記事

没落する日本 強くなる日本人

没落する日本 強くなる日本人 ―弱者の条件・強者の条件
没落する日本 強くなる日本人 ―弱者の条件・強者の条件 [単行本(ソフトカバー)]

グローバルビジネスマンとして海外の第一線で活躍してきた著者が、日本の将来を大胆に予測する。

著者のスタンスはシンプルで、経済がグローバル化する以上、企業活動を一国の都合で縛るのは不可能であり、相対的に国家の存在感は低下することになる。その中でも「想像を絶する高齢社会」であり、累積債務の積みあがってしまった日本はもはや最低限の社会保障すら維持できなくなるというもの。

世代間格差という言葉は知っていても、なんとなく「自分が将来もらえる年金や医療給付は半分くらいになってるだろうなあ」くらいに想像している人がほとんどではないか。だが著者の描く2050年の日本社会は壮絶だ。まず2050年の75歳以上人口は現在の1300万人から2400万人とほぼ倍増しており、(これから減る一方の生産年齢人口で)従来通りの社会保障制度を維持するのはまず不可能だ。

「財政危機の深層―増税・年金・赤字国債を問う」も指摘するように、恐らくその前に財政自体が行き詰まるだろう。著者は「すべての社会保障制度は機能停止に追い込まれる」とまで断言する。というわけで、今から30年後には、ホームレス高齢者が街を徘徊し、高齢者スラムがあちこちに乱立するという凄い光景が日常化していると思われる。

ひょっとすると「いざとなったら生活保護に逃げ込むから大丈夫」と思っている人もいるかもしれないが。それは甘い。年金や医療が破たんもしくは大幅な給付カットをされて、国民が生活保護を無傷で済むせるわけがない。年金以上に大ナタを振るわれ、徹底的にカットされるはずだ。

ちなみに著者の試算によれば、2050年の75歳以上人口2400万人のうち、実に7割に上る1700万人が所得120万円未満の貧困層に該当するという(2007年は75歳以上1300万人、うち貧困層は33.5%の442万人)。そのうち1200万人が生活保護に雪崩れ込むと年間21兆円を超える予算が必要となるから、たぶん生活保護制度そのものが無くなるか、はるかに低コストなまったく別の仕組みに変わっているのは間違いない。

自分の予測だと、たぶん100%現物支給になっているように思う。廃校に二段ベッドならべて、古古米の炊き出しくらいはしてもらえるかもしれない。まあ日中作業がなくて出入り自由の刑務所みたいなもんを想像してもらえばいいだろう。なんていうと「国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利はどうなるんだ!」と心配する人もいるだろうが、その頃にはそういうのがこの国における健康で文化的な最低限度の生活になってるだろうから何の心配もいらない。

そして、このままいくと、最大の貧乏くじを引かされるのは団塊ジュニア世代だ。

あまり指摘されていないのですが、この団塊ジュニアは踏んだり蹴ったりの世代です。彼・彼女らは、親にあたる団塊の世代とその少し前の世代と比べると非正規雇用が多く、かなり貧しいと想定されます。にもかかわらず、高齢者を支えるために過度な負担を強いられ、支給は遅くなって自分たちの取り分は大きく削られる。まさに搾取の標的として狙い撃ちされているといって過言ではありません。なぜ、怒り出さないのか私は不思議でなりません。


一応、著者は日本社会が健全に縮小均衡していくための処方箋んも提示していて、経産省や農林水産省の解体、廃業する農地の国への返還、安楽死特区の設置、大学定員の半減など、なかなかドラスティックなものが並ぶが、恐らく著者はそれらが実現するとはもはや信じていないようにも見える。本書を通じて感じるのは、一種の諦めというか悟りのような境地だ。

ただし、諦めというのは「国全体で経済大国の地位を維持する」ということへの諦めであって、それを嘆くこと自体が古い価値観にとらわれている。あくまで個人として国に頼らず強くあれというのが本書の結論であり、一貫して明るいメッセージである。



以下、興味深かったポイント。

・「維新の志士」にあこがれて時代を明治維新にたとえる政治家も多いが、現在は既存価値体系が一挙に崩壊した室町末期から戦国に至る状況に近い。逆に言えば、実力のある強者にとっては刺激的で面白い時代。


(以下引用)

日本の国家の仕組みは、きわめて「家父長的」です。(中略)国民を依存度の高い「幼児」に保っておくことが、国家にとっては都合が良かったわけです。「幼児」に対して「安心」を提供することで統治してきたのが日本でした(リスクがゼロということはありえないので、その安心も幻想ですが)。


一億全ての国民が安心を求め、だからといって負担増は嫌う無責任社会が到来しているようです。これは「弱者」という名のモンスターの登場です。(中略)この弱者という概念を獲得した既得権益が、自他の区別なく複雑に絡み合った菌系ように社会を覆い尽くしている。今の日本社会はそんな状態です。


家父長的家制度は「自分は弱者だ」と主張する人間を再生産する元凶です。責任感や判断能力という、グローバル化した時代に必須の能力を個人から奪う、きわめてアナクロ(時代錯誤)な仕組みといえます。


優秀な人間が高い給料をもらって、35年かけて使い物にならなくなるというのが日本の銀行ではないでしょうか。


私たちに必要なのは、選択肢を広げるために自らリスクをとって選択することです。(中略)変化する時代に「選択しないこと」「行動しないこと」は、なによりも避けなくてはならない最大のリスクです。


あわせて読みたい

「日本経済」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    北朝鮮は米空母に手も足も出ない

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  2. 2

    軍部で金正恩氏を嘲笑する風潮?

    高英起

  3. 3

    格安SIM「FREETEL」に行政指導

    S-MAX

  4. 4

    Amazonで大「中華詐欺」が勃発中

    永江一石

  5. 5

    創価学会と公明の荒れた内部事情

    週刊金曜日編集部

  6. 6

    Amazonで詐欺を回避する方法

    S-MAX

  7. 7

    今村氏後任の吉野氏は"超"真面目

    早川忠孝

  8. 8

    参考人招致は実のある議論だった

    小林よしのり

  9. 9

    二階氏発言が示した自民のゆるみ

    大串博志

  10. 10

    なぜ日本のニュースは媚びるのか

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。