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人工知能は幸福で息苦しくなるような刹那の夢を見るか?〜NHKスペシャル「NEXT WORLD」を見て。



NHKスペシャル NEXT WORLD 私たちの未来 第1回「未来はどこまで予測できるのか」をオンデマンドで見た。ご覧になったかたも多いと思うが、番組の説明によると、
コンピューターの計算能力の爆発的な発達で、未来予測の精度は飛躍的に高まり、 仕事から消費行動、犯罪の防止、さらには人生の進路まで、人工知能に選択肢が提示される社会が到来しつつある。
未来予測がビジネスのツールとしてだけでなく、個人の生活にも入り込んだ時、私たちは、幸福のために、どう使っていけばいいのか。(文章一部著者改変)
とある。

アバター達が参加する未来のライブ、という設定でのサカナクションのライブで幕を開ける。会場に生身の客は誰もおらず、遠隔からのアバターでの参加というわけだ。登場するアバターは、実際に視聴者がweb上でつくったという仕掛け。「NEXT WORLD」特設サイトのSYMPHONYというところでつくって登録することができる(開発はライゾマティクス)。

その後は現実の取材と、30年後の2045年という設定のドラマが交互に進んでいき、おもしろい。神木隆之介くんがいいナビゲーターと役者ぶりを発揮していて、それもなかなか良い。

ドラマは極端にも見える構成で、身につけた人工知能の未来予測だよりにしか生きていけない人々が登場し、神木くん演じる主人公が「人間にしかできないことって、なんだろう。難しいな」という。

見どころはたくさんあったのだけれど、私には、実際の取材で登場した、無名のアメリカ人女性シンガーソングライターの話がもっとも印象的だった。

彼女は、ヒット曲予測システムが高得点をたたき出した曲をつくったことで音楽番組への出演がかなうが、次の出演のために新曲をつくってもつくっても人工知能はいい点数をつけてくれない。

人工知能は、どんな曲をつくると高得点が出るのかは教えてくれないからだ。

行き詰まって悩む彼女。そこで、同じ人工知能が高得点を出しているほかの人の歌を聴いてみたところ、心が揺さぶられたのだという。

そうだ、歌を聴いてくれるのは同じ人間なんだと気づき、「心」という原点に立ち戻ることにした——という話。果たして、彼女が心に意識を置いてつくった歌に、人工知能は高得点をつけた。

余談だが、この”ヒット曲予測システム”を使っている会社はNHKなので当然、名称は出てこないけれど、ちゃんと目をこらすとロゴが見えるので会社名がわかる。同じようなことを考える人はいるもので、このMusic Xrayという会社のことを調べてさっそくブログに書いている人がいらっしゃった。

人工知能が予測する音楽サービスMusic Xray(HepHep!)

さて、ここで「人間にしかできないことって、なんだろう」という問いに戻ろう。

サービスや医療などの分野で人工知能に未来予測をさせて便利な世の中にしていく、というのは大歓迎だけれど(もともと"テクノロジーがひらく可能性"におおいに興味があるし進んで受け入れていくつもりだし)、しかし、こと人に至っては、先も見えず予測がつかないからこそ物語が生まれ、悲しみも喜びも含めて人生が豊かになるのではないかな、という気がする。

最初から、この人とは結婚の確立ゼロだよといわれればその人とはおつきあいしないだろうか? 大好きでも?

最初から、この人とは最後に大きなケンカ別れをするよといわれれば、その人とは友達にはならないだろうか? どんなに気が合っても?

人工知能は、おそらく、"終わり”までの道のりに起こることまでは予測してくれない。幸福で息苦しくなるような刹那や、何も考えなくていいほど安心できて深く眠る時間、身を切るようにつらい涙を流す出来事や、しみじみと想い出を語り合う時、未来を夢見てともにワクワクする日々のことなどは。

その瞬間、瞬間こそが貴いのだ。

だって、人はいつか死ぬんだもの。それだけは、人工知能じゃなくたって、私たちみんなが予測できる事実。でもそれはいつかはわからないのが人生という物語。

だから、心という原点に立ち返り、立ち返りしつつ、生きていくのが素敵なんじゃないかなと思った。それが「人間にしかできないこと」なんじゃないかなと。

追記:この番組と連動して『WIRED』が「BEYOND NEXT WORLD〜『次なる世界』からの証言」と題するコラボサイトを公開しているが、これが実にカッコいい。コンテンツメーカーとしては、こんな仕事がしたいなあ、と思ったところでもある。

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