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15年は「養子縁組」「ナースの起業」に注力 日本財団は莫大な資金源を「社会貢献」にどう活かすか

ボートレースからの収入が270億円超


ご縁があり、たびたび「日本財団」の取材をさせて頂いている。共働き家庭の家事分担を考えるイベントや、障害者たちのアート作品展示、ハンセン病差別をなくすためのグローバルアピールなど、いくつか見てきた中で、「日本財団とは改めてなんぞや」ということが気になった。同財団は世界有数の社会貢献団体だが、「一体何をしているのかよく知らない」という人も多い。財団が、全国の男女2460人を対象に行なった調査(14年3月)によれば、「日本財団」を知っている人は全体の3割だったが、知っている人の過半数が「活動内容は知らない」と答えたそうだ※1 。

左が笹川陽平会長
今回は、そんな疑問を解消すべく、4月1日に開かれた事業計画・予算の記者発表を報告する。日本財団の大きな資金源は、全国の「ボートレース」による売上だ。ボートレースの売上高は、年間1兆円に迫るともいわれ(笹川陽平会長の挨拶より)、その約2.5%が日本財団の収入となる。記者発表によると、15年度は270億円あまりの見込み

これに加え、投資活動による収入が457億円。両者を合わせた収入から、被災地の復興支援や地域おこし、海外事業、子育て支援など、さまざまな公益事業への助成金が支出される。15年度の支出は455億円だ。

親に恵まれない子供の85%が「施設」で暮らす現実を変えたい! 15年は「特別養子縁組普及キャンペーン」に注力


日本財団が今年度、注力する事業は2つある。そのうち筆者が最も注目しているのは、日本でなかなか普及しない「特別養子縁組」の促進だ(ハッピーゆりかごプロジェクト~すべての赤ちゃんにあたたかい家庭を~)。望まない妊娠や貧困などの理由で、生みの親が子を育てられない場合、日本では85%が「児童養護施設」に入ることになってしまう。現在は、3万2000人の子供が児童養護施設で暮らしている。特別養子縁組がなされれば、こうした子供たちも保護者と「1対1の関係」を作ることができる。が、施設ではそれができない。いくら職員が優しくても、施設の構造自体が「子供のプライバシー」を軽視していたり、子供同士のイジメがあったりと、環境は厳しい場合が多い。

筆者が昨年、参加した日本財団のイベントでは、「児童養護施設では、一般的な家庭で教えられる社会的なマナー(切符の買い方や、基本的な買い物の仕方など)を学べない」との声も聞いた。子供たちは18歳で施設を出なければならないが、右も左も分からない状態で、働き先が見つからず、生活費が尽きて結局「生活保護しかなくなった」というケースも珍しくない。

6組に1組のカップルが不妊に悩んでいるのに、特別養子縁組は年間わずか300~400件


「国連子どもの権利条約」では、すべての子供が「家庭環境の下で成長すべき」と定めている。だが、日本ではそれがほとんど叶えられていないのが現状だ。夫婦の6組に1組が不妊に悩んでいるのに、親に恵まれない赤ちゃんの85%は、養子の可能性すら考慮されることなく、施設に入ることになる。現状、「特別養子縁組制度」は年間300~400件程度しか行われていないが、制度が広まれば、施設で養育した場合の公的負担(子供1人につき1億3000万円かかるといわれている※日本財団の記者発表より)を、削減することもできる。

「特別養子縁組の普及および啓発」記者発表の様子
日本財団では今年度、映画を活用した啓発イベントや、思いがけない妊娠をした女性のための相談窓口の強化、「養子縁組推進法(仮)」の制定へ向けた政策提言などを行う予定だ。恵まれない子供たちが、幸せな家庭で育つ仕組みづくりに期待したい。特別養子縁組の啓発活動はもちろん、実際に養子縁組を考える人たちに、経験者の声を届けるイベントなどがあればもっといいと思う。


看護師が起業する! 「在宅看護センター」の支援


日本財団では今年度、第2の柱として、「看護師の起業支援」に尽力する。「在宅看護センター起業家育成事業」だ。2025年には、団塊世代が一斉に「後期高齢者」となる。4人に1人が高齢者という、未曾有の高齢化社会の到来だ。地域の病院は、お年寄りを受け入れきれずにパンクする可能性もささやかれる。こうした課題の一助となるのが、看護師が患者の自宅でケアを担う「在宅看護」だ。

在宅看護センターは、看護師を中心に、介護士、理学療法士、作業療法士など、10~15人の体制で運営される。地域の患者たちを24時間カバーできるのが強みだが、現状、多くの団体が資金難に苦しんでいる。これを支援し、かつ、新たに起業する看護師を増やそうというのが日本財団の試み。

14年度の実績では、在宅看護への意欲の高い看護師17人(それぞれ、10年程度の臨床経験あり)に研修を行い、起業・運営ノウハウなどの専門知識を教授。全員が研修を終え、在宅看護センターの起業を予定している。先日、第1号のセンターがオープンしたという。 かつては、看護師が「血圧を測る」ことすら許可されていなかった時代もあったが、近年は看護師を目指す学生の4割が大学生であり、医療権限も拡大している。経験値の高い看護師が「起業」し、地域医療の中核を担う未来は明るいだろう。

9億円の資金が「独自に使える」初の試みに期待、「子供たちの福祉」充実を


日本財団はこれまで、ボートレースなどから得た資金を、小規模な財団法人や学校法人、NPOなどに「助成金」として分配してきた。が、今年度からは初めて、9億円の資金を、独自の事業に使うとしている。今までは、地域の団体が行う活動を「支援」してきたのが、これからは一部を、主体的な事業活動に充てるというのだ。これをぜひ、子供たちの教育や福祉を充実させる活動に使って欲しいと思う。政府の社会保障支出は、7割が「高齢者向け」であり、子育て支援は手薄い。この部分を、日本財団の潤沢な資金で補えないだろうか。

教育格差の是正のため、無料の学習塾を開いたり、貸与型の奨学金制度を充実させたりするのもアリだろう。日本では質量ともに不足している、ベビーシッターや保育ママの普及へ向けて、研修事業を行なったり、団体を創設したりするのもいいと思う。子供たちの幸せのために、多額の資金を使える団体はそう多くない。日本財団の新たな活動に期待したい。

※1  鳥海美朗、2015、『日本財団は、いったい何をしているのか』木楽舎より

(取材協力:日本財団)

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