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【寄稿】人種別居住がもたらすもの 南アフリカ在住者の視点 - 長田雅子

曽野コラムに出てくる黒人家族の事例は荒唐無稽

日本では、曽野綾子氏の産経コラムが「アパルトヘイトを奨励するものである」として大きな批判を受けていると聞いた。

南アフリカでは、とりわけ大きなニュースにはなっていない。ネットで検索したところ、いくつかのメディアのデジタル版が通信社の記事をそのまま掲載していた。「曽野氏のコラムに在京南アフリカ大使ペコ氏が抗議した」という内容だ。南ア国内では、その程度の反応である。

問題のコラムに目を通して唖然とした。

「人種差別撤廃後、大家族主義の黒人がヨハネスブルグでマンションを購入し、白人やアジア人なら家族4人が暮らすようなスペースに20-30人で住み始めたため、水道から水が出なくなって白人が皆逃げ出した。従って、居住地は人種別にすべきだ」という議論である。

マンションにやってきた黒人とは、 どんな家族だろう。男性と複数妻とその子供たちだろうか。それとも、両親と成人した息子数人とその家族だろうか。大切な祖先の霊が眠る故郷を一家揃って離れるとは、よっぽどの事情があったのだろうか。

マンションを購入できるほどの裕福な家庭らしいが、事業で成功して現金で買ったのだろうか。それとも会社勤め人が銀行ローンを利用したのだろうか。いずれにせよ、20-30人も家族がいるのに、4人分のスペースしか確保せず、愛する家族を劣悪な住環境に置く変わった家長である。

しかも、曽野氏の書き方からすると、一家族だけではないようだ。一軒のビルに同様の集団が何家族も住み始めたらしい。なんとも荒唐無稽な話だ。

ヨハネスブルグのマンションに住む人々は、人種に関係なく、一人暮らしか、カップルか、核家族。多くても、核家族プラスお婆ちゃんとかおばさん程度の小人数である。持論の根拠の事実確認くらい、しておいて欲しいと思う。(実は、曽野氏の「誤解」の元ネタは大体見当がついているが、説明すると長くなるし論点からずれるので、ここでは立ち入らないでおく。) また、仮にこの話のようなことが実際に起こったとしても、一例をもって社会全体の在り方を判断するのはいかがなものか。

「アパルトヘイト」の建前は一見「差別」とは関係なさそうなものだった

「アパルトヘイト」の建前は、「それぞれの人種がそれぞれの地域に居住し、それぞれに適した発展をする」ということだった。一見「差別」とは関係なさそうである。しかし、当時南アフリカを支配していた白人政権は、国民の大多数を占める黒人に全国土の1割程度、それも不毛の土地しか与えなかった。発展した都市部や、鉱物が豊富な地域や、農業に適した肥沃な土地など、おいしいところは白人が独り占めしてしまったのだ。

しかし、すべての黒人が部族ごとに決められた田舎の「ホームランド」に住んでしまったら白人が困る。鉱山や工場の労働者、各家庭で働くメイドや庭師が供給できなくなるからだ。そこで、白人の町のそばに黒人居住区「タウンシップ」を作り、許可を受けた黒人がホームランドから「出稼ぎ」に来る仕組みにした。

黒人には十分な教育を与えず、大多数を非熟練工レベルに留めた。バスや海水浴場まで別にした。黒人には選挙権もなかった。異なる人種間の結婚はもとより、性交すら犯罪とされた。

一見差別とは関係なさそうな建前が生みだしたのは、このような不平等な差別社会だった。そして、財布の具合さえ許せば、誰もが好きなところに住めるようになってから、四半世紀が過ぎようとしている。

必要なのは隔離することではなく、触れ合うこと

私はヨハネスブルグ市内の小さな一軒家に住んでいる。我が家の隣はインド系。敬虔なイスラム教徒の一家だ。斜め向かいはユダヤ系。その向こうには黒人、マレー系、英系白人・・・。人種も文化も育った環境も異なる、様々な人々が同じ通りに居住している。共通するのは、現在の経済状況が中の中程度というくらいか。

しかし、私と隣人たちは、近所の公園が草ぼうぼうで荒れていることに心を痛めている。皆で少しずつお金を出し合い、コミュニティーで警備会社と契約して、少しでも犯罪を減らそうと努力している。計画停電には皆で愚痴をこぼす。肌の色が違う子どもたちが、通りで一緒にスケートボードを楽しんでいる。

曽野氏が主張するように、人種別に住むのが最良だとしたら、私たちは隣人たちにさよならを言い、別の地域に移住しなければならないのだろうか。肌の色が同じというだけで、経済状態も、生活の在り方も違う人間たちが一緒くたにされてしまうのだろうか。子供たちは親友と別れて、同じ人種しかいない学校に入れられてしまうのだろうか。

夫婦で肌の色が違うカップルはどうなるのだろう。両親の肌の色が違う子供たちはどこに行けば良いのだろう。家族が離散するしかないのだろうか。

それとも、肌の色が違う男女が恋に落ちたり、子供を作ったりしてはいけなくなるのだろうか。。。

南アフリカはアパルトヘイトを乗り越えた。経済や教育などに様々な弊害を残した「負の遺産」ではあるが、アパルトヘイトを実施した白人政権が崩壊し、ネルソン・マンデラが初の黒人大統領になってから20年以上経過した今、一般国民にとって大切なのは日々の生活である。子供たちの未来である。

曽野氏がコラムで述べている通り、「他民族の心情や文化を理解するのはむずかしい」。理解するために必要なのは隔離することではなく、触れ合うことだと思う。南アフリカが乗り越えたアパルトヘイトを、日本で作り出してはならない。

プロフィール

長田雅子:南アフリカ在住のアーチスト。訳書『ネルソン・マンデラ 未来を変える言葉』、『ネルソン・マンデラ 私自身との対話』などがある。
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