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「ヘイトスピーチ―社会も問われている」(朝日社説)〜本件に関する日本のマスメディアの「正論」には、つくづく辟易する

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 最高裁は9日、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の会員らによるヘイトスピーチ(差別的憎悪表現)をめぐる訴訟で、在特会側の上告を退けた決定をいたしました。

 10日付け朝日新聞記事から。

ヘイトスピーチは人種差別 在特会側への賠償命令確定

西山貴章

2014年12月10日21時19分

 「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の会員らによるヘイトスピーチ(差別的憎悪表現)を人種差別と認め、在特会側に計約1226万円の賠償と街宣活動の差し止めを命じた今年7月の大阪高裁判決が確定した。最高裁第三小法廷(山崎敏充裁判長)が9日付の決定で、在特会側の上告を退けた。

 ヘイトスピーチを、日本も加入する人種差別撤廃条約が禁じる「人種差別」と認定し、高額賠償を命じた判決が確定したことは、全国で繰り広げられる在日朝鮮人らへの差別的な活動に一定の歯止めになるとみられる。法規制の議論にも影響を与えそうだ。

(後略)

http://www.asahi.com/articles/ASGDB4W6BGDBUTIL01X.html

 これを受けて朝日新聞社会面では大きく学校側の声や識者の意見を掲げています。

学校側「画期的な一歩」 ヘイトスピーチ訴訟、歯止めに期待

2014年12月11日05時00分

 「画期的な一歩です」。京都朝鮮第一初級学校(現・京都朝鮮初級学校)の関係者はほっとした表情を浮かべた。「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の会員らによるヘイトスピーチ(差別的憎悪表現)をめぐる訴訟で、在特会側の上告を退けた最高裁決定。絶えないヘイトスピーチの歯止めになり得る司法の判断に、関係者は期待を寄せている。▼1面参照

 決定を受け、京都朝鮮初級学校を運営する京都朝鮮学園の柴松枝(シソンジ)理事(72)らは10日夕、京都市内で急きょ記者会見を開いた。柴理事は「全国の朝鮮学校を守る重要な足がかりになることが期待されます」と述べた。会見には、演説時に長女が幼稚園の年長だった保護者の金秀煥(キムスファン)さん(38)も参加。「ヘイトスピーチはいけない、という社会風土がつくられてほしい」と語った。

 ヘイトスピーチをめぐって、別の訴訟を起こしているフリーライターも最高裁決定を評価する。在日朝鮮人の李信恵(リシネ)さん(43)は「ライターとして、表現の自由の大切さは分かる。だけど、『死ね』『殺せ』という言葉をまき散らすのは暴力。決定を機に法規制を実現させてほしい」と求めた。

 ヘイトスピーチの余波が政治家に向かうこともある。東京都の舛添要一知事は8月、安倍晋三首相と面会し、「人権に対する挑戦。五輪を控えた東京でまかり通るのは恥ずかしい」と法規制を要望した。都によると、その頃から、都庁周辺で、韓国寄りの政策だと批判する街宣活動が増えはじめたという。

(後略)

http://www.asahi.com/articles/DA3S11500808.html

 五野井郁夫・高千穂大准教授(政治学)はこの判決が「私たち一人一人が、マイノリティー差別の根絶に取り組むきっかけになればいい」と評価しています。

 ■差別の根絶へ

 五野井郁夫・高千穂大准教授(政治学)の話 ヘイトスピーチは差別であり、日本国民は排外主義を許さないことを司法が示した点で画期的だ。傷つけられた当事者の心の救済が図られたことが何よりよかった。ここ2、3年、在特会による許せない罵詈雑言(ばりぞうごん)が放置されてきたが、市民から反対の声があがり、メディアが取り上げ、政治家も動き始めた。最後に司法が「差別」と判断した。私たち一人一人が、マイノリティー差別の根絶に取り組むきっかけになればいい。

 また師岡康子弁護士は「今回の判断で状況が直ちに改善されるわけでなく、新たな法整備が急務」とヘイトスピーチに対するさらなる法規制を求めています。

 ■法整備が急務

 ヘイトスピーチ問題に取り組む師岡康子弁護士の話 ヘイトスピーチは表現の自由として保護されない、とした判決が確定したことの意義は大きい。差別という本質に照らして断罪した点も意味がある。今後のヘイトスピーチ裁判のモデルになるのではないか。ただし、今なお京都の朝鮮学校の方々は不安を抱えている。在特会は7日にも京都市内で「朝鮮人を殺せ」と叫ぶデモを行った。今回の判断で状況が直ちに改善されるわけでなく、新たな法整備が急務だ。

