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【全文】「72時間は短すぎる。時間をもう少しいただきたい」〜イスラーム法学者・中田考氏がイスラム国の友人たちに呼びかけ

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イスラム国に邦人が拘束された事件で、22日午前、日本外国特派員協会で、イスラーム学者の中田考氏が会見を行った。中田氏はイスラーム法学・神学を専門としており、イスラム国や今回の事件の背景や、人質の救出について自身の考えを語った。(午後に行われた、ジャーナリスト常岡浩介氏による会見はこちらから

秋田一恵弁護士
冒頭、同席した秋田一恵弁護士より、中田氏が現在私戦予備・陰謀罪の被疑者であることから、質問については人質事件についてのみ受ける旨、説明があった。また、同氏が昨年夏からイスラム国に拘束されている湯川遥菜氏をめぐって、イスラム国の司令官、ウマル・グラバー氏から「湯川氏の裁判をしたいので、イスラム法がわかり、日本語、アラビア語が出来る人をお願いしたい。その際に裁判の様子を伝えるジャーナリストも連れてきてほしい」と要請を受けていたことも明らかにした。

中田氏:今日はお集まりいただきましてありがとうございます。私は元々、非常に言葉がはっきりしませんで、日本語のテレビでも私がしゃべると字幕が出るというぐらいです。また、今難聴が非常に悪くなっておりまして、皆さんの質問もよく聞き取れませんので、今回できる限り、こちらにいらっしゃいます秋田先生を通じてお話をしたいと思います。

今、あの秋田先生からご説明がありましたとおり、私被疑者の立場にありますので、出来る限り、マスコミの露出を避けておりましたし、イスラム国とのコンタクトも避けておりました。それは私自身にとっても問題ですし、先方に対しても迷惑が掛かるということもあったのですが、今回、こういうことで人命が掛かっておりますので皆様の前でお話しさせていただくことにしました。

今回の事件は、タイミング的に安倍総理の中東歴訪に合わせて、発表があったわけですけど、安倍総理自身は、中東に行ったことが地域の安定につながる、和平につながると信じていたと思いますけれども、残念ながら非常にバランスが悪いという風に思います。

イスラエルに対して入植地への反対を直言するなどといったことで、バランスの取れた外交を行っているという風に信じているのだと思いますが、中東において、イスラエルとそもそも国交を持っている国がほとんどないというような事態を正確に実感していないのだと思います。ですので、これは中東あるいはアラブ・イスラム世界では非常に偏った外交とみられます。

記者会見の中で、難民支援、人道支援を行っていると強調していましたけれども、もし難民支援、人道支援ということで、今回の中東の歴訪があったとすれば、今シリアからの難民、正確にはわかりませんけれども、300万人とも言われております、その大半、半数以上、160万人ともいわれていますが、トルコにおります。まずトルコを最優先すべきであって、トルコが外れているところで人道支援、難民支援を強調しても、これはやはり信用しないと思われます。

訪問国がエジプト、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンとですね、すべてイスラエルに関係する国だけであると。そういう選択をしている時点で、アメリカとイスラエルの手先という風に当然、認識されます。人道支援のために行っている、あるいは難民支援のために行っていると言っても理解されない。中東を知るものとしては常識です。

「中東の安定に寄与する」というのは、当然理解できる発言ですけれども、その中で、「中東の安定」が失われているのは、イスラム国が出現する前のことです。その中で、わざわざ「イスラム国」だけ名指しで取り上げて、「イスラム国と戦うため」と言いながら、人道支援だけやっていると言っても通用しない論理だと思います。

日本人の人質2人がいるということは、外務省も把握していたと思いますので、その中で、わざわざ「イスラム国と戦う」ということを発言するというのは、非常に不用意であると言わざるを得ないと思います。

