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150億円あれば人工知能で日本にもチャンスが

▶これからのベンチャーはすべて「人工知能」系

雑誌ワイアードを立ち上げたことで有名な編集者のKevin Kelly氏は言う。「次に登場するスタートアップ1万社のビジネスモデルを予測するのは簡単だ。これからのビジネスモデルはすべて、何らかの事業領域に人工知能を加えたものになる」。

Kelly氏が言うように人工知能を活用したビジネスが、次々と登場している。米投資家のShivon Zilis氏が人工知能関連企業をまとめた図をウェブ上で公開している。それがこの図だ

背景には、コンピューターの処理能力の向上や、データの爆発的増加、Deep Learningという名の計算手法のブレークスルーがある。(関連記事:人工知能が急に進化し始めた)。

Zilis氏の図を見ると、コア技術は、画像認識、音声認識、予測API、機械学習など幾つかの領域に分かれているが、全体では50社以上が名を連ねている。

その中には、人工知能関連ベンチャーの大型買収を続けるGoogleやFacebookの名前ももちろんあるが、シリコンバレーに人工知能研究所を開設した。

もちろん日本企業の名前は、そこにはない。

▶日本企業はPepperのソフトバンクだけ

コア技術がだめならアプリケーションで戦うという手もある。Zilis氏によると、人工知能関連と見られる会社の事業を3ヶ月かけて2000件以上チェックしたという。この図に掲載したのは、そのごく一部であるとしている。

Zilis氏は、アプリケーションを、人工知能を使った大企業務改革、業界別の業務改革、関連技術、その他(Retinking Humans)に分けている。

大企業向けでは、セールス、セキュリティ、詐欺防止、人事、マーケティング、秘書業務、インテリジェント・ツールに分けているが、こうして見ると、エンタープライズ向けのほとんどの領域に人工知能が入ろうとしていることが分かる。

ちなみに人事に関する領域の事例は、日本の人事サービスベンチャーのGroovesのブログが「すでに勃興?HR×人工知能領域サービス7選!」という記事で詳しく取り上げている。

業界別には、広告、農業、教育、ファイナンス、法務、製造業、医療、ガス石油、メディア、NPO、自動車、小売と、これまた多岐に渡っている。

その他(Rethinking Humans)には、AR(拡張現実)、ジェスチャー認識、ロボット、感情認識があり、ここで初めて日本企業が入っている。ソフトバンクがロボットの部門に挙げられているのだ。

あとは関連技術で、ハード、データ前処理、データ収集の企業がリストアップされている。

こうして見ると、確かにKelly氏の言うように、すべての事業領域に人工知能が活用されようとしている。ただ明らかに日本企業は乗り遅れている。

▶人工知能バブルに踊らされるな

とはいうものの、内容的にはそれほど先進的でないものもあるようだ。先行する米国の人事系人工知能ベンチャーの業務内容を調べたgroovesの池見幸浩氏は「アメリカ企業であっても、まだまだのレベル」と語る。groovesは先日、人材派遣の領域でのビッグデータや人工知研究に特化した「grooves HRTech研究所」を発表し、この領域への参入意欲を明らかにしているが、「今後の可能性を感じた」(池見氏)と言う。

人工知能の研究者で東京大学准教授の松尾豊氏によると、人工知能ベンチャーの中には、本当の意味での人工知能の技術を持っていないところが多いという。

同准教授によると、「人工知能」という言葉自体に明確な定義がなく、人間らしく振る舞うように見える技術で、その時代の最先端であれば「人工知能」と呼ばれてきたのだという。「昔はワープロのかな・漢字変換機能でさえも人工知能と呼ばれたことがありました。すごいと思われた技術は何でも、人工知能と呼ばれた(笑)。でもそうした技術が広く普及すると、そのうちに人工知能と呼ばれなくなるんです」と語る。

今は研究者の間で「すごい」と思われているのは「変数があって人間がその重みを調整していたが、変数自体もコンピューターが自分で学習できるようになった」というところらしい。だが産業界では、もっと低いレベルの技術でも「人工知能」と呼ぶ風潮になってきているのだという。

「今、人工知能はブームですね。バブルといってもいいかも。かえって騒がないほうがいいんじゃないかって思っています」と言う。

▶日本の研究者の層は十分に厚い

とはいえ、長期的に見れば、人工知能がほとんどすべての業界の勢力図を大きく塗り替えるのは事実。ブームに乗るのではなく、しっかりとした技術力をつけていく必要があるのは間違いない。

Zilis氏の図が示すように、日本にはコア技術に投資する大手企業は存在しない。国立情報学研究所の市瀬龍太郎准教授は「Google、Facebook、中国の百度などは、日本の大学とは桁違いの予算をかけて研究をしています。そこと伍していくのには、どうしても限界があるように思います」と語っている。

しかし日本には、まだ十分な可能性があると、松尾准教授は言う。松尾氏によると、日本には人工知能の人材が非常に多く存在するのだという。

1980年代に「第5世代コンピューター」と呼ばれる国家プロジェクトがあった。通産省(現経済産業省)が570億円を費やして人工知能の開発を目指したが、結局失敗。1992年に同プロジェクトは集結している。

しかし失敗したものの、人材育成には成功した。「その当時学生だった人が、今は教授になって新しい学生を輩出していています。けっこう人材がたくさんいるんです」と松尾准教授は指摘する。例えば、日本のIT系の学会の規模はどこも、米国の同系統の学会の約10分の1の会員数なのだが、人工知能の領域だけは海外の学会と会員数はそれほど遜色がないという。「海外の人工知能の学会であるAAAIの会員数が5000人規模なのに対し、日本の人工知能学会の会員は3000人。しかも年次会議への出席者はAAAIが500人程度なのに、日本の人工知能学会は約1000人も集まるんです。しかもすごく活気がある。人材は十分いるし、育っています」と松尾准教授は言う。「そういう人を結集して、技術開発、研究開発をちゃんとやっていけば逆転も不可能ではない。恐らくここで逆転しないと、ここから先はずっと産業的に負けるんじゃないかって思います」

今が最後の逆転のチャンスだと言う。

では具体的にどうすればいいだろう。「そんなに難しいことではなくて、日本全国から最も優秀な研究者50人くらいを集めればいいだけだと思います。都内に研究所を作って、東大とも連携する。10年くらいの研究期間を保障してもらえれば十分です。1年に15億円くらいの予算で、トータルでも150億円。そしてその研究所の周辺に起業家が集まればいいだけだと思うのですが・・・」。

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