 一方日本政府ですが、世耕弘成官房副長官がこの判決を「いわゆるヘイトスピーチ(憎悪表現)とされる言動について、民事的な救済が図られ得るということが示された」と評価するコメントを発表します。

「民事救済図られ得る」最高裁決定を評価 京都朝鮮学園へのヘイトスピーチで世耕官房副長官

 世耕弘成官房副長官は11日の記者会見で、京都朝鮮学園周辺での街宣活動をめぐり「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の上告を退けた最高裁決定に関し「いわゆるヘイトスピーチ(憎悪表現)とされる言動について、民事的な救済が図られ得るということが示された」と評価した。

 刑事罰の対象外となるヘイトスピーチの規制については「言論や表現の自由との関係で難しい問題もある。国会での各党の検討や、国民的な議論の深まりを踏まえて考えていくことになる」と指摘。「政府は(ヘイトスピーチを)認めていないということを強力に発信していきたい」と強調した。

http://www.sankei.com/west/news/141211/wst1412110041-n1.html

 ただしヘイトスピーチのさらなる法規制については「言論や表現の自由との関係で難しい問題もある。国会での各党の検討や、国民的な議論の深まりを踏まえて考えていくことになる」と慎重です。

 さて翌12日、朝日・読売・毎日・産経・日経主要紙の中ではただ一紙、朝日新聞が社説にて本件を取り上げます。

ヘイトスピーチ―社会も問われている

2014年12月12日(金)付

http://www.asahi.com/paper/editorial2.html

 社説は冒頭で、まず今回の判決を「「排外主義は認めない」という世界共通の価値観を、日本の司法も共有する姿勢の表れとみるべき」と評価しています。

 京都市の朝鮮学校に対し、差別的言動を繰り返した「在日特権を許さない市民の会」(在特会)によるヘイトスピーチ(憎悪表現)について、「人種差別」と断じた大阪高裁の判決が最高裁で確定した。在特会側には、計1200万円を超す高額賠償金を支払う義務が生じる。

 最高裁は、「表現の自由の範囲内」とする在特会側の主張を退け、「主眼は在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴えることにあった」と認定した高裁判断を支持した。「排外主義は認めない」という世界共通の価値観を、日本の司法も共有する姿勢の表れとみるべきだ。

 在特会のスピーチは「子どもたちの恐怖や精神的な被害は極めて大きく、もはや暴力とさえいえるレベル」と断罪します。

 在特会は朝鮮学校の周辺で拡声機や街宣車を使い、「朝鮮半島へ帰れ」などと聞くにたえない言葉を投げつけた。子どもたちの恐怖や精神的な被害は極めて大きく、もはや暴力とさえいえるレベルだった。

 今回の裁判では、在特会による朝鮮学校へのヘイトスピーチという特定の行為について賠償責任を認定し、日本も加盟する人種差別撤廃条約に照らして賠償額を引き上げた。一方で、ヘイトスピーチ一般について判断が示されたわけではない。

 「日本にはヘイトスピーチを直接取り締まる法律はない」と指摘、「ドイツやフランスには、ヘイトスピーチや差別を先導する発言そのものを規制する法律がある。日本でも議員立法をめざす動きも出ている」と解説します。

 それでも、人種差別を伴う罵声に高額の賠償を命じられるという司法判断が定着した意義は大きい。

 一方的な攻撃にさらされても声を上げられなかった被害者にとっては心強いだろう。これを機に、ヘイトスピーチを繰り返している団体は、人権侵害を伴うような街宣行為をきっぱりとやめるべきだ。

 日本にはヘイトスピーチを直接取り締まる法律はない。ドイツやフランスには、ヘイトスピーチや差別を先導する発言そのものを規制する法律がある。日本でも議員立法をめざす動きも出ている。

 差別を許さない社会をめざすのは当然だが、表現の自由との兼ね合いもある。どこで線引きをするのかなど、詰めるべき点も少なくないだろう。

 社説は「ヘイトスピーチを伴うデモや街宣は、」「地方に拡散している」、「ネット上では、外国人に対する憎悪の言葉が飛び交っている」と警鐘を鳴らしつつ、「ヘイトスピーチがなくならないのは、この国の社会に存在する隠れた差別感情の表出だと言えないだろうか。問われているのは私たち自身でもある。」と結ばれています。

 気がかりなのは「ヘイトスピーチを許さない」という社会的な合意が十分できているとは言い難いことだ。

 市民グループの調査では、ヘイトスピーチを伴うデモや街宣は、昨年1年間で360件以上あった。しかも地方に拡散しているという。ネット上では、外国人に対する憎悪の言葉が飛び交っている。

 ヘイトスピーチがなくならないのは、この国の社会に存在する隠れた差別感情の表出だと言えないだろうか。問われているのは私たち自身でもある。

 ・・・

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