係を知ったらしい。

「中国でジブリ・ランドとか作れば大変なことになりますよ。」

仲介の人が言う。私は全面的にジブリに与するものではないが、こう言った。

「それは、伊勢神宮とか国の宝を買いたいと言っている様なものだし、ジブリも外国企業に変われるのを望まないでしょう。無理ですね。」

どうやら、映像産業が急成長する中国でこういうことも起こっているらしい。

映像産業の振興は明らかに国家の指導のもと行われているわけだが、中国の方たちは資金があっても良質なコンテンツをどうやって生み出したら良いのか知らないらしい。考えれば文化大革命が発動されて文化が無茶苦茶にされたり、情報遮断が長期に行われていたのだからある意味仕方がないが、巨大資金を集めて、海外のものを導入しても、かなりの切れ者が指導し、才能がある人が育たない限り世界規模の産業にはならないだろう。まあ、市場が14億だからアイデアは輸入してしまおうという考えも分かるが。

さて、最後に日本の話だ。ある人と話をしていたら、その方がこんなことを言った。

「日本には国策企業は皆無だ。あえて言えばトヨタ自動車くらいか。」

なるほど、とうなずいた。日本にはゴア元副大統領やハリウッドを生き延びさせるために動いた大物のような、未来を見通して動ける人がいない。あえて言えばロッキード事件で失脚した田中角栄くらいだろうか。指導者と言っても、せいぜい1年後の事しか考えて場合が多いのだ。

国が豊かになる事は良い事ばかりではないのは知っている。しかし、欧米・中国を抜かせとは言わないが、政治家・官僚・企業家も強力なリーダーシップと使命感と先見性を持って、まだまだ伸びしろのある様々な産業を振興していってほしいと思う。小さなことで言えば、対外的に「クール・ジャパン」とか言っても、もはや国際商品になったアニメの書き手たちの給料を上げるシステムを考えるとか、本気になれば出来ると思うのだが。いかがだろう?

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