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加工処理しきれない大量のサバを漁獲してしまう日本 資源管理も地方創生の機会も台無しに - 片野 歩

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船の大きさを制限する日本

 日本の場合は、船が大きくなると、漁獲能力が増し、それだけ魚をたくさん獲ってしまう可能性があることから、大きさを制限しているようですが、次の2枚の写真を見て考えてください。船の大きさが資源に影響を与えているかどうかが分かります。


(左)作業が大変な日本のサバ水揚げ光景(撮影:青木信之)

(右)ノルウェーでのデンマーク船の水揚げ。全長86メートル。総トン数4,200トン。船の先端の方に見えるホースで水揚げが楽に行われています。乗組員は僅か6名。船員は約12名で、航海により交代制。一時間に50トン程度は楽に水揚げ可能。日本の水揚げとは作業時間と労働量が異なる。デンマーク船も個別割当(ITQ)


 左は銚子での水揚げ光景、右はノルウェーで水揚げしているデンマークの漁船です。左は20年以上前と変わらない光景です。右の漁船では、奥の方にあるポンプで、魚が一時間に50トン程度、鮮度を保ったまま吸い上げられていきます。20年以上前は、船も日本と変わらず、同じように網で水揚げしていました。しかも、このデンマーク船の中(下写真)は客船並に奇麗で、船内には靴を脱いで入ります。船にはジムがあったり、ロビーも豪華です。船長が、写真の魚探は5キロ先の魚も見つけられるのだと自慢気に説明してくれましたが、その機械は日本製でした。


豪華な船内。これが漁船。中には靴を脱いで入ります。船長ご自慢の船内の魚探やレーダーは日本製。良くみると日本語で表示されている。


デンマーク船内のジム。作業が楽で、運動が必要なのか?と思うくらいしっかりした設備

 日本の漁業は働く環境が厳しく、収入もあまり多くないので、若い人にとって魅力がない産業と映るのでしょう。一方、北欧では、船ひとつとっても分かるように、労働環境も良く収入も多いので、日本のような漁業者の高齢化や後継者不足の問題は起きていません。

 この漁船は全長46メートルで総トン数4,200トン。2014年の4月に完成した新船です。以前の船は2008年の建造でしたが売却したそうです。船員は6名で撮影時に乗っていない船員があと約6名いて、交代で船に乗るとのこと。以前の船も、この漁船も、乗組員の数は変わらず、船だけが巨大になっています。もちろんデンマークも個別割当制度です(ITQ)。

 日本のような水揚げ規制で、例えば操業を1日ごとにした場合でも、1日休んで翌日2日分獲ってしまえば意味がありません。船が小さくても、それぞれの漁船の漁獲能力が向上していけば、魚は減っていってしまいます。要は、資源管理のためには、船の大きさが問題なのではなく、資源が今どれだけあって、どの位まで獲っても今後資源が持続的(サステイナブル)になるのかを分析し、その数量を漁獲枠(TAC)として設定し、さらに個別割当にしていくことがポイントなのです。

 日本の場合は、科学的な根拠に基づく厳格な資源管理が実施される仕組みができているとは言い難いために、大型船は水産資源にとって脅威となっているのです。実際に、今の日本の資源管理体制で、大型の巻網船が増えれば、資源枯渇を加速させてしまうだけで、非常に危険です。仮に大型巻き網船が資源を悪化させ元凶であるのならば、なぜ大型巻き網の新造船がどんどん建造されている北欧の資源管理がうまくいって、漁業が成長産業になっているのか考えてみるとよいでしょう。

海外から「stupid」と言われる日本の漁業

 日本とノルウェーのサバの生産現場を比較すると、その大変さと無駄が浮き彫りになります。

(1)ノルウェーでは船が沖合にいる時点でオークションにかけられます。前日には翌日仕事があるかないかわかっていますので準備が楽です。日本では朝水揚げ現場でセリがあり、魚が買えたら大急ぎで人を集めねばなりません。

(2)ノルウェー漁船は獲れた魚のサイズや数量を正確に報告します。魚を見ないでオークションが行われるので、間違った報告は信用がなくなり、入札価格にも響きます。申告より小さい場合は値引きが行われます。日本の場合は、自分の目で見て買い手が判断します。失敗は許されません。

(3)ノルウェーでは、資源管理がしっかりしているので、中長期的な視点で毎年設備投資を行ってきました。このため1日で700トン以上処理できる巨大工場がいくつも出来上がっています。自動化が進み、処理が早くなり、労働環境が改善されてきました。日本は、はっきり言って資源管理がしっかりしていないので、投資に対しては短期的に回収しようとします。このため、何でもいいから、とにかく水揚げして欲しいという要求が強くなります。漁船も個別割当ではないためたくさん獲りたいので、結果的に思惑が一致してしまいますが、お互いに将来性はありません。悪循環が続いてしまいます。

 一方ノルウェーでは、24時間更新で水揚げ情報がインターネットでオープンになっています。日本では、このデジタル社会に、手書きで情報が提供されることがあります。また、水揚げ数量の集計も極端に遅く、全体像がなかなかわかりません。

 これまで日本の資源管理制度を世界中の関係者に、サバを例にして説明してきました。様々な反響がありましたが、アイスランドでは、驚きのあまり同じ内容をマスコミに話して欲しいと言われ新聞記事になったこともありました。また、ノルウェーの漁業関係者に、正直に日本の管理をどう思うか聞いたことがあります。その答えは「stupid(愚か)」というものでした。残念ながら、両国の資源管理の実態を知るものに取って、この言葉通りだと言わざるを得ません。現実と向き合い、手遅れになる前に、漁業者と水産業を守るため、世界の成功例から事実を基に、良い部分を日本に取り入れねばなりません。

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