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顧客満足93%! 葬儀業界に一石を投じた「イオンのお葬式」

お葬式を出した人のうち3割は納得できずに悔やんでいる。原因は不明朗な業界慣行。そこに着目したのが流通大手のイオンだ。葬儀の新しい動きを紹介する。

価格も品質もイオン基準で大丈夫か

両親や配偶者など身近な人の葬儀は、突然やってくる。実際に自分が喪主となって、葬儀業者や内容に疑問を抱く人も多いようだ。

実は筆者にも経験がある。社会人1年目の秋に実家の父が病死し、喪主を務めたのだ。明け方に亡くなり病院から慌ただしく遺体を搬出、自宅に運び入れた直後に葬儀社の中年男性がやってきた。早速、持参のファイルを示しながら、早朝にはそぐわない大声で祭壇のランクを紹介し、「世間体を考えますと最低これぐらいは……」と矢継ぎ早にセールストークをする。供花の種類から仕出し料理の内容まで、料金を多めに積み上げようとする姿に違和感を抱いた。

実家が加入していた互助会を通じての業者だったが、責任者である上司が来た際に、一連の言動の不快さにクレームをつけたら、謝罪とともに一部の料金が値引きとなった。

イオンリテール イオンライフ事業部事業部長 広原章隆氏

この人も似た感情を抱き、その思いを事業化につなげた。葬儀業界に一石を投じた「イオンのお葬式」の発案者・広原章隆氏(イオンリテール イオンライフ事業部事業部長)だ。

「8年前に父が亡くなり、近畿地方の実家で自宅葬を営みました。業者から最初に提示された金額は180万円、ところが葬儀後の請求額は追加料金が発生して250万円に増えていました。やむをえず支払いましたが違和感が残った」。その経験を職場で話すと、同僚から「そうそう、仕方なく支払うけど葬儀料金はおかしいよね」という声が次々に上がった。

当時は商品部でギフトの開発をしていた広原氏。「葬儀自体はよくやってくれたのですが、契約書を求めたら『ない』という答え。クルマ一台買えるほどの支出なのに契約書もないのはどうなのか。私自身、仕事では必ず契約書を交わしていたので、不透明さも感じました」。

そこで広原氏は、葬儀料金の明朗化や遺族感情に寄り添ったビジネスモデルを会社に提案する。すると社内の人たちは、広原氏がびっくりするほどの盛り上がりをみせた。上層部も賛同し、事業化が承認されて社内公募で希望者を呼びかけると、予想を大きく上回る人が応募。「それまでの事業とは毛色が違うので人材が集まるか心配でしたが、すごく熱意を持つ人が多かった」(同)。

こうして2009年9月にスタートしたのが、「イオンのお葬式」だ。葬儀自体をイオンが取り仕切るのではなく仲介業に徹する。同社に葬儀を頼むと「特約店」と呼ぶ全国約500の提携葬儀社に委託して、その業者が葬儀を請け負う。葬儀の進行は、葬儀社とイオン双方が持つタブレット型PCにより、リアルタイムで把握できるという。

ところで、一口に葬儀といっても多くの儀式がある。仏式では、遺体を拭き清める(1)湯灌から始まり、(2)納棺→(3)通夜→(4)葬儀・告別式→(5)出棺→(6)火葬→(7)収骨となるのが一般的。

だが高齢化や核家族化が進み、時代の変化もあって葬儀へのニーズは多様化している。身内中心で故人を見送る「家族葬(密葬)」や、通夜や告別式をしないで火葬のみを行う「直葬」を選ぶ人が多くなった。長年、通夜の翌日に告別式を行う形式が続いたが、通夜を行わない例も増えた。親族や友人も高齢化が進み、参列できないケースも目立つ。

イオンはこうした消費者意識の変化を取り込み、直葬に当たる「火葬式」から比較的大規模な「家族葬セレクト」まで、5つのプランを中心に提案している。最も需要が多いのは「家族葬」で、東京近郊では約72万円で実施できる。

この葬儀の特徴は、「価格も品質もイオン基準」ということ。「専門業者は一切入れずに社員の素人目線から、葬儀で『こうしてほしい・してほしくない』内容を140項目の『葬儀サービス品質基準』として定めました。趣旨に賛同いただいた葬儀社を特約店としてお願いしています」と説明する広原氏。

項目の中身は、「儀式では白手袋を着用」「遺体の変化への対応の仕方」「お別れに使う花が地面に落ちた場合は捨てる(絶対に拾ってお棺に入れない)」といった内容だとか。項目は年に一度差し替えて、顧客ニーズの変化にも応えている。当初は「依頼件数が少ないわりに要求が細かくて面倒くさい」と葬儀社から反発も受けたが、徐々に理解が深まった。

