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復興を支えるのは「人々の交流」。 「四輪駆動のまちづくり」で 復興スピードを加速させる宮城県女川町

地域内外の人材の交流拠点 「女川フューチャーセンター Camass」がオープン。


「四輪駆動のまちづくり」という言葉を知っているだろうか。
 行政、議会、産業界、民間の四者が一体となり進めるまちづくりのことだ。その典型的な事例が三陸のリアス式海岸を望む港町・宮城県牡鹿郡女川町で進められている。

 震災から4年が経過した今年3月21日、これまで不通になっていた浦宿駅〜女川駅間が復旧し、JR石巻線が全線開通した。真新しい女川駅の駅舎をデザインしたのは世界的建築家の坂茂氏。駅舎内の壁画に埋め込まれた花の絵のタイルは公募で集められ、その幹は日本画家の千住博氏が描いている。町の中心部に位置し、復興のシンボルとも呼べる駅舎にはさまざまな人の力、思いが込められている。

オープン間もないJR石巻線・女川駅前の様子
オープン間もないJR石巻線・女川駅前の様子 写真一覧

 また、女川駅のオープン翌日には、駅に併設された町営の「女川温泉ゆぽっぽ」もオープンした。駅前の足湯とあわせ、女川駅には各地から多くの人が訪れていた。

 女川町の復興計画では、今後、駅周辺には駅前広場やプロムナード沿いのテナント型商店街、物産センター、まちづくり拠点施設の整備が予定されている。コンパクトシティを目指した復興計画が進んでいけば、駅前はさらに多くの人たちでにぎわうことだろう。

 しかし、視線を駅前から徐々に海側に移していくと、復興の速度で全国の注目を集める女川町でも震災の爪痕が完全に払拭されたわけではないことがわかる。津波によって流された住居跡は急ピッチで造成工事が進められているものの、その多くが更地でまだ建物は建っていない。町民は復興に向けて着実に歩んでいるが、現時点では「道半ば」というのが現実だ。

女川町の様子
女川町の様子 写真一覧

 それではこの女川町を今後どうするのか。人口の流出を食い止め、より魅力的な町にしていくにはどうすればいいのか。官民一体となった四輪駆動のまちづくりをどのように加速させていくのか。

 そうした課題を考えていく「場」として期待される施設が、3月28日に女川駅前にオープンした「女川フューチャーセンター Camass(カマス)」だ。

3月28日には須田善明・女川町長、笹川陽平・日本財団会長らが出席してオープン記念式典が行われた
3月28日には須田善明・女川町長、笹川陽平・日本財団会長らが出席してオープン記念式典が行われた 写真一覧

 「Camass」の具体的な機能はシェアオフィスの提供や女川での起業支援だ。復興を妨げないために短い工期を考慮して設計された施設は、鉄骨フレーム造のユニットハウスと3台のトレーラーハウスが広いウッドデッキ(148.94m2)でつながれている。利用者が自由に行き来できる空間は、女川弁の「かます=かき混ぜる」と英単語の「Mass=たくさんの・大勢で」の二つの意味が込められたネーミングにふさわしいものとなっている。

 何もなかった土地に「場」ができれば人が集まる。JR石巻線が開通したことで仙台からのアクセスも容易になり、地域外からの訪問者も増える。「Camass」は地域の内外を問わず、女川の未来を考える多様な人材が集まり、交流する場となることを目指している。  建築面積は223.2m2。総事業費は約6000万円。その費用のうち5643万円は日本財団のNewDay基金からの寄付でまかなった。ちなみにNewDay基金はアーティストの村上隆氏率いる有限会社カイカイキキが日本財団に寄付した3億4000万円をもとに設立された基金だ。施設を運営するのはNPO法人・アスヘノキボウ。そして「Camass」が建つ駅前の土地と、3台のトレーラーハウスは女川町が無償で提供している。まさに「四輪駆動のまちづくり」の象徴といえるだろう。

Camass全景。左半分が会員制の有料スペース。ゆったりとしたウッドデッキでつながれた右側のトレーラーハウスに設けられた4つの部屋は朝9時〜夜9時まで誰もが無料で利用できる。
Camass全景。左半分が会員制の有料スペース。ゆったりとしたウッドデッキでつながれた右側のトレーラーハウスに設けられた4つの部屋は朝9時〜夜9時まで誰もが無料で利用できる。 写真一覧

