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「売上が震災前まで回復」した被災地企業は、わずか40%。被災地の産業復興に、民間のマーケティングノウハウは活かせるか

東日本大震災の発生から、来年の3月11日で丸4年となる。震災は、岩手・宮城・福島などの地域に大きなダメージを与え、「地方と都市部」の格差をさらに広げてしまった。一方、2014年の東京で、震災の爪あとを目にすることはほとんどなく、被災地への“想像力”が必要とされる機会は失われつつある。

こうした現状を乗り越えようとする試みが、ないわけではない。たとえば「WORK FOR 東北」(復興庁・日本財団の共催)は、被災地の自治体で求められている人材ニーズと、意欲のある企業・個人をマッチングし、1~2年程度、被災地へ人材を派遣するプロジェクトだ。東京から派遣された社員たちは、東北での体験を自らの所属企業へと持ち帰り、「地方への想像力」をビジネスにつなげる。先日行われた「WORKFOR 東北」の企業向け説明会では、体験者の声を聞くことができた。

「売上が震災前まで回復」した被災地企業は、わずか40% 

「WORKFOR 東北」セミナーの様子
被災地の復興状況は「まだら模様」だ。復興庁の資料によると、災害廃棄物の処理や、下水道施設、学校、病院などの整備は99%が「完了」している。一方、現在の売上状況が震災直前の水準以上まで「回復している」とした企業の割合は、40.3%と半数に満たない。業種別では、売上が回復している割合が最も高いのは建設業(71.5%)、次いで運送業(48.3%)。最も低いのは、水産・食品加工業(19.4%)、次いで卸小売・サービス業(31.8%)となっている。総じて、インフラは回復したものの、産業、それも水産や小売業の状況が厳しいことが分かる。

復興庁の岡本全勝統括官は、スピーチで、「復興にはインフラ、産業、コミュニティの3つが大切だ。特に『産業』の復興には、人材の育成が最も重要。上から目線の押し付けではなく、人材の育成を加速化しなければならない」と述べた。

よそ者だからこそ、「中長期的な視点」で考えることができる

「WORKFOR 東北」ではこれまでに、60名を超える人材を被災地に派遣してきた。現在、募集中の案件をみると、インフラというよりは、産業やコミュニティの復興にかかわるものが目立つ。たとえば岩手県の農林水産部が出している募集要項は、マーケティング知識をもつ人に来てもらい、「県産農林水産物の販路拡大」に取り組んで欲しいとの内容だ。農林水産物の風評被害から抜け出せない現状を、民間のマーケティングノウハウで解決したいとの思いがある。

NECの山本啓一郎さん(1976年生まれ)は、今年4月、2年間の赴任を終えて東京に戻った。大手企業と被災地の企業をつなぎ、さまざまな支援策を提供してもらう事業「結の場」の運営に関わり、現在は復興庁に出向している。

「赴任した当初は、方言も分からなかったし、被災地の方々に『産業の復興』を訴えても、『まだインフラも整っていないのに、産業の復興どころではない』と言われてしまった」(NEC、山本さん)

それでも2日に1度のペースで関係者のもとへ通い続け、「産業を復興させることの重要性」を説いた。「よそ者」だからこそ、中長期的な視点で、地元の利益を考えることができたのだろう。

被災地の自治体に育ててもらっている

社員3名を派遣している㈱リクルートライフスタイルでは、特に観光支援に取り組んでいる。

「被災地の状況は良くなっているが、前向きな情報は、なかなか流れてこない。風評被害が観光産業に影を落としている。当社の強みである『じゃらん』『ホットペッパー』などのコンテンツで、旅行支援に力を入れています」

「派遣している社員3人の仕事は、10%が『本社と被災地をつなぐパイプライン』、90%が『ビジネスパーソンとしての成長』です。3人のうち、1人は仮設住宅で暮らしているのですが、被災地の状況を知る彼の発言には重みがある。被災地の自治体に育ててもらっているのです。彼の提案に『NO』は言えない」(㈱リクルートライフスタイル、北村吉弘代表取締役社長)

 被災地に赴任中の、TOTO㈱山中さん
TOTO株式会社から福島県双葉町へ派遣されている山中啓稔さんは、40代なかば。家族の了承を得て、この4月から赴任中だ。

「入社してから、IT部門で6年、販売で14年、法務で4年働いてきました。これまでの経験をふまえ、うまく次のフェーズに行きたいと思って赴任しました。まだ成果は目に見えていませんが、それでもこうやって『悩むこと』自体が経験になっていると感じる。この経験を、手応えにしてゆきたい」(TOTO㈱、山中さん)

復興=「前より立派な公共施設を作ること」ではない!

こうした民間企業からの人材受入れを、被災地はどう受け止めているのか。石巻市副市長の笹野健氏が、熱弁を振るった。

「来てくれた人たちは、1~3年で東京へ帰ってしまう。すぐには成果は出ませんが、長期的にみればきっと、成果は出ていると感じます」

「復興とは何なのか。前より立派な公共施設を作ることではないですよね。それは、被災者も分かっているんです。復興の本質は、人様にお世話にならなくても回っていく『コミュニティ』を取り戻すことなんです」

「あまり知られていないのですが、広島の牡蠣のタネガキは、多くが宮城県産です。博多の明太子も、もとの6割はうちが提供している。こんなに豊富な水産資源があるのに、われわれは『どうやって売るか』を考えてこなかった。外部の人たちから、『考えなきゃダメでしょう』と言われて、『売る』ことへの意識は確実に変わり始めています」(石巻市副市長、笹野氏)

そろそろ「被災地がノウハウを身に付けなければならない段階」

被災地の復興は、新しいフェーズに入っている。インフラはおおよそ完成し、被災3県における人口の社会増減率は、被害の大きかった沿岸市町村でも震災前の水準に戻りつつある。これからは、いかに「地元が復興のノウハウを身につけていくか」が課題になっているのだ。

ビジネスの知見や、コミュニティ再興ノウハウの獲得。これは被災地にかぎらず、人口減少や産業の空洞化に悩む地方が「サバイブ」していくにあたり、共通の課題だろう。その際、石巻市副市長が述べたように、「企業によりそって頂けることは、大きな助けになる」。民間企業が被災地に提供できる最も大きな「支援」とは、官にはない「ビジネスノウハウの提供」である。というか、寄付を除けば、それ以外ないだろう。。見返りとしては、派遣企業の多くが実感している「自社社員の成長」が得られる。社員数名を被災地に派遣しているKDDI㈱の菅野養一理事・東北総支社長は、次のように述べた。

「被災地へ赴いた社員の成長は目覚ましい。被災地の自治体と仕事をして得られたノウハウは、将来、別の自治体と仕事をする際にも役立つ。『WORK FOR 東北』を通して、全国的な地方の課題を、今から把握していくことも可能だと思う」

地方と都市部の格差がますます広がる中、「WORK FOR 東北」のような試みが広まっていくことは、大きな可能性を秘めている。「東京」だけで固まっていては、イノベーションを起こすことは難しい。「地方」への想像力を「都市部」が取り戻すためにも、こうした取り組みが全国的に広まればよいと思う。地方への想像力はきっと、お金には代えられない価値を生むからだ。(了)

(取材協力:日本財団)

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