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総選挙圧勝は、自民党の内部崩壊の序曲 - 大前研一の日本のカラクリ

ビジネス・ブレークスルー大学学長 大前研一/小川 剛=構成

なぜ無意味な解散総選挙をやったのか

2014年12月の総選挙は大方の予想通り、与党の圧勝に終わった。自民、公明で326議席(自民党291、公明党35)を獲得、定数の3分の2(317)を上回った。とはいえ改選前の与党の議席数は324だから、ほぼ変わらない。惨敗した野党にしても民主党は議席を11増やして、維新は一議席減。52.66%という戦後最低の投票率を受けて組織政党の公明党と共産党が議席を伸ばしたが、与野党の勢力図は変わり映えしない。つまりほとんど意味がない選挙だった。

今回の解散総選挙の経緯で思い出すのが小泉純一郎政権の郵政選挙だ。当時、首相直轄の国家戦略本部が設置され、事務総長の保岡興治氏(衆議院議員)から頼まれて国家戦略の立案を手伝っていた。結局、「こんなものを読んで勉強すると勘が鈍る」とかで、小泉首相は私が提出した提言には目を通さなかったのだが。

その保岡氏から中国の大連で仕事をしていた私にメールが届いたのは、ちょうど郵政民営化の議論が白熱していた頃。メールには「もはや孤立無援。党内で郵政民営化を支持するのは私と首相と竹中(平蔵)さんの3人だけ。絶体絶命です」とあった。ほどなくして参院で郵政民営化関連法案が否決されると、小泉首相は郵政解散に打って出た。民営化法案に反対した議員を公認せず、賛成派候補を刺客として擁立する“劇場型”選挙が注目を集めて自公政権は圧勝(327議席)し、直後に郵政民営化法案は成立した。

今回の解散総選挙の構図もよく似ている。アベノミクスの効き目が切れて三党合意を破棄して、15年10月の消費増税を延期せざるをえなくなったときに、財務省が猛烈に巻き返して国会議員を個別に説得して回った。結果、安倍晋三政権は増税派に包囲されて身動きが取れなくなった。この包囲網をぶち破るために、安倍首相は伝家の宝刀を抜いた。「アベノミクスの信認選挙」とか「争点がない」との批判もあったが、要は増税派を締め上げて与党内を一本化し、安倍首相がやりたいことをやるための解散総選挙だったのだ。野党には関係のないあきれた選挙だったのである。

アベノミクスに不利なデータがぞろぞろ出る

選挙に大勝した政権は独裁色を強めるが、数に驕って、いずれ内部崩壊を起こす。自民党政権のDNAである。

私は第二次中曽根政権の1986年に衆参ダブル選挙を首相に提案して、選挙戦も手伝った。自民党は下馬評を覆して歴史的な大勝を収めて304議席を獲得する。しかし、その後、田中派分裂から内部崩壊を始めて、竹下、宇野、海部、宮澤と短命政権が続いた後、93年の政権交代で下野することになった。

郵政選挙に大勝した後は、郵政民営化法案を通しただけで小泉首相はあっさりと身を引く。その後、国民に信を問うことなく安倍、福田、麻生と政権をたらい回しにしているうちに郵政改革は後退し、再官営化の道を歩む。その間に世論は大きくスイングして09年の総選挙で大敗し、民主党に政権を明け渡した。

歴史は繰り返す。今回の自民党の圧勝劇も内部崩壊の序曲になると私は見ている。

今後はアベノミクスがいかに効果がないかという経済データがぞろぞろと出てくるので、当面、選挙はできない。だから安倍首相はこのタイミングで解散総選挙に打って出たわけで、言ってみれば「2年延命選挙」だったのだ。安倍政権に与えられた任期は4年。その間に自民党が内紛を起こす可能性は高い。

なぜか。残る任期、安倍首相の眼中にもはや“経済”はないだろう。もともと景気や経済に関心があるわけではないし、経済を語れるほど勉強もしていない。アベノミクスの失敗が誰の目にも明らかになったときに、当人はもちろん、首相の経済ブレーンにもこれを立て直すアイデアはない。そもそもアベノミクスを主導するリフレ派(金融政策や財政政策でデフレから脱却して、穏やかなインフレ状態で安定成長を図ろうとする考え方)の政策に、日本経済再生の解はない。アベノミクスでは地方は活性化しないし、女性も輝かないのだ(詳しくはユーチューブにアップした解説を参照してほしい。https://www.youtube.com/watch?v=h7X_vbexeaY)。