 「Camass」には、有料の会員制コワーキングスペース(全席自由・131.79m2)と、トレーラーハウスに設けられた無料で使える二つの多目的スペース(各32m2)がある。有料スペースと無料スペースの大きな違いは、有料スペースでは無料Wi-Fiやプリンタ、ドリンクの提供など、オフィス機能を有していることだ。コワーキングスペースには様々なタイプのデスクが用意され、2つの会議室も併設されている。

 一方、誰もが無料で利用できる多目的スペースには、それぞれテーマを持った4つの部屋が用意され、朝9時から夜9時まで、誰もが自由に出入りして利用することができる。  2013年からフューチャーセンターの企画に関わってきたNPO法人・アスヘノキボウの小松洋介代表理事は、「Camass」のコンセプトを次のように語った。

「無料の多目的スペースのアイデアは、駅を多く利用する高校生も交えて話し合って決めました。その結果、こたつの間、板の間、ソファの間、広間、という4つの部屋ができました。ソファの間のテーマは『ハリーポッター』です。こたつの間は、友達みんなが一緒に入れるような大きなこたつ。その天板をホワイトボードにするというアイデアも高校生によるものです」

 電車の待ち時間に学生がのんびり読書をしたり、町民がお茶を飲んで語らうことを想定した空間は、ワークショップやイベント等にも利用することができる。そしてウッドデッキでつながれたコワーキングスペースには、これから女川で起業しようという人や、町の内外から仕事をする人たちが集まる。そこで生まれたさまざまな交流を「千年に一度のまちづくり」に生かしていく「ハブ」としての役割も期待されている。

「もちろん物理的な場所の提供だけではなく、今後は月に1回、立場も年齢も超えて議論をし、女川のまちづくりのアイデアを育てていくフューチャーセッションも行なっていきます。そこで女川の未来をみんなでよりよいものにしていきたいんです」(小松氏)

「Camass」が生まれた背景にある「民」の力


 読者もご承知のように、2011年3月11日に発生した東日本大震災で三陸のリアス式海岸を望む小さな港町・女川は壊滅的な被害を受けた。「千年に一度」と言われる約15mの高さの津波が町をのみ込み、町の約7割の住宅が流出した。死者・行方不明者は人口の8.68%にものぼる。そして今もなお250名以上が行方不明のままだ。

 余談だが、筆者は震災前の女川町を知っている。祖父母が宮城県に住んでいたため、幼少期から何度か遊びに来たことがあるからだ。名産のホヤを生まれて初めて殻からさばき、刺し身で食べたのもこの町だった。

 筆者が震災後に初めて女川を訪れたのは2011年12月14日。自分の目で女川町を見た時の衝撃は忘れられない。それまで報道などで間接的に女川町の被災状況を知ってはいたが、目の前に広がっていたのは厳しすぎる現実だったからだ。

 当時は震災から9か月が経過し、津波による流出物の片付けが進められていた。しかし、町から完全に撤去されたわけではなく、町中の宅地跡などに集積されていた。その上、海岸線には4階建てのビルが根元から横倒しになったままだった。駆け足で岩手県に向けて北上する途中で立ち寄った筆者の目には「復興にはまだまだ長い時間がかかる」と映っていた。

 しかし、眼に見えないところでいち早く復興に向けたスタートを切っていたのが女川町だった。震災から約1か月後の2011年4月19日には、観光業や水産業や商工業に関わる地元関係者からなる民間の女川復興連絡協議会(女川FRK)が立ち上がった。そして2012年1月には計60頁にもなる復興に向けた提案書を町長と議会に提出している。

 NPO法人・アスヘノキボウの代表理事、小松洋介氏もこう語る。
「私は仙台出身ですが、震災後の2011年9月、それまで務めていた会社を辞め、4か月間、毎日宮城県の被災地を一人で回っていました。自分自身で何か役に立つことができないかとお話をうかがって回っていたんです。その中で出会ったのが女川町でした。  女川町では、当時から、行政、議会、産業界、民間が一体となって復興への議論が行われていたことに感動しました。私が女川で起業支援などをするうちに『お前も手伝え』と声をかけてもらったんです。私のようなよそ者を受け入れてくれる懐の深さが嬉しかった。だからここで全力で活動しようと思ったんです」

NPO法人アスヘノキボウ・小松洋介代表理事
NPO法人アスヘノキボウ・小松洋介代表理事 写真一覧

 オープン前から10を超える利用予約が入っていた「Camass」。オープンから1か月を待たずに会員数も順調に増えている。

 復興を支えるのはインフラだけではない。間違いなく「人」だ。

(取材協力:日本財団)

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