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【読書感想】スピーチライター

スピーチライター 言葉で世界を変える仕事 (oneテーマ21)

スピーチライター 言葉で世界を変える仕事 (oneテーマ21)

Kindle版もあります。

スピーチライター 言葉で世界を変える仕事 (角川oneテーマ21)

スピーチライター 言葉で世界を変える仕事 (角川oneテーマ21)

内容紹介

「Yes, we can」、「悪の枢軸」、「バイ マイ アベノミクス」など、

誰もが一度は聞いたことがあるこれらのフレーズは、スピーチライターによって創られたものだった! ?

2008年のアメリカ大統領選挙でオバマのスピーチライターたちが活躍して以降、日本でもスピーチライターの活躍に注目が集まりはじめている。

20世紀初頭に登場したスピーチライターが、なぜ今日本で注目を集めるのか?

スピーチライターとは一体何者で、どんな役割が期待されているのか?

実際に、スピーチライターはどのように原稿を書くのか?

日本に突如現れた謎の職業について、

スピーチライターとして第一線で活躍する著者が、その全貌に迫ります。

「スピーチライター」という仕事が、近年急速にクローズアップされてきたように思われます。

 オバマ大統領の演説は、若いスピーチライターによって書かれている、という話は聞いたことがあったのですが、これまでの僕のイメージでは「陰の存在」だったんですよね。

 そういう人がいるのだとしても、表に出てくるのはいかがなものか、と。

 芸能人本を実際に書いているライターのように、「暗黙の了解であっても、あえてそこには触れないでおこう」というか。

 しかしながら、最近は「そういう人が実際にいるのならば、むしろオープンにして、その情報込みで判断しても良いのではないか」と考える人が増えてきたのかもしれません。

 あの佐村河内氏の「ゴースト」であった新垣隆さんは、人柄もあって、かなり世の中に受けいれられているみたいですし。

「Yes, we can」、「悪の枢軸」、「バイ マイ アベノミクス」など、誰もが耳にしたことのあるこれらのフレーズは、実はすべてスピーチライターが書いたものです。もちろんこれらの言葉を語ったのは、バラク・オバマであり、ジョージ・W・ブッシュであり、安倍晋三です。しかし、これらの言葉を生み出したのはアダム・フランケルであり、デービッド・フラムであり、谷口智彦らスピーチライターたちなのです。

 スピーチライターとは、スピーチ原稿を話し手本人に代わって執筆する職業のことです。ゴーストライターであるという側面もあり、本来あまり注目を集めるような職業ではありません。人の書いた原稿をリーダーとみなされている人物が読み上げる姿は、黒幕に操られている操り人形のように見えて、あまりよい印象を与えません。ですから、スピーチライターが話し手に代わって原稿を書いていることは、秘密にされるべきことなのです。

 しかし奇妙なことに、近年このスピーチライターに注目が集っています。

 筆者は2006年から、スピーチライターの仕事をしていますが、当時はまだスピーチライターという職業は日本ではまったく認知されておらず、仕方なくスピーチコンサルタントなどと名乗って仕事をせざるを得ない状況でした。

 この状況が一変したのは、2008年11月に行われたアメリカ大統領選挙で、当時弱冠27歳でオバマのチーフスピーチライターを務めたジョン・ファブローら若いスピーチライターたちが活躍したことがきっかけでした。「Yes we can」というフレーズは、ファブローと共にスピーチライターとして仕事をしていた当時26歳のアダム・フランケルの業績です。