円安とインフレの進行で国民生活は厳しさを増し、17年には消費増税が待ち受けている。経済状況が悪化しても打つ手なしなら、党内から批判が噴出して、安倍政権は自動的に崩壊する。これが第一シナリオだ。

安倍首相の「パーソナルアジェンダ」

[画像をブログで見る]
国民は望んでいない(都内の集会で集団的自衛権決定に抗議する人々)。
(AFLO=写真)


別のシナリオも考えられる。2年延命して安倍首相が何をやりたいのかといえば、本来のお家芸である戦後秩序の見直しであり、憲法改正であり、集団的自衛権をガイドラインに盛り込んで日米連携を強固にすること。選挙スローガンの「この道しかない」と首相が心に決めているパーソナルアジェンダとはアベノミクスではなく、そういう道なのだ。

しかし、それらのパーソナルアジェンダは、どれも国民的なコンセンサスを得られるほど議論が熟していない。与党の公明党だけでなく日本人の多くは戦後秩序を見直すことに懐疑的だし、憲法見直しには反対、原発の再稼働にも反対、集団的自衛権や日米ガイドラインは行きすぎだと思っているのだ。安倍首相の「この道」が本当はどの道なのか、国民も薄々わかっている。今回の総選挙、沖縄では自民党は全敗したが、安倍首相がわが道を突き進むほどに、沖縄と同じ反応が全国に広がっていくことになるだろう。

どうしてそれをやらなければいけないのか、安倍首相が国民にきちんと説明できれば克服することも可能だと思う。たとえば沖縄の基地問題がいつまでも解決しない理由は、軍政維持という沖縄返還時の密約にある。そうした真実を国民の前でつまびらかにして、「あのとき、我々の祖父や先輩方にはそれしか選択肢がなかった。拒否したら沖縄は還ってこなかった。沖縄の皆さん、国民の皆さん、どう評価されますか」と語りかける。

あるいは憲法問題でも、「現行憲法は日本に対する理解が少なかった人たちによって押し付けられたものであって、不備がたくさんある。皆さんのご理解を得て、今の時代に合うように見直したい」と真摯に訴えれば、国民の半分くらいはついてくると思う。

中国の戦後70周年の記念式典に参列し、「先の戦争で犠牲となった方々に哀悼の意を表します」と深々と頭を下げて献花すれば、近隣諸国との関係もだいぶ変わってくるだろう。

しかし安倍首相にそこまでの説明能力はない。相変わらず国民には本当のことを知らせない密約ベースの外交を繰り返し、閣議決定で憲法解釈を変更するだまし討ちのようなやり方でわが道を行けば、いずれ必ず国民にそっぽを向かれる。

そういう世論の変化には自民党の政治家は敏感だ。アベノミクスだ何だといっているうちはいい。アベノミクスの理屈はサッパリわからなくても、ついていくしかないと思っている。「アベノミクスで景気回復! この道しかない」と叫んでいれば選挙を戦えるからだ。

安倍首相は選挙大勝の後もあまりいい機嫌ではなかった、と報道されている。多分、自民党単独で3分の2をとり、パーソナルアジェンダで公明党がごねたときに連立を解消しても突き進む、という隠れたアジェンダが(我々にとっては無意味な)総選挙にあったからだろう。

ところが安倍首相が経済そっちのけで“わが道”を突き進むようになれば、公明党だけでなく地元の選挙区からは異論が噴出してくるし、説明を求められる。自民党の政治家の多くは地方交付税の運び屋だから、地元の理解が得られなければ、「このままでは次の選挙は戦えない」という気持ちになってくる。

これからの4年、安倍首相はギラギラとわが道を行くだろう。すると国民世論はついていけなくなるし、自民党内でもついていけないと思う人たちが増えてくる。今でも大臣になりたくて、(本音はさておいて)右寄りを気取っている議員は少なくない。

そして自民党に内紛が起きて分裂した場合、もう一方の核になりうるキーマンは小泉進次郎氏だろうと見る。「大義がない」と堂々と異を唱え、衆院解散時に万歳をしなかった小泉氏。それでも選挙戦は引っ張りだこで、存在感は際立っていた。

次期リーダーに推す声は自民党内では相当に高い。もし、党を割って出れば、同調する議員は少なくないし、彼が中心になって糾合すれば野党もまとまるだろう。

もちろん、貴重なリーダー候補を自民党も簡単には手放さない。大臣に任命するなどして安倍政権への取り込みを図るだろう。巨大与党を内側から崩壊させるリーダーが出てくるのか、はたまた懐柔されて芽を摘み取られるのか。それも見どころである。

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