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なぜ、大塚家具はニトリに負けたのか - 神戸大学大学院経営学研究科教授/栗木 契

好調を維持するニトリ。巻き返しを図る大塚家具。明暗がわかれた家具小売りの両雄だが、両社はかつてその真逆の対比を見せていた時代があった。なぜ、逆転したのか。

大きな事業転換を求められている大塚家具

今年3月、大塚家具の株主総会が世間の注目を集めた。企業オーナー家の内紛は珍しいことではない。ここまで注目を集めたのは、同社の親族内のコーポレートガバナンスをめぐる対立が、委任状争奪戦という公開の場での争いにまでエスカレートしたからである。

この劇場型ともいえる対立には、叩き上げの父と、エリート大卒の娘というキャスティングの妙もあった。しかしその背景には、同社のビジネスモデルの問題がある。国内屈指の家具小売りチェーンである大塚家具は、大きな事業転換を求められていると見るべきなのだ。

大塚家具としばしば対比されるのがニトリ。いわずと知れた家具小売りの国内最大手である。ニトリは、家具分野を超えた国内屈指の優良小売企業としても知られる(矢作敏行『日本の優秀小売企業の底力』日本経済新聞出版社)。


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(1)ニトリ、大塚家具の売上高営業利益率の推移
(2)ニトリ、大塚家具の総資産経常利益率(ROA)の推移


オーナー家の争いはニトリにもある。だが今回の関心は、両社のビジネスモデルだ。振り返ると、15年ほど前には、大塚家具とニトリの事業上の立ち位置は、今とは真逆だった。1990年代後半に家具小売りの高収益企業の座に就いていたのは大塚家具であり、ニトリはその後塵を拝していたのだ(図1、2)。両社の逆転は、なぜ生じたのだろうか。

大塚家具とニトリの逆転劇に切り込む前に、今回の分析フレームを確認しよう。家具に限らず、優良小売企業を目指すには、掘り下げるべき2つの収益の源泉がある。

具体的に考えてみよう。あなたが、限られた資金で家具店の開業にこぎ着けたとしよう。しかし資金は商品の仕入れに使い果たしてしまった(なお、以下の説明では単純化のために、投資対象は仕入れ商品のみで、販売員や店舗関連の費用は必要ないものとする)。

この投資(総資産)からより大きなリターンを得るには、どうすればよいか(図3)。まず思い浮かぶのは、仕入れた家具をいかに高い価格で売りさばくかの算段だ。「利幅の拡大」は、高収益化のひとつの源泉であり、その代表的な指標のひとつが売上高利益率である。


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(3)高収益の2つの源泉

小売り高収益化の源泉はもう一つある。小さい利幅でも、「回転率」が高ければ高収益化は実現する。仕入れた家具を、損にはならない価格でいち早く売り切ってしまえば、その売り上げを原資に次の仕入れができる。このサイクルを1年間に50回転させる(半額セールなどで毎週商品を売り切っていけば達成できる)とどうなるか。年2回転しかしない店舗の10分の1の利幅だったとしても、1年を通してみれば、この回転率の高い店舗のほうが投資効率は2~5倍高くなる。

次に考えるべきは、この2つの源泉をどこで高めていくかである。

道筋は3通りある。神戸大学教授の三品和広氏のフレームに倣えば、まずは「均整を深める(『経営戦略を問い直す』ちくま新書)」。小売企業であれば、これまでの商品取り扱い技術のオペレーションを整え、高度化していくという選択肢だ。

次に、「水平展開を図る」。取り扱う商品の分野を広げるという選択肢である。そして最後に、「垂直統合」。販売する商品の生産に、自ら乗り出すという選択肢である。

収益力が落ちれば、企業は衰退していく。これは重大な問題であり、その先に待ち構えているのは企業の死である。小売企業がこの中長期的な転落を逃れるには、本業の高度化を通じて、あるいはそれがかなわなければ、その水平展開、あるいは垂直統合を通じて、高い利幅あるいは回転率の維持や向上を図るしかない。

統一感のある住空間を誰でもコーディネート

大塚家具とニトリは、取り扱う商品のグレードや価格帯が異なり、直接顧客を奪い合う関係にはない。だが、家具小売りとして両社が直面してきた市場の変化には、共通点が多い。その中で、なぜ両社の収益性に大きな違いが生じたのだろうか。

家具は、食料品や日用品のように頻繁に購入する商品ではない。しかし家具店には、来店頻度は低くても、一度に大きな買い上げを期待できる顧客が存在する。結婚や住宅購入などを契機に、各種の家具を買いそろえようとしている人たちである。



