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「専門職の大学」という発想が示す教育の貧困

文科省有識者会議が「専門職の大学」の新設を提言しました。

 内容は
①専門職業大学などの名称の新たな類型の大学の新設を認める。
②それを国の助成対象とする。
③学位を授与する。
というものです。
「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の在り方について(審議のまとめ)」の公表について 」(2015年3月27日)
 これまでの専門学校の問題点は、
①自由である反面、質にバラツキがあり学位が授与できない。
②助成もできない。
という指摘です。
 他方で、企業からの専門職としての人材養成の需要が強いということが背景にあるとしています。

 これだけ見てきただけで、胡散臭い提言、また文科省が「助成金」の名の下に利権を確保したいという思惑が露骨に見えてきます。

やる気のない有識者会議 議事録が第3回までのアップで止まっています。
やる気のない議事録

 最初に思い起こすのが職業専門大学院としての法科大学院。これほど大失敗した制度はありません。国際化に対応できる高度な人材養成と言っておきながら、結果は散々でした。しかも、すごいのは誰の目から見ても大失敗が明らかであるにも関わらず文科省を始めとした関係者が一切、失敗を認めていないという現実です。

 もともと職業訓練であれば、それが何故、大学でなければならないのかが全く不明です。大学といえば高度の自治を与え、学問・研究のための学府としての大学ですが、この「専門職大学」では従来の大学とは全く異なる概念の「大学」の新設を認めることになりますが、その意義は全くないどころか、むしろ既存の大学のもつそれら高度の研究等に対する自治(学問の自由)を相対的に希薄化させるという弊害しかなく、要は有害です。

 有識者会議、文科省はその辺りも十分、認識してのことで、大学自治とか学問の自由などというのは国家、企業にとっては邪魔な存在でしかないからです。

 ところでそもそも企業が要望する技術職って一体、何でしょう。
 今、ちまたにあふれている専門学校は、そもそも手に職といった意味合いの強いものばかりで、かなり限定された分野の限定された就職口のためのものでしかなく、美容師など過剰と言われて久しいですが、その「技術」に汎用性はありません。

 美容師専門大学に社会の需要などあるはずもなく、現状の制度で不都合などありません。調理師や整備士、アート系などなど、従来ある専門学校を大学に「昇格」させなければならないものなど、ほとんどないのです。

 有識者会議では、短期大学の栄養学科などが病院の栄養部門との連携などとの例が最初の議事録では紹介されていました。そのような連携はあり得るとは思いますが、しかし、定員ほどの需要があるのでしょうか。他(県)の病院との連携でも良いのですが、いずれにもしてもすぐに供給が過剰になりそうです。

 さらに企業が必要とする技術を身につけさせるとはどの程度のことを指しているのでしょうか。この「実践的な職業教育」を検討するに至ったきっかけは、何と「大企業で働く人は長期的には減少傾向にあり、既に我が国の雇用の8割を占めるのはサービス業を中心とした中小企業となっている。」だからだそうです。
 その目標とするのがこれです。
すべての若者が夢や目標を芽吹かせ、未来に花咲かせるため、「これからの時代に社会に出て、国の内外で仕事をし、人生を築いていく、今の子どもたちやこれから生まれてくる子どもたちが十分な知識と技能を身に付け、十分な思考力・判断力・表現力を磨き、主体性を持って多様な人々と協働することを通して、喜びと糧を得ていくことができるようにすること

 よくもこれだけの美辞麗句を並べたものです。法曹関係者には馴染みのある司法審意見書(2001年)にも同じようなことが並べられています。
「国民の社会生活上の医師」としての役割を期待される法曹に共通して必要とされる専門的資質・能力の習得と、かけがえのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに対して深く共感しうる豊かな人間性の涵養、向上を図る。」(63ページ)
鎌田薫教授の変節? 過去の鋭い指摘を読み返す

 法科大学院生という既に成人してしまった学生を対象にどのような教育を行ったらこのような人材が育成できるのか、この意見書は全く記載がなく、ただ字面を並べているだけなのですが、これと全く同じです。
 大企業ばかりが人生ではないということにはなりますが、何故、みなが大企業を目指すのかといえば、大企業と中小企業では労働条件の差があまりに激しいからです。この審議のまとめは、このような格差を当然視し、しかし、中小企業では独自に人材養成ができないので、国でどうやったら面倒を見れるのかというものです。

 しかも以前は中小企業であろうと独自に人材を養成をしてきました。経験者が優遇されることはあっても、自前でした。
 このような中小企業に必要な技術を大学で修得させるというのですが、一体、どうやって具体化するというのでしょう。しかも特定の中小企業の業務ではなく、大学という場である以上、教えるものは汎用性のあるものとならざるを得ず、そうなると一体、どのようなものなのか想像もつきません。
 
 重要な点は、今後は、それが有償となるわけです。想定されているのは助成等を想定しているように私立です。助成金があろうとも相応の授業料になることは間違いなく、ますます「先行投資」が必要になります。
 法科大学院制度の失敗と同じような失敗を繰り返すことにはなるのが落ちです。

 大学生の学力の低下が目に余るものがあるという現状が指摘されるようになってからかなりの年月がたちます。要はそれは高卒者の学力低下そのものを意味するわけですが、現状、放置されたままです。まさにここが重要です。自民党政治のつけがここに集約されるのです。

 そのような中で企業の需要に合わせた人材養成って一体?
 自分の頭で考えるよりは即戦力として製造工程で働ける人材?
 最初から疑問だらけの審議会なのです。

 全入時代に合わせた苦肉の策が専門職大学というものでしかありません。
 基礎学力がない学生に対し、「訓練」を施すというレベルであれば、複雑なことができるはずもなく、普通の企業で行われる人材養成のものができるとも思えません。
 もうちょっと真面目に考えてもらいたいものです。

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