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障害者施設における虐待事件はなぜ起こるのか―福祉労働者の視点から考える―

社会福祉法人南高愛隣会における障害者への虐待事件は、私たち福祉関係者のみならず、多くの人々に大きな衝撃を与えた。

長崎県雲仙市の社会福祉法人が運営している4つの障害者の施設で、利用者を押さえつけて骨折させる行為や性的虐待などがあったとして、長崎県は26日、社会福祉法に基づく改善命令を出すとともに、今後3か月から1年の間、新たな利用者の受け入れを停止する行政処分を行いました。

改善命令を受けたのは、障害者の生活援助や就労支援を行っている雲仙市の社会福祉法人、「南高愛隣会」です。

出典:NHK【障害者施設で虐待か 長崎県が処分】

この法人は、知的障害者を中心にしながら、累犯(犯罪を繰り返す)障害者など、支援が困難な人々に対する先駆的な取り組みを行っていることで有名だ。

特に、犯罪を繰り返し行ってしまう障害者への環境調整をおこない、居場所や働く場所を用意してきた。

また、それらの取り組みが地域社会で累犯障害者の包摂する場を生み出していくことになるという、前理事長の理念や考えは感銘を受けることが多かった。

それだけに理念や考えが現場に浸透しなかったことは、痛恨の極みであろう。

なぜこのような先駆的な福祉実践をおこない、幾多の表彰を受けるような優秀な法人でも虐待事件や犯罪行為が行われてしまうのか。

これは福祉関係者の永遠の課題といってもよいかもしれない。

さまざまな内部・外部問わず、検証を徹底して、他人事としないでいただきたいと思う。

そして、この検証作業を福祉関係者や法律家、学識経験者などで行わず、他領域の人々も巻き込みながらおこなっていただきたい。

なぜなら、虐待検証には福祉労働者の労働問題の視点が必要不可欠だからだ。

例えば、過去の虐待事件の検証において、「なぜ?」と再発防止の検討がされるが、本質に至らない議論に終始してしまうことがある。

最初はセンセーショナルに報道されるが、それ以降は報道も減り、どうすればよかったのか、緊張感がなく検証は終わっていく。

その検証作業も福祉労働者ではなく、福祉経営者が中心におこなう。

福祉経営者は、法人の役員であり、福祉現場や福祉労働者について、知らないことはよくあることだ。

だから、改善策は概ね同じような内容でまとまり、全国的に「金太郎飴」である。

要するに、施設マネジメントの問題であり、「より第三者委員会や外部の目を多く入れていくことで再発防止をする」とまとまる。

ハッキリ言って、もうそれではダメである。

社会福祉施設では、虐待をおこなうのはそこで働く福祉労働者であるため、労働者の環境を見なければならない。

再発防止に労働者の視点がなければ、何ら意味をなさないと言っても言い過ぎではない。

唐突かもしれないが、南高愛隣会の求人情報を見ていただきたい。お気づきだろうか。

外部情報だけでも、十分すぎるほどに、賃金の安さと常態化する人手不足の状況が垣間見える。

先駆的な取り組みを支える担い手の労働環境に想いを馳せたときに、「これではしんどい」と誰しもが思うのではないだろうか。

福祉労働者が普通に暮らせて、家族を養い、出産や育児が可能な賃金が払われているだろうか。

今は賃金が安くても、将来的に身分保障はなされていくのだろうか。離職率はどれくらいだろうか。

私たちのNPO法人のもとには、生活相談と同時に、労働相談も寄せられる。

福祉・介護施設における労働者からの相談は非常に多い。

「パワハラを受けている」

「ストレスから虐待をしている職員を見た」

「賃金が安すぎて生活できない」

「人手不足からやってはいけない身体拘束をしている」

これらはごく一部で、その凄惨さは枚挙に暇がない。

福祉崩壊の時代を迎えていると言ってもいいのではないかと暗澹たる気持ちになる。

労働環境や賃金の低さから、訓練された職員は雇用されず、熱意や意欲があっても人が集まらない。

だから処遇が悪くても残る職員が虐待に加わってしまうことは、他の法人でも散見される。

対人援助においては、訓練を受けて、一定の倫理や人権意識が身についていなければ、容易に不利益を与えるというのは歴史的な事実である。

人手不足だから誰でもできる仕事ではないし、そうさせてはいけない。

虐待事件を労働事件の視点からとらえると、これが社会福祉全体の問題であることに気づくだろう。

高齢者介護の領域も悲惨な状況が広がっている。それでも介護報酬を引き下げると政府や厚生労働省はいう。

さらに虐待を押し進めるつもりなのだろうか。

このように、労働問題として見ると、改善策も自ずと見えてくるし、施設のみのマネジメントの問題ではない、大きなマクロ政策の課題にも行きつくはずである。

要するに、賃金をあげて、福祉労働者の待遇をよくしなければならないのだ。

ぜひ特異な社会福祉法人がたまたま起こした事件とすることなく、社会福祉全体の問題として、抜本的な虐待防止対策を構築していただきたい。

※Yahoo!ニュースからの転載

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