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  • 想田和弘

「テロとの戦い」の原理的かつ根本的な落とし穴

「イスラム国」による人質事件に際し、去年9月にメルマガに書いた原稿を転載します。

ーーー

13年前に最初にボタンをかけ間違ったことの負の影響の甚大さについて、改めて考えています。

米国による、いわゆる「テロとの闘いWar on Terrorism」が本格的に始まったのは、2001年9月11日の事件がきっかけです。当時のブッシュ政権はアメリカに対するテロ攻撃への報復及び「テロリストの根絶を目標に掲げ、アフガニスタンへの侵攻を開始しました。日本の小泉政権も、すぐさまそれを支持しました。

僕は当時もニューヨークに住んでいましたので、あの911事件にはとてつもない衝撃を受けました。炭疽菌事件もあったりして、街を歩くのにも現実的な身の危険を感じました。だから世論調査でアメリカ国民の約90%がアフガニスタン攻撃を支持したと知ったときには、感情的にはその気持ちを理解しました。

しかし、アフガニスタンに米軍を侵攻させてテロリストを撲滅するという発想には、原理的かつ根本的な落とし穴があると直感し、侵攻には当初から大反対でした。

その「原理的かつ根本的な落とし穴」って、なんだか分かりますか?

テロリストとは「人間の種類」「属性」ではない、ということです。また、テロリズムとはコンセプト(アイデアである、ということです。

まだ分かりにくいでしょうか?

つまりこういうことです。

生まれながらにテロリストである人間はいません。テロリストと呼ばれる人たちは、最初は誰しも普通の赤ちゃんとして生まれるわけですが(当たり前ですね?)、その後育った環境や出会った人々や出来事、思想などの影響で、人生のどこかでテロリストになることを決断します。ということは、テロリズムというコンセプトが、現状を打破したり敵に報復したりする上で魅力的なソリューションに見えるような環境が継続する限り、テロリストは無限大に増殖しうるのです。

これが例えば「この世からゴキブリを根絶する」というのであれば、実際には難しいでしょうけど、原理的には実現の可能性はあります。ゴキブリを片っ端から殺していけばいいんですから。そしてゴキブリがこの世から一匹もいなくなれば、たぶんその後ゴキブリが再び復活することはありません。なぜなら、カブトムシがいきなり誰かに影響されてゴキブリになったりすることはないからです。

しかし「テロリスト」は違います。たとえテロリストが皆殺しに合い、一時的にこの世から一人もいなくなったとしても、「テロリズム」というコンセプトが存在し、それに共感する人がいる限り、再びテロリストが生まれる可能性は残ります。たぶんアメリカ人や日本人の多くはテロリストをゴキブリのような存在としてイメージし、徹底的に殺せばいなくなるものだと今でも考えていると思いますが、そういうイメージそのものが致命的に誤っているのです。

アメリカは、アフガニスタンやイラクに侵攻して武力でテロリストを一掃しようとしました。しかし、13年間にもわたる「テロとの闘い」の末に、テロリズムは根絶できたのでしょうか?

イスラム国の台頭にみられるように、実際に起きていることは真逆に思えます。

アフガニスタンとイラクにおける戦争で亡くなった一般市民の数は、約17万人と推定されています。17万人と一口にいいますけど、その一人ひとりに人生があり、家族や友人がいたことを想像すると、めまいで倒れそうになります。

米軍は、人を殺した数だけ、街を破壊した分だけ、テロリスト予備軍を増やしているのではないでしょうか。そして、肉親や友人を殺された人々がアメリカに対する報復を誓い、あるいは同胞による報復行動に共感することで、イスラム国が力を得てきているのではないでしょうか。

この上イラクやシリアを空爆してさらなる犠牲者を出しても、問題は悪化するだけだと思います。日本も集団的自衛権の行使を容認すれば、アメリカのテロリスト撲滅作戦にフルに参加する可能性も充分に考えられますが、そうなったら本当に愚かで悲しいことだと思います。

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