スタートして4年半たち、生前予約している「会員」は年間2万件に増えた。年間葬儀件数は非公開だが、6割が会員、4割が飛び込みでの申し込みだという。

会員獲得は4つの方法で行う。(1)電話相談をしてきたお客に会員登録を勧める、(2)イオンの主要店舗で「終活フェア」を行い、訪れたお客に勧める、(3)「永代供養」の生前予約をした人に勧める、(4)「イオンの生命保険」の加入者に勧める、というやり方だ。現在、会員の平均年齢は70歳。自分のことも心配だが、90代の老親が健在という人も多い。

(1)はコールセンターでの対応のこと。同社は札幌市と本社のある千葉市にコールセンターを2カ所持ち、葬儀に関する一切の相談に対応している。専門性を持つスタッフが、お客の苦情とも向き合い、葬儀社の見積書や請求書内容もチェックする。(2)はキャラバン隊を組んで、イオンの国内店舗を巡回して説明しながら会員登録を促す。広原氏も参加している。

(3)の永代供養は、少し説明が必要だろう。同社では3万5000円で寺院や霊園を紹介する事業も始めた。葬儀とともに都市部の顧客が悩むのが、お墓の問題。

「石のお墓はいらない」「子供や孫にお墓で迷惑をかけたくない」といった悩みを汲み取り、事業化した。

(4)は「イオンカード」の付帯サービスの一つで、保険料を葬儀の代金に充当する仕組み。しかもイオンカードの場合、いざ葬儀というときは、一時的に与信限度額も積み増しされる。

「もちろん分割払いもできます。葬儀代金一切をカードで支払えるのはイオンだけ」と胸を張る広原氏は、「価格面ばかりが注目されるが、中身にもこだわっています」と強調する。

なお、公式サイトでもくわしく紹介しているが、ネットから直接、葬儀を申し込むことはできない。その理由を「葬儀はセンシティブな儀式なので、必ずお会いして諸事情を汲み取り、最適な内容を提案したうえでお申し込みいただくため」と説明する。

実は、イオンとほぼ同時期に葬儀費用の価格破壊を進めた業者に「小さなお葬式」(運営はユニクエスト・オンライン)がある。公式サイトでは年間依頼件数1万4000件と明示されており、業界3位の施行実績を誇る。一番人気は利用者の5割が選ぶ「小さな火葬式」17万3000円で、ほかに「小さな1日葬」33万3000円、「小さな家族葬」49万3000円など。単純にイオンと価格を比較すればこちらに優位性がある。

一方のイオンは、「価格だけではありません」と強調する。たとえば、同社の葬儀で人気は「納棺の儀式」と「会葬礼状」。映画「おくりびと」にも登場する納棺の儀を目の当たりにした参列者からは「映画で知っていたが、実際に見るのは初めてで感動した」といった声が寄せられる。

一般には定例様式が多い会葬礼状にも独自性を打ち出す。遺族に電話で取材して、故人のエピソードなどを盛り込んだ礼状にするのだ。

電話で5分ほど話を聞いて文面を書き起こし、遺族に内容を確認して了承を得た後で印刷する。取材から印刷前までの時間は約2時間。通夜に間に合わせるように届けている。定式の礼状は一読後に捨てられるケースが多いが、この礼状は保存する人が多いという。

葬儀の進行や親戚からの細かい注文に気を配り、疲弊した喪主からも「故人の話を親身になって聞いてくれたのはあなただけ」と感謝される。

写真を拡大
「イオンのお葬式」は顧客の満足度93%を誇る。写真下が人気の「会葬礼状」。

こうしたサービスも功を奏して、リピーターが多いのも同社の誇りだ。葬儀後に利用客にアンケートを行い、点数をつけてもらっている。「毎週このアンケートが頼りで、幹部の間ではアンケートのための会議を行う」(広原氏)。ただしこちらはイオン式ではなく、石川県和倉温泉の老舗旅館・加賀屋の手法に学んだものだとか。

アンケートでは必ず評価点数もつけてもらう。現在までの平均点は「93.2点」で公式サイトのトップページに堂々と掲げる。点数の算出は10件のうち、一番上と一番下を除く8件の平均点。極めて高いが、少しカラクリもある。実は同社は特約店である提携葬儀社をAからEまでの5段階でランク付けしているのだ。「イオンが専門家をランク付けするのか」と反発を受けたが、ブレずに実施しており、平均95点以上を獲得しないとAランクの業者になれない。イオンから葬儀の依頼がくるのは圧倒的にAランクの葬儀社で、その次がBランク。Cランク以下の葬儀社には仕事はなく、逆にイオンが主催する研修を受けてもらうという。PB商品ではないが“トップバリュー”を重視するのだ。

こうして紹介すると、小売り大手・イオンの「商品開発」の発想そのものといえよう。

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