 現実的に考えて、頻繁に行われる大統領や首相のスピーチを、すべて本人が書くのは無理ですよね。

 それだけが仕事ならともかく、スピーチというのは、彼らの仕事のごく一部でしかありません。

 僕などは、結婚式のスピーチを頼まれるだけで、心配になって、1ヵ月間くらいあれこれと逡巡してしまいます。

 ただ、その一方で、首相の国会答弁で、官僚から渡された書類を棒読みする閣僚をみて、「官僚に操られているみたいだ」と感じるのもまた事実です。

 みんな「実情はわかっている」のだけれど、「そのへんはうまく騙してほしい」、それが、スピーチライターの存在なのかもしれません。

 日本では、かつてスピーチライターの仕事は、結婚式のスピーチを代筆するウェディングスピーチライターの仕事が主でした。しかし、結婚式でのスピーチというのは、それほどリターンが発生しません。よほどの苦手意識があれば、執筆を依頼するということはあるかもしれませんが、通常は苦手でも自分でやります。

 では、どういうシーンでスピーチライターが必要になるかというと、政治やビジネスにおけるスピーチやプレゼンテーションです。

 首相の所信表明演説や施政方針演説、国際会議、外遊先でのスピーチなどは、社会に大きな影響を与えるため、スピーチ原稿作成に多大なエネルギーが割かれます。首相は、外交に関わる演説だけで、多いときには1ヵ月で10本程度スピーチをこなさなければなりません。その他すべてのスピーチを含めると毎日のようにスピーチをしなければなりませんから、専属のスピーチライターなしにスピーチをし続けるというのは、ほとんど不可能です。その一つひとつをすべて自分で書いていては、公務に支障が出てくるはずです。

 ビジネスプレゼンテーションの成功は、金銭的なリターンを直接もたらしてくれます。売り上げを上げることを使命とする企業にとって、プレゼンテーションはとても大切な仕事です。また、NPOなどの非営利組織でも、募金活動を成功させるためにプレゼンテーションが欠かせません。それらをサポートするのがスピーチライターの大切な仕事になっています。

 著者は、日本を代表するスピーチライターのひとりで、この新書のなかで、スピーチライターの実際の仕事について紹介しています。

 「スピーチライター」なのだから、感動的な文章、伝わる文章を書ければ良い、のかと思いきや、仕事は「原稿書き」だけではないのです。

 スピーチライティングの依頼があって、真っ先に取り組むことになるのが業界の情報を収集することです。ウェブサイトを検索して読み込むほか、クライアントの著書や専門書を書店で十数冊購入してきて読みあさります。

 まず、購入してきた書籍の中で、クライアントの著書およびクライアントの意見に近い専門書を優先して読み込みます。これがとても大切で、この作業をしておかないとクライアントを満足させることがとても難しくなります。クライアントは、自分の話したこと以上の内容を原稿に望みます。ですから、クライアントの考えに近い書籍を読み込むことで、クライアントの考えや背景を自分のものにしておかなければなりません。

 ファブローも、オバマの著書を読み込んで、オバマの考えを自分のものにするために努力をしています。クライアントの考え方を自分のものにするという作業は、スピーチライティングの基本中の基本です。

 また、クライアントと反対意見を持つような専門書もよく読んでおく必要があります。クライアントのスピーチに対して、どのような反論が予想されるかを頭に入れながら原稿を書いておかないと、反論に対してまったくなす術がなくなってしまうことがあるからです。

 スピーチライターを雇うような人たちというのは、それなりに社会的な地位があり、発言に影響力があるので、ただ「感動的であればいい」わけではなくて、専門的な内容に踏み込まなくてはならないことも多いし、「失言」は許されません。

 内容が問題になったとき、「あれは、スピーチライターが書いたんだ」と言い訳をするわけには、いかないんですよね。

 さまざまな下調べをしてクライアントを満足させる原稿をつくり、実際のスピーチでの喋りかたやスライドの作成、当日の衣装や照明などの演出面でのアドバイスなど、その仕事は多岐にわたるそうです。

 そして、「スピーチの内容が優れている」だけじゃ、ダメなんですよね。

 スピーチをする、その人「らしさ」みたいなものがないと、その人が壇上に立つ意味がない。

 逆にいえば、「Yes we can」には、「オバマらしさ」があり、あのフレーズをオバマさんが言ったからこそ、ここまで広まったのです。

 スピーチライターの仕事というのは、むしろ「演出家」に近いと、著者は述べています。

 この新書のなかでは、著者がある企業の新しいトップの就任スピーチの依頼を受けたときの仕事の様子が紹介されているのですが、「スピーチをうまくやる」というのは、けっして簡単なことではないのだな、とあらためて思い知らされます。

