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初音ミクに抱きつける!? バーチャルリアリティがリアルを変える - 新清士

バーチャルリアリティ(VR、仮想現実)が世界的に注目されている。既に米軍や医療の世界でシミュレータとして使われ、日本でもモデルルームの代替として使用されるなど、産業への活用が広がっている。

 2014年10月16日、ソーシャルネットワークサービス大手の米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOが来日し、都内で行われたイベントにサプライズゲストとして登場した。同年3月に、バーチャルリアリティ(VR、仮想現実)を実現するヘッドマウント型ディスプレイOculusRift(オキュラスリフト)を開発している創業1年半のベンチャー企業OclusVRを、20億ドルで買収し、世界に衝撃を与えた。


VRもスマホのように受け入れられていく可能性を語るザッカーバーグ氏 (REUTERS/AFLO)

 イベントの中で「スマートフォンがここまで当たり前になったように、VRやウェアラブル端末のような新たなコンセプトやデバイスは、今後5~10年かけて成熟、一般化していくだろう」と、VRが今後コンピュータ産業の様子を大きく変えていくと語った。

 今、OculusRiftに、世界的に高い注目が集まっている。VRデバイスは1990年代に商品化が始まったものの、当時の技術ではCG映像の品質は低く、値段も数百万円と高価で、魅力的なコンテンツもあまり登場しなかった。その後、ブームは沈静化し、忘れ去られた分野になっていた。

 ところが、近年の液晶パネル技術の高精細化と低価格化、CG映像を作成するために必要なコンピュータ性能が向上したことによって、90年代では実現できなかったような低価格で、ハードもソフトも登場する素地が生まれた。そのタイミングに現れたのが、OculusRiftだった。

 昨年3月に、最初の開発者向けハードウェアのデベロップメントキット1(DK1)が発売され、1年で6万台が出荷された。ただ、DK1は映像の質も低く、ビジネス的な実用性はまだまだ先に感じられるハードだった。

 その後継機として、7月末に開発者向けハードのデベロップメントキット2(DK2)がリリースされ、大きく評価が変わった。VRをハイビジョン画質で見ることができ、頭の動きを検出する機能が搭載されているため、頭の向きを変えると滑らかに、その動きに合わせてCG映像が切り替わる。DK1よりも、はるかに没入感が高くなり、350ドルと安価だ。

9月に行われた東京ゲームショウで注目されるなど、現状ではゲーム業界が熱い視線を注いでいる。VR映像は、ゲームのCG映像の作成ノウハウをそのまま使ってコンテンツを開発できる。今後、特に専用ゲームの充実は早期に進んでくると予測されている。

 実際に、DK2を被ってVRを経験すると、衝撃は大きい。レースゲームの場合では、テレビモニターでは決して体感することができない坂道の勾配を感じられる。実際に自動車を運転している感覚とあまり変わらない。

 初音ミクのような3Dのキャラクターを画面に登場させると、身長の高さをはっきりと感じることができる。通りすぎると、思わず接触してしまったような、これまで体験したことのない不思議な感覚に襲われる。高い建物から下を見ると、それが単なる映像とわかっていても、自然に足がすくむ。VRは原理的に目の錯覚を利用して、そうした現象を実現するが、これまでのテレビモニター映像で見た、どんな映像とも体験の質が違う。


BLOOMBERG/GETTY IMAGES

相次ぐVR開発への参入

 VR分野への他社の参入も相次いでいる。ソニー・コンピュータエンタテインメントは、3月に同じヘッドマウント型ディスプレイのプロジェクトモーフィアスというPS4の周辺機器を発表した。発売時期は未定だが、すでに専用のゲーム開発を開始している。

 サムスン電子はOculcusVRと提携して、VRのエントリーデバイスという位置づけで、タブレット端末と組み合わせて使うアタッチメントのGearVRをこの秋に発売する。GALAXYNote4を差し込んで、簡単にVR映像を見ることができる環境を整えるという方式のものだ。


サムスン電子もOculusVRと提携している
(CHESNOT/GETTY IMAGES)

グーグルは、6月にスマホをダンボールに挟み込むだけで、VRを実現するカードボードを発表した。これは設計図をネット上からダウンロードし、ダンボールを切り貼りして組み立てるだけで作ることができる、簡易VRゴーグルだ。VRで見ることができるグーグルストリートビューなど、専用アプリも公開した。