大塚家具はこうした顧客に向けて、様々なジャンル、スタイルの家具を豊富に取りそろえ、売り場をまたいで一人の販売員が住空間をトータルに提案するという販売方法を採ってきた。商品知識に裏付けられた助言や説明は、大塚家具が創業期から守り続けてきたアプローチであり、よい家具は顧客に価値を理解してもらえれば、多少高価であっても買い上げてもらえるとの体験と信念に支えられている。このクロスセリング(複数商品の同時販売)を導くコンサルティング・サービスで、かつての大塚家具は効率的に売り上げを高めていた。

一方のニトリは、クロスセリングの仕掛けを別のところで確立している。トータルコーディネーションに取り組んでいるニトリは、共同開発や自社生産によるPB商品を主力とする製造小売り(SPA)の企業であり、価格が安く、しかも統一感のある住空間を誰でもコーディネートできる商品を取りそろえることで、関連購買を促している。

とはいえソファ、リビングボード、収納家具、ベッド、カーペット、カーテン、さらには寝装品といった家具やホームファッションを、異なる産地やメーカーから調達するだけでは、色、素材、サイズ、デザインなどが食い違ってしまう。しかし、これらすべてを自社生産しているわけではないのに、ニトリは統一感のある品ぞろえを実現している。これは、東南アジアに自社工場を開設し、苦労を重ねて現地生産に挑戦してきたからである。そこで獲得した生産面の知識やノウハウを協力工場への発注に活かすことで、ニトリはリーズナブルでありながら統一感のある品ぞろえを実現し、クロスセリングを導いている。

婚姻数も新設住宅着工件数も減少していく

結婚や住宅購入は、クロスセリングによる家具小売りの回転率向上の大きな機会である。しかし少子高齢化の進む日本では、2000年以降には婚姻数も新設住宅着工件数も減少していく(図4、5)。


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(4)国内の婚姻数の推移
(5)新設住宅着工件数


大塚家具とニトリの収益性に逆転が生じたのも、実はこの00年以降なのである。

回転率を高めることは、小売りの収益性向上の基本路線である。しかし、結婚や住宅購入が頭打ちとなれば、クロスセリングによる家具小売りの高い回転率には限界が生じる。その中で高い収益性を維持するには、利幅の管理が重要となる。

ここでもまた、ニトリが取り組んできた垂直統合がものをいう。ニトリは生産段階に踏み込み、原材料の手当てや検品・品質管理の徹底に取り組み、原価を引き下げることで利幅の改善を促してきた。もちろん、安価な輸入家具の仕入れを増やしたり、工場との直接取引を行ったりすることも、高い収益性に貢献する。だが、それらに加えて生産段階に踏み込むことができれば、収益性はさらに高まる。

ニトリが、当初は品質が不安定だった海外自社生産家具の改善の目処をつけたのは、00年頃である。それ以降、ニトリの売上高営業利益率は大きく上昇していく。

今の日本において家具小売りの高収益化を図るには、結婚や住宅購入などのライフイベントを契機とした購買に、もはや頼ってはいられない。

都市部出店も進む。ライフイベント型の顧客であれば、充実した品ぞろえに引かれて臨海部や郊外の大型店舗に足を運ぶ。しかし、家具の買い足しに気楽に立ち寄るには不便な立地だ。こうした日常購買型の顧客に来てもらうには、都心店舗がよい。しかし、都心部の不動産賃料は高い。そこに広い店舗面積を確保しようとすれば、収益が圧迫される。

このジレンマから抜け出すにも、ニトリの事業ドメイン(領域)が有利である。ニトリは自らの事業ドメインをホームファニシングストアと定め、その下で事業を水平展開してきた。ホームファニシングストアとは、各種の家具に加えて、カーペット、カーテン、寝装品、食器などのホームファッションについても幅広く提供する小売りフォーマットである。ニトリの都心部出店では、このホームファッションを中心とした品ぞろえ展開が可能である。ホームファッションに絞れば、店舗の小型化が可能となるとともに、リピート購買による回転率の向上も見込める。

大塚家具も、近年は都心部への出店を進めている。確かに都心立地であれば、多くの人に気楽に立ち寄ってもらうことができる。しかし、日常の家具の買い替えや買い足しではまとめ買いは期待できないし、購買頻度も低い。家具主体の都心店舗では、収支を合わす以上の展開を広く見込むことは難しいと思われる。

大塚家具とニトリは、婚姻数や新設住宅着工件数の減少という共通の市場変化に直面してきた。しかしこの変化の中で、両社の収益性は大きく異なる展開を見せた。この適応力の違いは、両社の事業の水平展開、垂直統合の違いから生じている。ビジネスモデルの重要さを改めて考えさせられる。

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