 どんなに能力がある、面白い人でも、人前で話すとなると、どうもうまくいかない、というケースは、少なくないようなのです。

 それを「なんとかする」のも、スピーチライターの仕事なんですね。

 著者は「優れた講師の圧倒的な説得力というのは、実際に生でみなければわかりません」と述べています。

 ワタシのスピーチに対する印象を大きく変えたのは、学生時代に聴いた、日本を代表するボイストレーナーの講師の講演会でした。講師の知性的で品のあるよく通る声が印象に残っています。内容はボイストレーニングについてだったにもかかわらず、難しい概念論ばかりで驚きましたが、どの言葉もすごく説得力があるように感じられました。

 このときはじめて、本当の意味で声の力のすごさを思い知りました。知的にも身体的にも訓練された声は、それだけで心を揺さぶる力があるということを、講演に参加することで学ぶことができたのです。これは自分が実際に参加して、生の声を聴いたから学べたことであって、映像を見たり、本を読んだりしてもなかなかわからなかったはずです。

 また別の関西弁を話す経営コンサルタントの講師は、ビジネスのコツについて全身を使って話していました。その躍動感のある話し方はとても勉強になりました。

 朴訥とした静かなしゃべり方の講師もいました。表情は乏しく、身振りもほとんどないのに、その言葉の一つひとつが心に深く刺さるすばらしい講演でした。豊かな表情や大きな身振りは一切ないのに、胸を打つ話し方を見て、表現とは何かを改めて深く問い直すきっかけになりました。

 講演に参加して不思議な体験をしたこともあります。言っていることが論理的にはよくわからないのに、強い使命感に支えられた言葉に感動してしまったのです。その時に、スピーチは論理だけではないことを思い知りました。

 あるいは、あえて難しい言葉を駆使して、聴く者を圧倒する講師もいました。わかりやすく伝えることの意味を考えさせられました。

 一般的な話し方の教科書には、笑顔が大切です。ボディーランゲージを使いましょう。わかりやすく話しましょうと書いてあります。しかし、私が実際に見て衝撃を受けた講師は、もちろん教科書に近い話し方の講師もいましたが、教科書とはまったく違う話し方をするスピーチの達人が山のようにいたのです。

 これを読んで、スピーチに「王道」というのは無いのだなあ、と考えずにはいられませんでした。

 「良い人」「面白い人」にも、さまざまなタイプがいるのと同じように。

 スピーチのテクニックというのはいろいろあるし、声が小さくて何を言っているのかわからないとかいうのは論外なのでしょうけど、「正解」はひとつではないのです。

 ちなみに、著者は演劇をずっとやっていて、それが今の仕事にはすごく役に立っている、と仰っています。

 また、今の日本でスピーチライターになるには、企業の広報担当者や秘書、政治系志望であれば、選挙コンサルタントから、というのが一般的なのだそうです。

 たしかに、どこの馬の骨だかわからないような人に、いきなり大事なスピーチを任せてくれる偉い人がいるとも思えませんよね。

 アメリカでは、1本数十万円が当たり前で、各国の首脳や世界的なビジネスリーダーが出席するダボス会議など国際的に重要な会議のスピーチライティングともなれば、1本あたり400万円以上します。にもかかわらず、リピーターが多数存在します。

 これだけの報酬に見合った価値が、そのスピーチにはある、と見なされているわけです。

 「文章がうまい人が、カッコいいことを書けばいいだけ」だと僕は思っていたのですが、かなりの技術と専門性を要する仕事なのですね、スピーチライターって。

 読んでいて、通訳の仕事に近いという印象を受けました。

 この仕事に興味がある人、頼んでみようかな、と思っている人は、読んでみる価値がある新書ですよ。

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