テロリストの要求をのむ必要はもちろんないわけですが、しかし、そのことと交渉するパイプを持たないということはまったく別のことだと思います。例え、無条件の解放を要求するとしても、実際に人質2人を解放するために安全が確保されるのか、その間、空爆を止めることができるのか、誰が受け取りに行くのか、どこで受け取りに行くのか。そういったことを正しい相手と、正しく話をするパイプがないことにはそもそも話になりません。

今回の件でも、これまでの似たようなケースでも多くの「仲介者になる」という偽者が現れて、それにアメリカが騙されるというケースもたくさん起きております。今回でもそういう恐れが当然あるわけです。 イスラム国からの呼びかけは、安倍政権だけではなく、日本国民に対する呼びかけという形をとっておりました。それに対しては我々は答えるべきだと考えています。もちろん日本は民主主義をとっている国ですので、安倍政権に賛成する人間もいれば、反対する人間もいる。その中で、 我々にどういう対応ができるのか、ということを問われているんだと思います。

私自身、行く用意がある

ここからは私個人の提案、提言になります。それはもちろんイスラム教徒、イスラム学者としての立場でもありますし、同時に日本国民として、アメリカ、日本にも受け入れられるギリギリの線だということで提言させていただきます。

安倍総理が言った通り、日本はイスラム国と戦う同盟国の側に援助をするわけですけれども、それはあくまでも人道援助に限られている。この論理は、イスラム国に対しても同じように適用されるべきだと考えています。

これまでも人道援助、経済援助の名の元にアフガニスタン、あるいは直接関係するイラクに関しても日本や国際社会は多くの援助を行ってきましたけれども、それが的確な人の元に届いていなかった。特にスンナ派のイスラム主義と言われる人たちに対しては、非常に扱いが悪かった。そもそもそういった因果が今回の事件の根源にございます。

現在のイスラム国の前身はイラクのスンナ派のイスラム運動です。ですので、彼ら自身はアメリカによってイラクが攻撃されたことを彼ら自身の体験として覚えています。そして、その時に、彼らも含めてサダム・フセイン政権が倒れたときには、ほとんどのイラク人がアメリカを勧化していました。それが数か月で反アメリカに変わった。それはやはり空爆その他でたくさんの人が殺された。特に女子供が殺されて、それに対してまったく保証がされていないという事態がございます。現在、それが繰り返されており、イスラム国が支配している、行政の責任を持っている地域で多くの人々が殺されています。

国際赤十字、中東地域では、赤新月社と言われていますが、ここはイスラム国の支配下のところでも人道活動を続けてきていると聞いております。ですので、私の提言といたしましては、イスラム国の要求している金額、これはあくまでも日本政府の難民支援に対して、それと同額のものということですので、これを難民支援、人道支援に限るということで赤新月社を通じ、そしてトルコに仲介役になってもらって、そういう条件を課した上で、日本はあくまでも難民の支援を行う。イラク、シリアで犠牲になっている人たち、その家族の支援を行うという条件を課した上で行う。これが一番合理的で、どちらの側にも受け入れられるギリギリの選択じゃないかと思っています。

日本ではあまり大きく報道されていませんでしたけれども、1月18日に、イスラム国はヤズィーディ教徒を350人を無償で、人道目的で解放しております。これも一つのメッセージであると私は考えております。

これから私の友人たち、イスラム国民、古い友人たちに対して私のメッセージを伝えさせていただきます。まず日本語で。

日本の人々に対して、イスラム国が考えていることを説明し、こちらから新たな提案を行いたい。しかし、72時間というのは、それをするには短すぎます。もう少し待っていただきたい。もし交渉ができるようであれば、私自身、行く用意があります。

1月17日にヤズィーディの350人の人質を人道目的で解放したことを私は知っている。評価しているし、それで印象も良くなっていると思います。日本人を釈放することがイスラム及びイスラム国のイメージをよくするし、私もそれを望んでいます。また、日本にいるムスリムの人も望んでいる。

72時間という時間は、あまりにも短すぎます。時間をもう少しいただきたいと思っています。 これを聞いていただければ幸いです。ありがとうございます。


※同じメッセージをアラビア語でも読み上げる。

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