 また、11月5日には、眼球に映像を直接照射するタイプのVRデバイスを開発している米ベンチャー企業が、インテルなどから937万ドルの投資を受けたと発表が行われるなど、新しい方式も次々に登場してきている。

 これまでアメリカでは、VR技術は、米軍が航空機のシミュレーション訓練用に利用を開始していたり、医療分野で手術のシミュレーション訓練用の用途で利用されてきていたが、価格が高額すぎたために、一般の産業への広がりはほとんど起きてこなかった。

 OculusRiftは、ゲーム用のハードとして開発されているものだが、安価であり、ゲーム以外にも利用が容易であることから、ゲームの枠をはるかに超えて、様々な分野への応用が進むと期待を集めている。

 ハリウッドでは映画への応用を試す動きが始まりつつある。先月、ホラー映画「バンシーチャプター」のOculusRift用アプリがネットで公開された。映画「スタートレック」で、若き日のスポック役を演じたザカリー・クイントがプロデュースしたものだ。OculusRiftで観ると没入感により伝わる恐怖感は強烈だ。

 制作した映像会社は「映画の未来の姿」と意気込んでいる。また、VR空間で商品見本を展示するEコマースサービスや、発達障害を抱える人への行動療法の教育サービスなど、多様な異業種のベンチャー企業が立ち上がりつつある。

日本でも進むVRの産業応用

 日本でも、OculusRiftの登場をきっかけに、VRの産業応用が始まろうとしている。

 動きが顕著なのが、建築業界だ。竹中工務店などの大手ゼネコンの建築用のプレゼンテーションCGを専門に手がけてきた、積木製作のセールスディビジョンシニアディレクターの関根健太氏によると、「引き受けている案件で、建築物のVRを制作する機会は確実に増えてきている」という。

 設計の現場では、主要なCADソフトがVR映像の出力に対応したことで、使用されることが一般化しつつあるという。これまでの建築のCGは、動画で作成することが多く、高さや広さといったスケール感を実感することができなかったが、VRであれば具体的に感じることができる。

 作成したVR映像には施主に見せる目的で40階建てのタワーマンションがあるという。建設前に具体的にイメージをつかんでもらうことが容易ではない建物のエントランス部分を作成したり、部屋の中を丸ごと再現したりすることを行ったという。

まだ、多くの人に見せているという状態にまでは至っていないが、性能の高いDK2の登場で、「マンションの販売時に、実際に購入を検討する人の判断材料としてVRを利用するケースは、今後、多数出てくるだろう」と予測している。

 2014年4月に幕張メッセで行われた「ニコニコ超会議3」のコンサートイベント「超パーティ3」では、全天球カメラで撮影したライブ生放送も実験されている。ブラウザ上でスクロールする形で提供されたが、OculusFiftへの対応に向けての開発が続いている。コンサートといったイベントとのVRの相性はよいとみられており、早期にビジネスが立ち上がってくると考えられる。

 全天球カメラで録画した動画は、研究所の展示なので、すでに利用が始まりつつある。国立天文台(東京・三鷹)では、星と宇宙の日の10月25日に、チリの標高5000メートルのアタカマ高地にあるアルマ望遠鏡の様子を、OculusRiftを通じて見る展示を行った。星空が頭を向けた方向のどこにでも表示される没入感のインパクトはかなりのものだったようだ。

 「どこを向いても、アタカマ高地の別世界という経験は(体験する人には)格別らしい。全天球動画には期待せざるを得ない」と、過去に国立天文台のプロジェクトに関わってきた額谷宙彦氏がツイッターで発言している。

 実際に行くことが難しい場所を、全天球動画によってバーチャルツアーを提供することは、VRの魅力を一般に認知させる高い可能性を持つと考えられている。全天球カメラの値段も、急激に安くなりつつあり、20万円程度で手に入る。今後数年でさらに安い機種が登場するのは間違いなく、様々な映像が発表されるようになるだろう。

 もちろん、普及のためには課題がある。VRの体験者が、車酔いに似た気持ちの悪さを生みだしやすいという深刻な技術上の問題があり、どうすれば解決できるのかは、ハード、ソフト両面から模索されている最中だ。

 OculusVRは、来年に一般ユーザー向けバージョンの発売を行うための準備を進めているとみられている。映像はスーパーハイビジョン画質となり、VRの世界に自分が存在しているとしか感じられないほどの迫力を持つという。まだ、誰もが使うという段階になるには、時間がかかるかもしれないが、普及が進むプロセスでも、VRは新しいビジネス分野を次々に切り開いていくだろう。

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