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なぜEM(EM菌)はインチキでニセ科学と言われるのか

琉球大学農学部教授であった比嘉照夫氏が開発したEM(EM菌)は代表的なニセ科学だとみなされている*1。一方、「数百の論文」があるがゆえに、EMはインチキでもニセ科学でもないとの主張がある。

■2014年10月20日の記事 | EM(微生物)の力で環境を守る

インターネット上では、EMを好ましく思わないグループもいるようですが、彼らの主張する「論文が無い」「EMはインチキでニセ科学」という批判が、完全に的外れであることが分かります。

これらの論文や実際の現場でのEM技術を検証することもせず、開発者の比嘉照夫氏の人格批判や、風評を撒き散らす行為こそ、科学者としての道を外れてしまっているのではないでしょうか。

確かに、「EM研究機構」のウェブサイトには「学会発表や論文」と称する大量のリストがある。これらのリストは、EMはニセ科学だという主張に対する反論になりうるのだろうか?実際のところ、これらの学会発表や論文のリストだけでは反論にはならない。論文の内容による。

さまざまな分野においてEMのインチキ性を指摘できるだろうが、ここでは私の専門分野である医学の話に絞ろう。まずは比嘉氏の主張を紹介しよう。比嘉氏によればEM由来の飲料は「ウイルスを完全に消滅し得る」のだそうだ。

■甦れ!食と健康と地球環境

 EMをベースに作られたEMXゴールドは、C型やB型肝炎のウイルスを完全に消滅し得るという事例が多数、確認され、エイズはもとより、ヘルペス、インフルエンザ等々のウイルスに対しても万能的な力を発揮しています。

 この場合のメカニズムは、抗ウイルス的な作用はもとより、EMの総合的な機能が免疫力を著しく高める為であり、この件に関しても、医学的見地から、多数の実例が確認されています。

比嘉氏の主張が事実であれば、ウイルス感染症の患者さんにとって大きな福音である。しかし、臨床の現場ではEMは応用されていない。というかほとんど知られていない。なぜか。臨床試験はおろか、単なる症例報告レベルですら、ウイルス感染症に対するEMの有用性がきちんとした形で発表されていないからである。

EM研究機構のウェブサイトに掲載されている「数百の論文」には、ヒトに対するウイルス感染予防効果に関するものは見当たらない。強いて関係のありそうなものをリストから探すと「有用微生物発酵液EM・1による単純ヘルペスウイルスの感染抑制効果」というものがある。論文ではなく日本ウイルス学会学術集会の抄録であるようだ。もうこの時点で学術的価値は高くないと判断してよい。だが続けよう。抄録は以下のサイトで読むことができる。

■甦れ!食と健康と地球環境 第77回 EMの抗ウイルス効果

かいつまんで言うと、in vitro(試験管内)の系でEMが単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染を抑制したという研究である。よしんばこれが事実だとしても、実際にヒトの体の中でEMがウイルス感染を抑制するかどうかは別途検証してみないとわからない。しかしながら、内容をよく読んでみるとそれ以前の話であった。抄録からはEMがウイルス感染を抑制しているのではなく、単に酸性溶液がウイルス感染を抑制していることが読み取れる。なぜなら、pHを中性にすると感染抑制効果が消失するからである。

EMそのものに感染抑制効果があると主張したいのであれば、同じpHの溶液を対照として比較しなければならない。しかし、対照実験についての記載はない。この学会発表を論文にしようとすると、査読者から対照実験をせよと指摘されるであろう。学会発表が論文より学術的価値が低い理由はこのあたりにある。

知識のある人が読めば、この学会抄録はむしろEM自体の抗ウイルス効果を疑わせるものだが、いったいなぜ比嘉照夫氏はわざわざ学会抄録を紹介したのであろうか。科学の方法論に不案内な読者を騙す意図があったのかもしれないし、比嘉氏自身が対照実験の必要性について理解する能力がないのかもしれない。

このようなレベルの学会発表が何百あろうとも、臨床試験を行わない限りはEMの医学的効果が証明されたことにはならない。EMがニセ科学とみなされているのは、十分に証明されていないのに、いや、十分にどころかまったく証明されていないのに、EMがさも万能であるかのように効果を謳うからである。

実際のところ、「学会発表や論文」のリストはこけおどしに過ぎない。査読のない学会発表の抄録か、論文であったとしても比嘉氏による途方もない主張を裏付けるようなものではない。論文の詳細に当たって検証するつもりのない人を対象にしていると思われる。ニセ科学の典型的な手法である。

私の主張に反論したいのであれば、「C型やB型肝炎のウイルスを完全に消滅し得る」「EMの総合的な機能が免疫力を著しく高める」という比嘉氏の主張を支持する論文を示してもらいたい。同じく代表的なニセ科学とされるホメオパシーですら、メタアナリシス(複数の研究の結果を統合する解析)が可能なほど多くの論文が発表されている*2。少なくとも医学分野においては、EMはホメオパシー以下である。

関連記事

■バイオラバーってインチキ?

■比嘉照夫センセイ@EM菌による学会発表

■和文医学雑誌にEM菌の論文が載っていた

*1:たとえば■EMなどのニセ科学とどう向き合うか - 片瀬久美子

*2:Shang A et al. Are the clinical effects of homoeopathy placebo effects? Comparative study of placebo-controlled trials of homoeopathy and allopathy. Lancet 366, 726 (2005).

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